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平成13年広審第79号
件名

引船日興丸漁船蜂栄丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年2月27日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(勝又三郎、坂爪 靖、中谷啓二)

理事官
黒田敏幸

受審人
A 職名:日興丸一等航海士 海技免状:三級海技士(航海)
B 職名:蜂栄丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
日興丸・・・左舷船首部と中央部に擦過傷
蜂栄丸・・・左舷中央部及び甲板上構造物が大破し、転覆全損、船長が打撲、顔面挫創

原因
日興丸・・・見張り不十分、各種船間の航法(避航動作)不遵守(主因)
蜂栄丸・・・警告信号不履行、各種船間の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、日興丸が、見張り不十分で、トロールにより漁ろうに従事している蜂栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが、蜂栄丸が、汽笛装置故障で警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年2月22日06時35分
 瀬戸内海 備讃瀬戸東部

2 船舶の要目
船種船名 引船日興丸 漁船蜂栄丸
総トン数 199トン 4.9トン
全長 36.00メートル  
登録長   12.15メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 2,646キロワット  
漁船法馬力数   15

3 事実の経過
 日興丸は、2基2軸を装備した鋼製引船兼防災船で、A受審人ほか3人が乗り組み、巨大船の進路警戒を行う目的で、船首3.20メートル船尾3.25メートルの喫水をもって、所定の灯火を表示し、平成13年2月22日04時30分水島港を発し、備讃瀬戸東航路東口に向かった。
 05時00分A受審人は、船長に従い船橋当直に就いていたところ、視界が良かったので船長が朝食をとるため降橋することとなり、同人から当直を引継ぎ、単独で操舵操船に当たり、下津井瀬戸を東行したのち岡山県釜島北部を航過し、堅場島灯浮標南西部あたりから南東方に向かい備讃瀬戸東航路中央第1号灯浮標(以下「備讃瀬戸東航路」を冠する灯浮標名については冠称を省略する。)と小槌島との間付近で備讃瀬戸東航路に入航し、同航路に沿って東行した。
 06時18分少し過ぎA受審人は、男木港灯台から274度(真方位、以下同じ。)1.7海里の地点で、針路を062度に定め、機関を全速力前進にかけ、西流に抗して12.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)で自動操舵により進行した。
 06時29分半A受審人は、中央第4号灯浮標を左舷側300メートルに見る、男木島灯台から353度900メートルの地点に達したとき、針路を100度に転じ、備讃瀬戸東航路に沿って続航し、同時33分左舷船首1度930メートルのところに、トロールに従事して西行中の蜂栄丸の灯火を視認することができ、その後同船と衝突のおそれがある態勢で接近する状況になっていたが、そのころ3海里レンジにしたレーダーに2隻の同航船の映像を認めたものの、船首輝線と重なっていた蜂栄丸を識別できず、前路に操業中の漁船はいないものと思い、備讃瀬戸東航路東口の到着時間を調べるためレーダーレンジを12海里に切り替え、同画面を覗いたまま手動で同画面に組み込んであるGPS映像の調整に気を取られ、目視による前路の見張りを十分に行わなかったので、間近に接近した蜂栄丸に気付かず、同船の進路を避けないまま進行した。
 A受審人は、依然レーダーの操作を続けて目視による前路の見張りを行わず、蜂栄丸の進路を避けずに続航中、06時35分男木島灯台から075度1.1海里の地点において、日興丸は、原針路、原速力のまま、その左舷船首部が蜂栄丸の左舷中央部に前方から5度の角度で衝突した。
 当時、天候は曇で風はほとんどなく、付近海域に約2ノットの西流があり、日出は06時43分であった。
 船長は、衝突の衝撃音を聞いて昇橋し、事後の措置に当たった。
 また、蜂栄丸は、小型底引網漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.50メートル船尾1.05メートルの喫水をもって、所定の灯火を表示し、汽笛装置が故障したまま、同日03時15分香川県庵治漁港を発し、備讃瀬戸東部の漁場に向かった。
 04時00分B受審人は、更に前部マストに白、緑の連携する全周灯2個を、操舵室上部に黄色回転灯をそれぞれ点灯し、中央第6号灯浮標の南側で備讃瀬戸東航路に至り、ワイヤーロープ130メートル、タイヤを取り付けたチェーン9メートルからなるえい網索2本の先端に、18メートルの開口用ビームを取り付けた長さ30メートルの底引網を連結し、これを船尾から投入し、操舵室左舷側の舵輪後方に床から80センチメートル高くしたいすに座って手動操舵をとり、折からの西流に乗じてトロールによる漁ろうを開始した。
 06時00分少し過ぎB受審人は、中央第5号灯浮標の北東方200メートルの、カナワ岩灯台から316度1.4海里の地点に達したとき、針路を263度に定め、機関を回転数毎分1,900の微速力前進にかけ、2.4ノットの速力で備讃瀬戸東航路を斜めに横切る態勢で進行した。
 06時18分少し過ぎB受審人は、男木島灯台から083度1.8海里の地点に達したとき、針路を275度に転じて続航し、同時30分レーダーで2隻の反航船を認めるとともに、右舷船首3度1.3海里に反航する日興丸の映像を初認し、同時33分同船の映像が右舷船首3度930メートルに接近し、その後同船と衝突のおそれがある態勢で接近する状況になったことに気付いたが、汽笛装置故障で警告信号を行わず、そのうち同船が自船の進路を避けるものと思い、速やかに右転するなどの衝突を避けるための協力動作をとることなく進行した。
 06時34分半B受審人は、目視で前路を見たところ日興丸の灯火と船体が左舷至近になったので右舵を少しとり、引続き右舵一杯としたが効なく、蜂栄丸は、ほぼ原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、日興丸は、左舷船首部と中央部に擦過傷を生じたのみであったが、蜂栄丸は、左舷中央部及び甲板上構造物が大破して転覆し、僚船により庵治漁港に引き付けられたが全損となり、B受審人は海中に投げ出されて日興丸に救助され、19日間の入院加療を要する全身打撲、顔面挫創等を負った。

(原因)
 本件衝突は、備讃瀬戸東部において、日興丸が、同瀬戸東航路を東行中、見張り不十分で、トロールにより漁ろうに従事している蜂栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが、蜂栄丸が、汽笛装置故障で警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、備讃瀬戸東部において、単独で船橋当直に従事して同瀬戸東航路を東行する場合、同航路内でトロールにより漁ろうに従事している蜂栄丸を見落とさないよう 、目視による前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、周囲に操業中の漁船はいないものと思い、目視による前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、蜂栄丸に気付かず、同船の進路を避けずに進行して衝突を招き、日興丸の左舷外板に擦過傷を、蜂栄丸の左舷中央部及び甲板上構造物を大破し、転覆させて全損とし、B受審人に全身打撲等で19日間の入院加療を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、備讃瀬戸東部において、同瀬戸東航路内で底引網漁に従事中、レーダーで方位に変化のないまま接近してくる日興丸の映像を認めた場合、速やかに右舵をとるなどして衝突を避けるための協力動作をとるべき注意義務があった。しかしながら、同人は、そのうち同船が自船の進路を避けるものと思い、速やかに右舵をとるなどして衝突を避けるための協力動作をとらなかった職務上の過失により、そのまま進行して衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、蜂栄丸を廃船に至らせるとともに、自らも全身打撲等を負うに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:31KB)





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