(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年4月1日14時00分
日本海 鳥取港北西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船寳海丸 |
漁船安全丸 |
総トン数 |
77トン |
71トン |
全長 |
34.40メートル |
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登録長 |
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25.13メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
661キロワット |
588キロワット |
3 事実の経過
寳海丸は、掛け回し漁法による底引き網漁に従事し、音響信号装置としてエアーホーン及び同業船との交信用の無線装置を装備した船首船橋型鋼製漁船で、A受審人ほか7人が乗り組み、3ないし4日の操業の目的で、船首1.3メートル船尾3.3メートルの喫水をもって、平成13年3月31日08時00分基地である鳥取県網代港を発し、同港から北西方に3時間ほど航走したところで所定の形象物を掲げて操業を始め、その後、漁場を北西方に移しながら同業船が操業する同県沖合で操業を続けた。
ところで、A受審人は、船橋当直に関して出入港の操船を自らが行い、そのほか操業中は機関長との交替により、またそれ以外の航行中は甲板員にそれぞれ当直を行わせるようにしていた。
こうして、翌4月1日12時51分A受審人は、長尾鼻灯台から351度(真方位、以下同じ。)14.3海里の地点で、針路を139度に定め、機関を微速力前進にかけて1.5ノットの対地速力(以下、速力は対地速力である。)で自動操舵により曵網を再開した。やがて、13時55分右舷船首82度850メートルのところに安全丸を認めることができ、その後同船と衝突のおそれがある態勢で互いに接近する状況であった。
ところが、前示の曵網再開後、A受審人は、乗組員には漁獲物の選別などの作業にあたらせて、引き続き単独で船橋当直にあたっていたが、定針したとき、たまたま前方に他船を見かけなかったことから、操業日誌の記入や提出書類等を作成するうちに、これに気を取られ、前方に対する見張りを十分に行わなかったので、安全丸が自船の進路を避けないまま、依然として衝突のおそれがある態勢で互いに接近する状況に気付かず、警告信号もさらに衝突を避けるための協力動作も行わないまま曵網を続け、14時00分長尾鼻灯台から354度13.2海里の地点において、寳海丸は、原針路、原速力のまま、その右舷側中央部に安全丸の船首が後方から79度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、視界は良好であった。
また、安全丸は、掛け回し漁法による底引き網漁に従事する船首船橋型鋼製漁船で、B受審人ほか7人が乗り組み、3ないし4日の操業の目的で、船首1.2メートル船尾3.0メートルの喫水をもって、3月29日08時00分網代港を発し、10時ごろ同港北西方約20海里沖合の漁場に至って操業を始めた。
ところで、装備していた底引き網の曵網索は、ワイヤ入り索1本及び化繊索7本の索を結んだ全長1,800メートルからなるもので、曵網にあたり海底に接触する底網側にワイヤ入りの索を、そして曵船側に化繊索をそれぞれ振り替えて使用されていた。そこで投網に際しては、事前に揚網時に巻き揚げ用のロープリールに巻き取られた索を曵網用に巻き返す(以下「曵網索の巻き返し作業」という。)必要があった。
B受審人は、操業指揮を執りながら単独で船橋当直にあたって曵網を繰り返し操業を続け、越えて4月1日13時50分長尾鼻灯台から350度13.0海里の地点で、同僚船から漁況情報を得て漁場を東方に移すことにした。そこで、自船の東方約800メートルのところで操業中の僚船の南側を経て移動するつもりで、いったん針路を082度に定めて自動操舵にかけ、機関を半速力前進にかけて5.5ノットの速力で移動を始め、同僚船を左舷側に航過したのち、同時55分同灯台から352度13.0海里の地点で、針路を060度に転じたとき、左舷船首19度850メートルのところに漁ろうに従事中の寳海丸を認めることができ、その後自船と衝突のおそれがある態勢で互いに接近する状況であった。
ところが、当時、B受審人は、乗組員には船橋後部甲板上で漁獲物の選別作業を行わせ、同作業の終了を待って直ちに投網するつもりでいたので、平素甲板員に行わせていた曵網索の巻き返し作業を事前に済ませておこうとして、船橋を離れて船尾甲板上で船首方を背にした姿勢で同作業を続けているうちに、これに気を取られ、前方に対する見張りを十分に行わなかったので、寳海丸に気付かず、同船の進路を避けないまま続航中、船首方を振り返ったとき、船首至近に迫った寳海丸を初めて認め、急いで船橋に戻って操舵を手動に切り換えて右舵一杯とし続いて機関を全速力後進にかけたが及ばず、ほぼ原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、寳海丸は右舷中央部ブルワーク及び右舷側機関室囲壁等を損傷し、また安全丸の船首外板に破口を伴った凹損を生じた。
(原因)
本件衝突は、鳥取県北西方沖合において、漁場を移動する安全丸が、見張り不十分で、漁ろうに従事中の寳海丸の進路を避けなかったことによって発生したが、寳海丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
B受審人は、鳥取県北西方沖合において、いったん操業を中断して次の漁場に移動する際、乗組員に漁獲物の選別作業を行わせて自らが単独で船橋当直にあたる場合、付近一帯が操業水域であったから、前方で操業する他船を見落とすことのないよう、前方に対する見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、乗組員に行わせていた漁獲物の選別作業の終了を待って投網するつもりで、平素甲板員に行わせていた曵網索の巻き返し作業を済ませておこうとしているうちに、これに気を取られ、前方に対する見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前方で操業中の寳海丸に気付かず、その進路を避けないまま進行して、同船との衝突を招き、寳海丸の右舷中央部ブルワーク及び右舷側機関室囲壁等を損傷させ、また安全丸の船首外板に破口を伴った凹損を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、鳥取県北西方沖合において、底引き網漁の曵網を行いながら単独で船橋当直にあたる場合、付近一帯が操業海域であったから、漁場を移動する他船を見落とすことのないよう、前方に対する見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、操業日誌の記入や提出書類の作成などに気を取られ、前方に対する見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、操業中の自船の進路を避けないまま接近する安全丸に気付かず、警告信号もさらに衝突を避けるための協力動作も行わないまま曵網を続けて、安全丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。