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平成13年広審第65号
件名

貨物船善榮丸貨物船清勇丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年2月13日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(坂爪 靖、竹内伸二、横須賀勇一)

理事官
上中拓治

受審人
A 職名:善榮丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
B 職名:清勇丸船長 海技免状:三級海技士(航海)

損害
善榮丸・・・右舷船首外板及び球状船首に凹損
清勇丸・・・左舷船尾部外板及び船橋左舷側囲壁に凹損

原因
善榮丸・・・見張り不十分、船員の常務(新たな危険・衝突回避措置)不遵守(主因)
清勇丸・・・動静監視不十分、警告信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、善榮丸が、見張り不十分で、清勇丸の前路に向けて転針し、新たな衝突のおそれを生じさせたばかりか、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、清勇丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年2月22日19時10分
 岡山県水島港

2 船舶の要目
船種船名 貨物船善榮丸 貨物船清勇丸
総トン数 499トン 199トン
全長 75.52メートル  
登録長   45.04メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット 735キロワット

3 事実の経過
 善榮丸は、主に国内各港間において鋼材等の輸送に従事する船尾船橋型の鋼製貨物船で、A受審人ほか4人が乗り組み、コークス1,306.7トンを積載し、船首3.0メートル船尾4.5メートルの喫水をもって、平成13年2月22日18時10分香川県坂出港を発し、岡山県水島港港内の水島信号所(以下「信号所」という。)西北西方約2海里にある、川崎製鉄株式会社水島製鉄所(以下「川鉄」という。)D岸壁に向かった。
 発航後、A受審人は、1人で手動操舵と見張りに当たり、所定の灯火を表示して備讃瀬戸東航路、同北航路から水島航路を経て18時45分ごろ港内航路に入り、同航路を航行して19時00分目的地の手前1.7海里の、信号所から277度(真方位、以下同じ。)1,020メートルの地点に達し、水島港港内航路第8号灯浮標を右舷側170メートルに並航したとき、針路を339度に定め、機関回転数を毎分170の極微速力前進にかけ、7.5ノットの対地速力 (以下「速力」という。)で、港内航路に接続する幅員約800メートルの水路を北上した。
 定針して間もなくA受審人は、機関を停止し、その後機関の前進と停止を繰り返して7.0ノットの速力で続航し、19時02分ごろ入港配置を令し、同時05分少し前信号所から308度1,760メートルの地点に達し、北寄りの港奥に向かう水路と西寄りの川鉄岸壁方面に向かう水路がY字形に接続する水域にさしかかったとき、いつものとおり船倉中央部付近を照射するように船橋前部両舷ウイングに設置された500ワットの白色作業灯各1個を点灯し、次いで船首配置に就いていた乗組員に船首部ウインドラス付近を照射するように前部マストに設置された300ワットの白色作業灯1個を点灯させて入港準備作業に当たらせた。
 19時05分A受審人は、信号所から309度1,810メートルの地点に達したとき、係留岸壁に向けて転針することとし、左舷船首7度1,110メートルのところに、清勇丸が白、白、紅3灯を見せ、互いに左舷を対して約210メートル隔てて無難に航過する態勢で南下中であったが、転針方向からの出航船の有無やその転針時機を見計らうことに気をとられ、前方には日石三菱石油株式会社水島製油所(以下「日石三菱」という。)の工場や桟橋等の明かりが散在して清勇丸の灯火がやや見えにくいこともあって、前路の見張りを十分に行わなかったので、同船に気付かないまま、左舵をとって同船の前路に向け徐々に左回頭を始めた。ところが、同船と新たな衝突のおそれを生じさせ、その後衝突のおそれがある態勢で互いに接近する状況となったが、この状況に気付かず、速やかに機関を後進にかけて行きあしを止めるなどの衝突を避けるための措置をとらないで、機関の前進と停止を繰り返しながら4.7ノットの速力で回頭を続けた。
 19時07分半A受審人は、信号所から311度2,150メートルの地点で回頭を止め、船首を係留岸壁に向く290度としたとき、清勇丸が右舷船首39度460メートルに接近したが、依然見張り不十分で、同船に気付かず、機関を停止して惰力でそのまま進行中、同時09分半同船の発した作業灯の白色点滅光に続いて白、白、紅3灯を初めて視認し、衝突の危険を感じ、探照灯を照射し、汽笛による短音数回を吹鳴するとともに機関を全速力後進にかけたが及ばず、19時10分信号所から308.5度2,450メートルの地点において、善榮丸は、船首が290度を向いて約2.0ノットの速力となったとき、その船首が清勇丸の左舷船尾部に後方から80度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の初期で、視界は良好であった。
 また、清勇丸は、専ら茨城県鹿島港から瀬戸内海にかけての諸港間において、液体化学薬品等の輸送に従事する船尾船橋型の液体化学薬品ばら積船兼引火性液体物質ばら積船兼油タンカーで、B受審人ほか2人が乗り組み、検査員1人を同乗させ、揚荷後の貨物倉洗浄の目的で、船首0.7メートル船尾2.7メートルの喫水をもって、同日18時55分水島港旭化成N桟橋を発し、同港港外に向かった。
 離岸後、B受審人は、1人で手動操舵と見張りに当たり、所定の灯火を表示して水路の右側に寄るため日石三菱の三石第6桟橋沖合に向かい、19時05分少し前信号所から319度2,890メートルの地点で、針路を川鉄岸壁北東角の北東方約120メートル沖合にある緑色灯浮標の灯光を船首少し右方に見る174度に定め、機関回転数を毎分220の極微速力前進にかけ、4.2ノットの速力で進行した。
 定針したとき、B受審人は、左舷船首20度1,200メートルのところに、互いに左舷を対して無難に航過する態勢で北上する善榮丸の白、白、紅3灯と白色作業灯3灯のうち、明るい白色作業灯だけを視認し、同船は港奥に向かうものと判断し、19時05分同船が左舷船首22度1,110メートルに接近したとき、ゆっくりと左転を始め、その後自船の前路に向け新たな衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、船首目標の緑色灯浮標の灯光を見ることや右舷方からの出航船の有無に気をとられ、善榮丸のマスト灯や舷灯を確かめるなどして動静監視を十分に行わなかったので、この状況に気付かず、警告信号を行わないで、同船と左舷対左舷で航過するつもりで続航した。
 19時07分半B受審人は、信号所から314度2,600メートルの地点に達したとき、善榮丸が緑灯を見せたまま左舷船首25度460メートルに接近したが、依然動静監視不十分で、同船の接近状況に気付かず、速やかに機関を後進にかけて行きあしを止めるなどの衝突を避けるための措置をとることなく、同船との航過距離を大きくするつもりで針路を192度に転じ、その後機関の停止と前進を繰り返して3.9ノットの速力で進行した。同時09分少し前善榮丸が左舷船首43度190メートルとなったとき、同船に向け作業灯を点滅し、次いで機関を停止し、その後右舵をわずかにとって同灯の点滅を繰り返しながら惰力で続航中、同時10分少し前左舷至近に迫った同船の作業灯の白3灯のほか航海灯の白、白、緑3灯を認め、衝突の危険を感じ、慌てて機関を極微速力前進にかけたが効なく、清勇丸は、船首が210度を向いて約3.5ノットの速力となったとき、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、善榮丸は、右舷船首外板及び球状船首に凹損を生じ、清勇丸は、左舷船尾部外板及び船橋左舷側囲壁に凹損等を生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
 本件衝突は、夜間、岡山県水島港の水路がY字形に接続する水域において、北上中の善榮丸が、係留岸壁に向けて転針する際、見張り不十分で、無難に航過する態勢で南下する清勇丸の前路に向けて転針し、新たな衝突のおそれを生じさせたばかりか、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、清勇丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、岡山県水島港の水路がY字形に接続する水域において、係留岸壁に向けて転針する場合、前方には日石三菱の工場や桟橋等の明かりが散在して他船の灯火がやや見えにくい状況であったから、接近する他船の灯火を見落とすことのないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、転針方向からの出航船の有無やその転針時機を見計らうことに気をとられ、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、無難に航過する態勢で南下する清勇丸の前路に向けて左転し、同船と新たな衝突のおそれを生じさせたことに気付かず、衝突を避けるための措置をとらないまま進行して衝突を招き、善榮丸の右舷船首外板及び球状船首に凹損を、清勇丸の左舷船尾部外板及び船橋左舷側囲壁に凹損等をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、夜間、岡山県水島港の水路がY字形に接続する水域を南下中、川鉄岸壁東側の水路中央に善榮丸の白色作業灯を認めた場合、同船のマスト灯や舷灯を確かめるなどして同船の動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、船首目標の緑色灯浮標の灯光を見ることや右舷方からの出航船の有無に気をとられ、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、善榮丸が左転して新たな衝突のおそれが生じたことに気付かず、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらないまま進行して衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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