(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年10月16日05時25分
瀬戸内海 塩飽諸島沿岸
2 船舶の要目
船種船名 |
瀬渡船共栄丸 |
漁船貞義丸 |
総トン数 |
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2.34トン |
登録長 |
11.44メートル |
7.40メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
213キロワット |
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漁船法馬力数 |
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70 |
3 事実の経過
共栄丸は、岡山県水島港を基地とし、同港内やその周辺海域で釣り人の瀬渡し業務を行うレーダーを装備しないFRP製旅客船で、A受審人が1人で乗り組み、船首0.4メートル船尾0.5メートルの喫水をもって、平成12年10月16日04時40分水島港呼松地区を発し、港内で数人の客を乗下船させたのち客4人を乗せ、同港南方に延びている塩飽諸島内小手島に向かった。
05時15分A受審人は、広島西岸にある青木港8号防波堤北灯台(以下「青木港灯台」という。)から018度(真方位、以下同じ。)3.4海里の地点で、針路を219度に定め、機関を半速力前進にかけ、15.5ノットの対地速力で、所定の灯火を表示し、前方約6海里の佐柳島の人家の明かりなどを目安にして操舵室に立って手動操舵で進行した。
05時23分A受審人は、周囲の見張りを行いながら、手島沿岸の青木港灯台から352度1.65海里の地点に達したとき、正船首950メートルのところに、漂泊している貞義丸が存在したが、同船が無灯火でこれを視認することができず、そのままの針路及び速力で続航中、同時25分わずか前船首至近に同船の船体の一部をぼんやりと認め、急ぎ極微速力として右舵20度をとったが及ばず、共栄丸は、05時25分青木港灯台から336度2,500メートルの地点において、234度に向首したとき、その船首タイヤフェンダー部が貞義丸の右舷中央部に後方から75度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の北東風が吹き、潮候は下げ潮の末期で、日出は06時09分であった。
また、貞義丸は、中央部に操舵室を備え、後部マストに所定の白色全周灯及び両色灯を備えた一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、船首0.15メートル船尾0.20メートルの喫水をもって、同日04時55分岡山県下津井港を発し、手島沿岸の釣り場に向かった。
発航に際し、B受審人は、全周灯及び両色灯を点灯し忘れ、無灯火の状態であったが、それらの表示の確認を行わなかったので、このことに気付かず、その後は両灯火が操舵室屋根から船尾にかけて甲板を覆っているテントの上方にあったこと、夜明けが近いことが念頭にあったことなどから灯火について注意が働かず、そのまま灯火を表示しているものと思い続航した。
05時15分B受審人は、広島北端沖の青木港灯台から027度2.6海里の地点で、針路を予定の釣り場に向けて238度に定め、機関を全速力前進にかけ、15.0ノットの対地速力で、操舵室に立って手動操舵で進行した。
05時23分B受審人は、釣り場近くの前示衝突地点付近に達し、依然、無灯火のまま小用のため機関を中立にして漂泊を始めたとき、右舷船尾19度950メートルのところに、共栄丸の白、紅、緑3灯を視認することができ、同船の進路上に位置して衝突のおそれのある状況であったが、周囲の見張りを十分に行っていなかったので共栄丸に気付かず、速やかに移動するなど衝突を避けるための措置をとらず、操舵室後方に展張されたテント下で左舷船尾甲板に立って用足しを始め、そのまま漂泊中、貞義丸は、風により船首が徐々に右転して309度に向首し、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、共栄丸は、ほとんど損傷がなかったが、貞義丸は、右舷中央部外板を大破し、のち廃船となった。
(原因)
本件衝突は、夜間、塩飽諸島手島沿岸において、岡山県下津井港を発航し釣り場に向かう貞義丸が、発航時の灯火の表示確認が不十分で、無灯火の状態で航行したばかりか、漂泊を始めた際、見張り不十分で、接近する共栄丸に対して衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
B受審人は、夜間、岡山県下津井港から手島沿岸の釣り場に向け発航する場合、灯火の表示を確認すべき注意義務があった。しかるに、同人は、灯火の表示を確認しなかった職務上の過失により、所定の灯火を点灯し忘れて無灯火の状態であることに気付かず、そのまま航行して共栄丸との衝突を招き、共栄丸にほとんど損傷はなかったものの、貞義丸の右舷中央部外板を大破するに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。