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平成13年広審第59号
件名

貨物船第八明豊丸灯浮標衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年2月1日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(勝又三郎、竹内伸二、横須賀勇一)

理事官
黒田敏幸

受審人
A 職名:第八明豊丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
指定海難関係人
B 職名:第八明豊丸機関員

損害
明豊丸・・・右舷船首部に擦過傷
第1号灯浮標・・・浮体部に凹損及び電気部が損傷

原因
明豊丸・・・居眠り運航防止措置不十分

主文

 本件灯浮標衝突は、居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年8月31日02時00分
 瀬戸内海平郡水道

2 船舶の要目
船種船名 貨物船第八明豊丸
総トン数 498トン
全長 66.93メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット

3 事実の経過
 第八明豊丸(以下「明豊丸」という。)は、専ら福岡県苅田港から山口県岩国港の埋立地用海砂運搬に従事し、クレーンを装備した船尾船橋型砂利採取運搬船で、A受審人及びB指定海難関係人ほか2人が乗り組み、海砂約900立方メートルを載せ、船首1.3メートル船尾3.4メートルの喫水をもって、平成12年8月30日20時55分苅田港を発し、岩国港に向かった。
 ところで、A受審人は、海砂の揚積荷をクレーンを使用して行い、他の乗組員は海砂を平均に積み取るため同船をシフトさせていたことと、荷役終了後直ちに出港し、片道約7時間の航海中は乗組員全員が1時間交替で単独船橋当直に就いていたことから、連続して休息を取ることができなかったので、乗組員の疲労が蓄積され易い状況であったが、これまで当直者が居眠りしたことがなかったので大丈夫と思い、発航前に同当直を4時間当直にして連続した休息時間を与えるようにするなど居眠り運航の防止措置をとることなく、B指定海難関係人が入出港操船に引続き同当直に就き、その後一等航海士、機関長、船長の順とし、乗組員はそれぞれ小刻みな短時間の休息しか取れなかった。
 一方、B指定海難関係人は船舶所有者Cと親戚関係にあり、明豊丸の運航について同船舶所有者から労務管理を任されていたことから、当直時間外は船橋で仮眠を取りながらの就労であったので十分な休息が取れなかった。
 翌31日01時23分少し前A受審人は、天田島灯台から255度(真方位、以下同じ。)5.7海里の、祝島南西方灯浮標の南側に並行したとき、針路を平郡水道第1号灯浮標(以下「第1号灯浮標」という。)のわずか北方に向く085度に定め、機関を全速力前進にかけて10.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で自動操舵により進行した。
 01時30分A受審人は、祝島のほぼ南側の地点で、船橋で仮眠を取っていたB指定海難関係人が起きてきたので船橋当直を引継ぎ、降橋して休息した。
 B指定海難関係人は、自動操舵を使用していることを確かめ、正船首方わずか右方に第1号灯浮標を視認したのち舵輪前のいすに座り、01時40分少し過ぎ天田島灯台から247度2.9海里の、烏帽子瀬灯浮標を北側に見る地点に達したころ、疲労が蓄積していたことと、平郡水道には漁船も反航船もいなかったことから気が緩み、眠気を催したが、眠気を覚ますために顔を洗って立って当直をするなど居眠り運航の防止措置をとることなく続航中、いつしか居眠りに陥った。
 B指定海難関係人は、微弱な南西流によりわずか右偏し、第1号灯浮標に向首したまま接近していたが、居眠りに陥ってこのことに気付かずに進行中、明豊丸は、02時00分天田島灯台から143度1.0海里に設置されている同灯浮標に、原針路、原速力のまま、その右舷船首が衝突した。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の中央期で、付近海域には微弱な南西流があり、視界は良好であった。
 その結果、明豊丸は右舷船首部に擦過傷を生じ、第1号灯浮標は浮体部が引き揚げられ、それに凹損及び電気部が損傷し、浮体下部の連結部材を喪失したが、のち修理修復された。

(原因)
 本件灯浮標衝突は、夜間、周防灘を東行して平郡水道に向け進行中、居眠り運航の防止措置が不十分で、第1号灯浮標に向首して進行したことによって発生したものである。
 明豊丸の運航が適切でなかったのは、船長が無資格の船橋当直者を含む当直体制の見直しを行うなど居眠り運航の防止措置をとらなかったことと、同当直者が居眠り運航の防止措置をとらなかったこととによって発生したものである。

(受審人等の所為)
 A受審人は、専ら苅田港から岩国港への埋立用海砂輸送に従事する場合、十分な休息をとらずに海砂の輸送が続き、機関員に疲労が蓄積されていたのであるから、居眠り運航とならないよう、発航前に船橋当直を4時間交替にして船橋当直者に連続して休息を与えるなど居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかしながら、同受審人は、荷役終了後直ちに出港していたことから、機関員が睡眠不足になっていたが、これまで当直者が居眠りしたことがなかったので大丈夫と思い、発航前に同当直を4時間当直にして船橋当直者に連続して休息を与えるなどの居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、同当直中の機関員が居眠りに陥り、第1号灯浮標に向首したまま進行して衝突を招き、自船に擦過傷を、同灯浮標に凹損及び電気部の損傷を生じさせ、浮体連結部材を喪失するに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が、夜間、単独で周防灘を東行中、眠気を催した際、眠気を覚ますために顔を洗って立って同当直を行うなどの居眠り運航防止措置をとらなかったことは本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。





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