日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成13年広審第95号
件名

引船天常丸引船列貨物船シルキーオーシャン衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年2月28日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(竹内伸二、西林 眞、横須賀勇一)

理事官
黒田敏幸

受審人
A 職名:天常丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
指定海難関係人
B 職名:シルキーオーシャン船長

損害
天常丸引船列・・・曳航索を切断
シ 号・・・右舷船首に破口
常石20号・・・左舷船首に亀裂

原因
シ 号・・・狭い水道の航法(右側通行)不遵守(主因)
天常丸引船列・・・操船信号及び警告信号不履行(一因)

主文

 本件衝突は、シルキーオーシャンが、狭い水道の右側端に寄って航行しなかったことによって発生したが、天常丸引船列が、操船信号及び警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年10月5日15時14分
 瀬戸内海 布刈瀬戸

2 船舶の要目
船種船名 引船天常丸 台船常石20号
総トン数 79トン 1,398トン
全長 25.50メートル 60.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 456キロワット  

船種船名 貨物船シルキーオーシャン
総トン数 26,049トン
全長 185.74メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 7,171キロワット

3 事実の経過
 天常丸は、主に瀬戸内海で台船などの引船業務に従事する鋼製引船で、A受審人ほか3人が乗り組み、船首2.0メートル船尾3.0メートルの喫水をもって、造船用船体ブロック等330トンを載せて喫水が船首尾とも0.7メートルとなった無人の非自航型鋼製台船常石20号を曳航し、平成12年10月5日14時55分因島北部の広島県重井港を発し、徳島県鳴門市に向かった。
 A受審人は、直径70ミリメートルのナイロンロープ25メートルと同26ミリメートルのワイヤロープ25メートルから成る長さ50メートルの曳航索を曳航用フックに係止し、天常丸の船尾から常石20号船尾までの距離が110メートルの引船列(以下「天常丸引船列」という。)を構成し、転針の際大きい舵角をとると曳航索が緊張して危険なことから、5ないし10度の小舵角と舵中央を繰り返しながらゆっくり回頭し、また行きあしを止める際には急に機関を後進にかけると惰力の大きい台船が船尾に衝突するおそれがあり、転針や停止には単独航行時より時間をかける必要があった。
 出航後A受審人は、法定形象物を表示し、甲板員を手動操舵にあたらせて因島、細島間の水路を通航し、15時00分大浜埼灯台から278度(真方位、以下同じ。)1.3海里の地点で、針路を068度に定め、機関を全速力前進にかけて6.0ノットの対地速力で進行し、同時06分同灯台から298度1,550メートルの地点に達したとき、因島大橋南方の右舷船首48度1.9海里に北上中のシルキーオーシャン(以下「シ号」という。)を初認し、同時07分同灯台から304度1,450メートルの地点で甲板員と交替して自ら操舵にあたり、後方に台船を引いているため大角度の転舵が困難で、曳航索に留意して5ないし10度の右舵と舵中央とを適宜繰り返しながら徐々に回頭を始めた。
 こうしてA受審人は、布刈瀬戸のほぼ中央をゆっくりと右転しながら南下し、15時11分四十島と布刈岩とがほぼ等距離となる、大浜埼灯台から323度830メートルの地点で、ほぼ因島大橋右側端灯に向首する130度に向いたとき、左舷船首5度1,300メートルとなったシ号が、因島大橋下を通過し、その後向島側に近寄らず自船の前路に向首する態勢で、汽笛を吹鳴し布刈瀬戸を斜航しながら大浜埼に接近するのを認めたが、そのうちに同船が右転して向島側に向けるものと思い、短音1回の操船信号に続いて警告信号を行うことなく右転を続け、15時14分大浜埼灯台から325度320メートルの地点において、天常丸は、原速力のまま145度に向首したとき、シ号船首が、天常丸船尾から約40メートル後方のところで曳航索に衝突し、次いで常石20号の左舷船首に前方から30度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で、風力1の南東風が吹き、潮候は上げ潮の末期にあたり、約1ノットの南東流があった。
 また、シ号は、船尾船橋型貨物船で、B指定海難関係人ほかフィリピン人船員19人が乗り組み、空倉のままバラストタンクに海水11,200トンを載せ、船首4.2メートル船尾6.3メートルの喫水をもって、同日10時55分広島県尾道糸崎港第1区にある尾道造船所を発し、向島南方沖合で試運転を行ったのち、同日14時45分因島大橋東南東3.2海里の地点を発し、中華人民共和国山東省日照に向かった。
 発航後B指定海難関係人は、自ら操船指揮をとり、二等航海士をテレグラフ操作など操船補佐にあたらせるとともに甲板員を手動操舵に就け、大浜埼付近における最狭部の可航幅が約600メートルの布刈瀬戸南方を北上し、15時01分大浜埼灯台から116度1.7海里の地点で、針路をほぼ因島大橋中央灯に向首する300度に定め、機関を回転数毎分95の前進にかけ、折からの潮流に抗して7.0ノットの対地速力で進行した。
 15時04分B指定海難関係人は、後方の同航船との船間距離を離すため機関を回転数毎分105に上げ、9.0ノットの速力で続航し、同時09分大浜埼灯台から110度1,150メートルの地点に達したとき、四十島北方の、右舷船首4度1.2海里のところに台船を曳航してゆっくり右転中の天常丸引船列を初認し、しばらくその動向を監視したが、同引船列の右転が緩慢で右方を向いたままであったことから右舷対右舷で航過しようと思い、向島側に近寄る針路に転じて狭い水道の右側端に寄って航行することなく、同じ針路のまま布刈瀬戸を斜航した。
 15時11分B指定海難関係人は、因島大橋中央から少し因島寄りのところで同橋下を通過したとき、ゆっくりと右転を続ける同引船列を右舷船首5度1,300メートルに認めるようになったが、速やかに右転して向島側に近寄らず、汽笛で長音を吹鳴するとともに、更に因島側に近寄り同引船列と右舷対右舷で航過するつもりで左舵を令し、同時11分半大浜埼灯台から095度500メートルの地点で295度に転じ、折からの南東流によって左方に3度圧流されながら、同瀬戸を斜航して因島北岸に接近した。
 15時12分半B指定海難関係人は、天常丸引船列が右舷船首方向間近に接近したとき、機関停止に続いて全速力後進を令したが、相手船の左転を期待して舵中央のまま汽笛を吹鳴しながら続航し、同時14分少し前機関を停止して惰力で進行中、シ号は、275度を向首して約6.0ノットの速力となったとき、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、天常丸引船列は、曳航索が切断するとともに、常石20号の左舷船首に亀裂が生じ、シ号は、右舷船首に破口が生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
 本件衝突は、布刈瀬戸において、北上するシ号が、狭い水道の右側端に寄って航行しなかったことによって発生したが、大角度の転舵が困難でゆっくりと右転しながら南下する天常丸引船列が、操船信号に続いて警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。

(受審人等の所為)
 A受審人は、常石20号を曳航し、布刈瀬戸の右側端に寄るため、四十島東方沖合でゆっくりと右転しながら南下中、向島側に近寄らないで、同瀬戸を斜航しながら大浜埼に接近中のシ号を認めた場合、短音1回の操船信号に続いて警告信号を行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、そのうちシ号が右転して向島側に向けるものと思い、短音1回の操船信号に続いて警告信号を行わなかった職務上の過失により、布刈瀬戸を斜航するシ号との衝突を招き、曳航索を切断するとともに常石20号の左舷船首部に亀裂を生じさせ、また、シ号の右舷船首部に破口を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が、狭い水道である布刈瀬戸を北上する際、同瀬戸の右側端に寄って航行せず、同瀬戸を斜航したことは本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:28KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION