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平成13年門審第95号
件名

貨物船きび丸押船すぴなー被押バージすぴなー衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年2月19日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(佐和 明、米原健一、島 友二郎)

理事官
千手末年

受審人
A 職名:きび丸船長 海技免状:五級海技士(航海)旧就業範囲
B 職名:きび丸一等航海士 海技免状:五級海技士(航海)履歴限定
C 職名:すぴなー船長 海技免状:三級海技士(航海)
D 職名:すぴなー一等航海士 海技免状:五級海技士(航海)履歴限定

損害
きび丸・・・左舷錨爪に欠損
すぴなー・・・右舷船尾部に凹損

原因
きび丸・・・動静監視不十分、追い越しの航法(避航動作)不遵守(主因)
すぴなー・・・動静監視不十分、警告信号不履行、追い越しの航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、すぴなー被押バージすぴなーを追い越すきび丸が、動静監視不十分で、これを確実に追い越し、かつ、十分に遠ざかるまでその進路を避けなかったことによって発生したが、すぴなー被押バージすぴなーが、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Dを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年2月9日13時27分
 瀬戸内海周防灘北西部

2 船舶の要目
船種船名 貨物船きび丸
総トン数 290トン
全長 52.096メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 588キロワット

船種船名 押船すぴなー バージすぴなー
総トン数 134トン 約3,317トン
全長 25.61メートル 111.00メートル
  19.00メートル
深さ   6.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 2,942キロワット  

3 事実の経過
 きび丸は、主に関門港若松区で化学薬品を積載し、瀬戸内海各港への輸送に従事する船尾船橋型液体化学薬品ばら積船で、A及びB両受審人ほか3人が乗り組み、水酸化マグネシウム189トンを積み、船首2.60メートル船尾3.30メートルの喫水をもって、平成12年2月9日10時40分関門港若松区旭硝子工場専用岸壁を発し、山口県徳山下松港に向かった。
 A受審人は、発航操船ののち単独の船橋当直に就いて関門航路を東行し、11時40分ごろ昇橋してきた次直のB受審人が同航路や周防灘の航行に慣れているということで、引き続き在橋して操船の指揮を執らずに当直を交替し、降橋して自室で休息をとった。
 B受審人は、単独で当直に従事し、関門航路を出て下関南東水道の北側を航行して周防灘北部に向かい、12時56分本山灯標から290度(真方位、以下同じ。)7.7海里の地点に達したとき、針路をほぼ宇部港第1号灯浮標に向く111度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて9.5ノットの対地速力で進行した。
 そのころB受審人は、左舷船首10度1.5海里に、山口県小野田港の小野田航路を南下したのち、東行する態勢となったすぴなー被押バージすぴなー(以下、押船すぴなーを「すぴなー」、被押バージすぴなーを「バージすぴなー」、両船を総称するときは「すぴなー押船列」という。)を初めて視認し、同押船列を追い越す態勢で接近していることを知った。
 13時17分B受審人は、本山灯標から289度4.4海里の地点に達し、すぴなー押船列を左舷船首3度850メートルに見るようになったとき、同押船列に近づくまでに、航海実績表に必要事項を記入しておくこととし、操舵室内後部の海図台のところで後方を向いて同作業を始めた。
 13時20分B受審人は、すぴなー押船列を正船首わずか右650メートルに認めるようになったが、記入作業に気を奪われて動静監視を十分に行わず、同押船列の接近模様を把握できないまま、大きく右転するなど、同押船列を確実に追い越し、かつ、十分に遠ざかるまでその進路を避けることなく、同一針路のまま続航した。
 13時26分半わずか過ぎB受審人は、すぴなーの吹鳴する汽笛音を聞いて振り向いたところ、船首至近にすぴなー押船列を認め、操舵スタンドのところに戻って機関を停止し、次いで操舵を手動に切り替えて右舵一杯をとったが、効なく、13時27分本山灯標から288度2.8海里の地点において、きび丸は、原針路、原速力のまま、その船首左舷側が、すぴなーの右舷船尾に後方から15度の角度をもって衝突した。
 当時、天候は晴で風力4の北西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期で、付近には微弱な東南東流があった。
 A受審人は、軽い衝撃と機関音の変化で衝突に気付き、昇橋して事後の措置に当たった。
 また、すぴなーは、非自航型石炭運搬用バージすぴなーと一体となり、瀬戸内海各港から小野田港の中国電力火力発電所への石炭輸送に従事する押船で、C及びD両受審人ほか3人が乗り組み、船首2.10メートル船尾4.20メートルの喫水をもって、空倉で船首2.05メートル船尾4.10メートルの喫水となった無人のバージすぴなーの船尾凹部に船首部を嵌合(かんごう)して全長約120メートルの押船列を構成し、同日12時30分小野田港を発して山口県宇部港に向かった。
 C受審人は、宇部港に至るまでの航海時間が短かったことから、同港入港まで単独で操船に当たることにして小野田航路を南下し、12時56分本山灯標から292度6.3海里の地点に達したとき、針路をほぼ同灯標に向首する117度に定め、入港時刻調整のため機関を微速力前進とし、6.7ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
 間もなくC受審人は、腹痛が始まり、やがてこれに耐えきれなくなり、船内電話でD受審人に当直の交替を要請し、13時17分本山灯標から289度3.9海里の地点に達したとき、昇橋してきた同受審人に対して、後方から2隻の同行船が追い越す態勢で接近していること、両船が自船を追い越したのち、宇部港に近づいたときは、とりあえず機関を停止しておくことなどを引き継いだうえ、降橋して便所に入った。
 D受審人は、交替時に船尾方向を確認したところ、右舷船尾8度850メートルに自船を追い越す態勢のきび丸と、左舷船尾方向に同じく自船を追い越す態勢の1隻の同行船を初認し、その後きび丸が徐々に自船の進路に寄せてくるように見えたので、同船との航過距離を保つため、13時20分同船が船尾方わずか右舷側650メートルに接近したとき、本山灯標から288.5度3.6海里の地点で、左舷側を追い越して行く他の同行船に気を付けながら針路を110度に転じて続航した。
 D受審人は、自船が針路を左に転じたうえ、きび丸が間もなく本山灯標付近の浅瀬を避けて針路を右に転じるものと思い、その後同船に対する動静監視を十分に行わず、左舷側を無難に追い越した他の同行船と前路の宇部航路入口から宇部港に入航しようとしている大型船の動向を見張っていた。
 こうして、D受審人は、きび丸が自船の進路を避ける措置をとらないまま、衝突のおそれがある態勢で接近していたが、依然動静監視不十分で、このことに気付かないで、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとることなく進行中、同時26分少し過ぎ改めて後方のきび丸の状態を確認したところ、同船の船首が後方約60メートルまで接近していることを認めた。
 不審を抱いたD受審人は、双眼鏡できび丸の操舵室の様子を確認したところ、当直員が後方を向いて海図台に向かっているのを認め、同時26分半わずか過ぎ汽笛で短音5回を吹鳴するとともに、操舵を手動に切り替えて左舵20度をとったが、及ばず、すぴなー押船列は、その船首が096度を向いたとき、前示のとおり衝突した。
 自船の汽笛の吹鳴音と機関音の変化で異状を知ったC受審人は、間もなく昇橋して事後の措置に当たった。
 衝突の結果、きび丸は、左舷錨爪に欠損を、同錨収納部のベルマウスに曲損を、押船すぴなーは、右舷船尾部に凹損をそれぞれ生じたが、いずれものち修理された。

(原因)
 本件衝突は、両船が周防灘北西部を東行中、すぴなー押船列を追い越すきび丸が、動静監視不十分で、同押船列を確実に追い越し、かつ、十分に遠ざかるまでその進路を避けなかったことによって発生したが、すぴなー押船列が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 B受審人は、単独で船橋当直に就いて周防灘北西部を東行中、前路において追い越す態勢で接近するすぴなー押船列を視認した場合、これを確実に追い越し、十分に遠ざかるまでその進路を避けることができるよう、その後の動静監視を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同受審人は、操舵室後部の海図台で後方を向いて運航実績表の記入に気を奪われ、同押船列に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、すぴなー押船列の接近模様を把握できないまま、同押船列を確実に追い越し、かつ、十分に遠ざかるまでその進路を避けることなく進行して同押船列との衝突を招き、きび丸の左舷錨爪に欠損を、同錨収納部ベルマウスに曲損を、すぴなーの右舷船尾部に凹損をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同受審人を戒告する。
 D受審人は、周防灘北西部を宇部港に向けて東行中、後方から2隻の同行船が接近中である旨の引き継ぎを受けて臨時に単独の船橋当直に就き、その後右舷後方から接近するきび丸との航過距離を保つために針路を左に転じた場合、その後も同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同受審人は、自船が針路を左に転じたうえ相手船も間もなく右転するので大丈夫と思い、同船の動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、その後同船が衝突のおそれがある態勢で接近することに気付かないで、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらずに同船との衝突を招き、前示のとおり両船に損傷を生じさせるに至った。
 以上のD受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同受審人を戒告する。
 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
 C受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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