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平成13年門審第77号
件名

漁船大喜丸漁船清丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年2月26日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(原 清澄、西村敏和、島 友二郎)

理事官
千手末年

受審人
A 職名:大喜丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
大喜丸・・・船首部に擦過傷
清丸・・・右舷中央部外板を圧壊、船長が死亡

原因
大喜丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
清丸・・・船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、大喜丸が、見張り不十分で、前路で漂泊中の清丸を避けなかったことによって発生したが、清丸が、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年2月23日08時20分
 鹿児島県片浦湾

2 船舶の要目
船種船名 漁船大喜丸 漁船清丸
総トン数 6.68トン 0.48トン
登録長 9.90メートル 3.60メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力 213キロワット 5キロワット

3 事実の経過
 大喜丸は、固定式さし網漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、ひらめを漁獲する目的で、船首0.63メートル船尾1.30メートルの喫水をもって、平成13年2月23日06時00分鹿児島県片浦漁港を発し、同港北方沖合の操業許可区域に向かった。
 ところで、A受審人は、固定式さし網漁を行うにあたっては、前日2箇所ないし3箇所に仕掛けたさし網を揚網し、ひらめが掛かっていればこれを外し、ごみなどは網ごと港まで持ち帰り、新たに同場所に予備のさし網を仕掛け、魚が掛かっていなければ他の海域に移動して仕掛けるようにしていた。また、同人は、航行中、速力が9ノットを超えると前路に死角を生じることから、必要に応じて天窓から顔を出し、周囲の見張りを行うようにしていた。
 A受審人は、06時30分ごろ漁場に至って操業を始め、08時05分少し過ぎ片浦港灯台から345度(真方位、以下同じ。)3.2海里の地点で、操業を終えたので帰港することにし、針路を171度に定め、機関を半速力前進にかけて9.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)とし、自動操舵により進行した。
 08時15分少し前A受審人は、片浦港灯台から340度1.8海里の地点に達したとき、天窓から顔を出して周囲の状況を確認したものの、正船首方1,400メートルのところで漂泊中の清丸に気付かず、前路に他船はいないものと思い、天窓から顔を引っ込め、操舵を手動に切り替えて続航した。
 08時18分A受審人は、片浦港灯台から336度1.3海里の地点に達したとき、正船首560メートルのところに漂泊中の清丸を視認でき、その後、同船と衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、右舷方に設置された定置網の浮子の潮流による流され模様に気を取られ、天窓から顔を出すなどして周囲の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、清丸を避けることなく進行した。
 大喜丸は、A受審人が前路で漂泊中の清丸に気付かないで、原針路、原速力のまま続航中、08時20分片浦港灯台から331.5度1,900メートルの地点において、その船首部が清丸の右舷中央部外板にほぼ直角に衝突した。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の初期にあたり、視界は良好であった。
 また、清丸は、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、船長Mが1人で乗り組み、磯釣りを行う息子1人を同乗させ、いとよりを釣る目的で、同日07時50分鹿児島県片浦漁港を発し、途中、08時00分ごろ同県立羽島の北端に寄せて息子を降ろしたのち、同時06分ごろ前示衝突地点に至り、機関を停止して漂泊し、釣りを始めた。
 M船長は、船体ほぼ中央部に2箇所設けた生け簀(す)の、左舷側の生け簀のハッチに腰を掛け、船尾を向いて手釣りを行っていたところ、08時18分船首がほぼ260度に向いていたとき、右舷正横560メートルのところに、自船に向首接近する大喜丸を視認でき、その後、衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、これに気付かず、釣りに熱中し、衝突を避けるための措置をとることもなく釣りを続けた。
 清丸は、M船長が大喜丸の接近に気付かないまま、魚を釣っていたところ、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、大喜丸は、船首部に擦過傷を、清丸は、右舷中央部外板を圧壊し、M船長(大正14年9月18日生、四級小型船舶操縦士免状受有)が衝突の衝撃で海中に投げ出され、A受審人がM船長に向けて救命浮環を投げたが、同人に届かず、間もなく海中に没して行方不明となり、のち遺体で発見された。

(原因)
 本件衝突は、鹿児島県片浦湾において、大喜丸が、見張り不十分で、漂泊中の清丸を避けなかったことによって発生したが、清丸が、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、鹿児島県片浦湾において、固定式さし網漁の操業を終えて帰港する場合、前路で漂泊中の清丸を見落とすことのないよう、天窓から顔を出すなどして周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、衝突する5分ほど前に天窓から顔を出して周囲の状況を確かめたとき、前路に清丸を認めなかったので、周囲に他船はいないものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路で漂泊中の清丸に気付かず、同船を避けることなく進行して同船との衝突を招き、清丸の右舷中央部外板を圧壊させ、M船長を溺死させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:23KB)





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