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平成13年門審第103号
件名

漁船第三光久丸貨物船チュン ハク衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年2月27日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(西村敏和、原 清澄、橋本 學)

理事官
長浜義昭

受審人
A 職名:第三光久丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
光久丸・・・船首部を大破、船長が頭部打撲、乗組員1人が頸肩腕症候群
チュンハク・・・右舷船首部に擦過傷

原因
チュンハク・・・動静監視不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
光久丸・・・動静監視不十分、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、チュン ハクが、動静監視不十分で、前路を左方に横切る第三光久丸の進路を避けなかったことによって発生したが、第三光久丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年8月9日20時40分
 長崎県対馬東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第三光久丸 貨物船チュン ハク
総トン数 17.41トン 2,598トン
全長   97.54メートル
登録長 16.00メートル  
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 330キロワット 1,912キロワット

3 事実の経過
 第三光久丸(以下「光久丸」という。)は、はえ縄漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか2人が乗り組み、操業の目的で、船首0.5メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成12年8月5日20時00分山口県萩漁港を発し、長崎県対馬東方の漁場に向かった。
 翌6日05時40分A受審人は、対馬東方約20海里の漁場に到着してあまだいはえ縄漁の操業を始め、毎日早朝から日没ごろまで1日に3回の投揚縄を繰り返し、夜間は翌日操業予定の漁場に移動して錨泊する操業形態を採って操業を続けた。
 同月9日05時00分A受審人は、対馬比田勝港の東北東方約20海里の漁場において操業を始め、18時00分同日の操業を終え、漁獲物の整理などを行った後、19時30分同漁場を発進し、舵輪の後方に置いた台に腰を掛けて操船に当たり、法定の灯火を表示し、レーダーを3海里レンジとして作動させ、翌日操業予定の南方約12海里の漁場に向けて移動を始め、同時35分尉殿埼灯台から072度(真方位、以下同じ。)20.4海里の地点において、針路を181度に定め、機関を回転数毎分1,200にかけ、7.7ノットの対地速力で、自動操舵によって進行した。
 A受審人は、前方の広い範囲にわたり、集魚灯を点灯して操業中のいか釣漁船が多数漂泊しているのを認め、船首浮上による死角(以下「船首死角」という。)を生じていなかったものの、波浪による船首の上下動に伴って生じる船首死角により、小型漁船などを見落とすおそれがあったので、時折台の上に立ち、操舵室の天井に設けた見張り用の天窓から見張りを行いながら操船に当たった。
 20時32分A受審人は、尉殿埼灯台から093度19.2海里の地点において、台の上に立って天窓から周囲の状況を確認したところ、左舷船首41度2.0海里のところにチュン ハクの白、白、緑3灯を初めて視認し、同船が前路を右方に横切り、衝突のおそれのある態勢で接近していることを認めたが、そのうち避航船である同船の方が自船の進路を避けるものと思い、台から降りてこれに腰を掛け、操舵室左舷側にあるGPSプロッタにより船位を確認しながら続航した。
 20時36分A受審人は、尉殿埼灯台から094.5度19.3海里の地点において、台の上に立ってチュン ハクの動静を確認したところ、同船が自船の進路を避けないまま、同方位1.0海里のところに接近していたので、自船の存在に気付いて進路を避けるよう、汽笛を吹鳴して注意喚起信号を行った後、再び台に腰を掛け、左後方を向いてGPSプロッタにより錨泊予定地点までの距離などを確認しながら進行した。
 こうして、A受審人は、チュン ハクに対して注意喚起信号を行ったので、同船が自船の存在に気付いて進路を避けるものと思い、その後、目視によるなり、レーダーを有効に活用するなどして、同船に対する動静監視を十分に行わなかったので、同船が自船の進路を避けないまま接近していることに気付かず、警告信号を行うことも、衝突を避けるための協力動作をとることもせずに続航し、20時40分わずか前台の上に立ったところ、左舷船首至近に迫ったチュ ハクを認めて衝突の危険を感じ、機関を後進にかけたが、効なく、20時40分尉殿埼灯台から096度19.3海里の地点において、光久丸は、原針路、原速力のまま、その船首部が、左転中のチュン ハクの右舷前部に前方から86度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力3の北東風が吹き、視界は良好であった。
 A受審人は、チュン ハクがその場で停船しなかったので、損傷状況を確認した後、同船の追尾を開始した。
 また、チュン ハクは、大韓民国、中華人民共和国及び本邦間の定期航路に就航する船尾船橋型の鋼製貨物船で、船長N及び二等航海士Kほか14人(大韓民国籍10人及びインドネシア共和国籍4人)が乗り組み、コンテナなど508トンを積載し、船首2.80メートル船尾4.20メートルの喫水をもって、同月9日14時10分関門港を発し、大韓民国釜山港に向かった。
 N船長は、船橋当直を自らと2人の航海士による4時間交替の3直制として各直に操舵手1人を就け、自ら操船の指揮を執って関門海峡を通峡した後、16時00分一等航海士に船橋当直を委ねて(ゆだねて)降橋した。
 20時00分K二等航海士は、尉殿埼灯台から103度26.1海里の地点において、一等航海士から船橋当直を引き継ぎ、甲板長Sを見張りに就け、法定の灯火を表示し、レーダーを6海里レンジとして作動させ、前直から引き続いて針路を303度に定め、機関を回転数毎分230の全速力前進にかけ、11.0ノットの対地速力で、自動操舵によって進行した。
 K二等航海士は、前方の広い範囲にわたり、集魚灯を点灯して操業中のいか釣漁船が多数漂泊しているのを認め、各漁船の間を通過しようとしていたところ、20時32分尉殿埼灯台から097度20.7海里の地点において、右舷船首17度2.0海里のところに、光久丸の白、紅2灯を初めて視認し、同船も他の漁船と同様に漂泊しているものと思い、光久丸との距離をもう少し隔てて通過するつもりで、S甲板長を手動操舵に就け、針路を293度に転じて進行した。
 20時35分K二等航海士は、尉殿埼灯台から097度20.2海里の地点において、双眼鏡及びレーダーにより、右舷船首27度1.3海里のところに接近した光久丸が、前路を左方に横切る態勢で南下していることを知ったが、針路を10度左に転じたので、同船の前路を通過できるものと思い、その後は周囲に散在しているいか釣漁船に気を取られ、光久丸に対する動静監視を十分に行わなかったので、同船の方位に変化がなく、衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、同船の進路を避けずに続航した。
 こうして、K二等航海士は、光久丸の進路を避けないまま進行し、20時39分半右舷船首至近に迫った光久丸を認めて衝突の危険を感じ、左舵30度をとったが、及ばず、チュン ハクは、左転中の船首が275度を向いたとき、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 チュン ハクは、衝突直後に一旦(いったん)機関を停止したものの、20時46分半機関を半速力前進にかけて目的地に向けたところ、間もなく光久丸が接近し、同時50分同船の求めに応じて停船した。
 N船長は、K二等航海士からの報告を受けて事故の発生を知り、停船後にA受審人と衝突した事実を確認した。
 衝突の結果、光久丸は、船首部を大破したが、のち修理され、チュン ハクは、右舷船首部に擦過傷を生じ、A受審人が頭部打撲などを負ったほか、光久丸の乗組員1人が頸肩腕症候群を負った。

(原因)
 本件衝突は、夜間、長崎県対馬東方海域において、両船が互いに進路を横切る態勢で接近中、チュン ハクが、動静監視不十分で、前路を左方に横切る第三光久丸の進路を避けなかったことによって発生したが、第三光久丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、長崎県対馬東方海域において、漁場を移動するため南下中、前路を右方に横切る態勢のチュン ハクを認めた場合、同船と衝突のおそれの有無について判断できるよう、目視によるなり、レーダーを有効に活用するなどして、同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、チュン ハクに対し、汽笛を吹鳴して注意喚起信号を行ったので、同船が自船の存在に気付いて進路を避けるものと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、チュン ハクが自船の進路を避けないまま衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、警告信号を行うことも、衝突を避けるための協力動作をとることもせずに進行して同船との衝突を招き、自船の船首部を大破し、チュン ハクの右舷船首部に擦過傷を生じさせ、自らが頭部打撲などを負ったほか、第三光久丸の乗組員1人に頸肩腕症候群を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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