(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年2月23日01時55分
神戸港南方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船第三太賀丸 |
貨物船第三泉丸 |
総トン数 |
2,548.82トン |
173トン |
全長 |
97.20メートル |
41.04メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
2,059キロワット |
441キロワット |
3 事実の経過
第三太賀丸(以下「太賀丸」という。)は、船尾船橋型のセメントばら積み専用の貨物船で、船長K、A受審人ほか10人が乗り組み、セメント4,169トンを積載し、船首5.55メートル船尾6.21メートルの喫水をもって、平成13年2月22日02時35分福岡県苅田港を発し、兵庫県尼崎西宮芦屋港に向かった。
ところで、K船長は、船橋当直を一等航海士、二等航海士及び次席二等航海士に操舵手1人を各直に付けた4時間交替の3直制としていた。
A受審人は、翌23日00時00分淡路島江埼西方沖合で昇橋して操舵手とともに船橋当直に就き、所定の灯火を表示し、明石海峡を通過して神戸港沖合に向け東行し、01時40分神戸港和田防波堤灯台(以下「和田灯台」という。)から181度(真方位、以下同じ。)4.0海里の地点に達したとき、針路を084度に定めて手動操舵とし、機関を回転数毎分182にかけ、11.0ノットの対地速力で進行した。
01時50分少し前A受審人は、和田灯台から156度4.15海里の地点に達したとき、左舷船首67度600メートルのところに、第三泉丸(以下「泉丸」という。)の船尾灯を初めて視認し、間もなく同船の灯火が白、白、緑3灯となったのを認め、これを速力の遅い同航船で、いずれ自船が追い越す状況になると判断して続航した。
そのころ、A受審人は、予定進路線の左側に神戸沖第2号灯浮標を、同右側に大型の錨泊船を認めており、この間を航行するには狭いことから、同灯浮標の北側を通航することとし、01時50分半和田灯台から154度4.2海里の地点で、針路を064度に転じて進行した。
01時51分A受審人は、泉丸が左舷船首50度500メートルとなり、両船の船首の振れなどから、泉丸のマスト灯及び右舷灯と船尾灯が交互に視認できる状況で、自船が追越し船であるかどうかを確信できなかったものの、泉丸を被追越し船と認め、その後、方位がほとんど変わらないまま、衝突のおそれのある追い越しの態勢で接近するのを認め得る状況にあったが、転針後も同船を無難に追い越すことができるものと思い、泉丸に対する動静監視を十分に行わなかったので、このことに気付かず、減速するなどして同船の進路を避けずに続航した。
K船長は、01時53分半コーヒーを飲むために昇橋したとき、A受審人から、左舷正横方の泉丸は無難に替わる同航船との報告を受けたあと、コーヒーカップを手にしようとしたところ、同船が意外と近距離にいるのを認めて汽笛を吹鳴し、同時54分半同船が左舷正横至近に迫り、衝突の危険を感じ、右舵一杯を令したが効なく、01時55分和田灯台から143度4.3海里の地点において、太賀丸は、船首が084度を向いたとき、原速力のまま、その左舷後部が泉丸の右舷船首部に後方からほぼ平行に衝突した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の初期であった。
また、泉丸は、液体化学薬品ばら積みに従事する船尾船橋型の貨物船で、B受審人ほか1人が乗り組み、硫酸200トンを積載し、船首2.40メートル船尾3.00メートルの喫水をもって、同月22日13時40分愛媛県新居浜港を発し、大阪港に向かった。
B受審人は、船橋当直を機関長との単独3時間交替制に決め、翌23日01時00分明石海峡東口付近で昇橋して同当直に就き、所定の灯火を表示して神戸港南方沖合に向けて東行し、同時38分和田灯台から180度3.7海里の地点に達したとき、針路を084度に定め、機関を回転数毎分365にかけ、9.0ノットの対地速力で進行した。
B受審人は、操舵輪後方のいすに腰掛けて見張りと手動操舵に当たり、01時50分少し前和田灯台から153度3.9海里の地点に達したとき、右舷正横後23度600メートルのところに、太賀丸の白、白、紅3灯を視認することができ、同船が追い越しの態勢で接近する状況であったものの、前方の見張りを行っていただけなので、同船の存在にも、同時50分半同船が転針したことにも気付かないまま続航した。
01時51分B受審人は、和田灯台から150度4.0海里の地点に達したとき、右舷正横後20度500メートルのところに太賀丸を視認でき、その後、同船が衝突のおそれのある追い越しの態勢で接近するのを認め得る状況であったが、後方から接近する船舶が自船を避けるものと思い、後方の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、警告信号を行うことも、間近に接近したとき衝突を避けるための協力動作をとることもしないまま同一の針路速力で進行し、同時55分少し前太賀丸の船尾灯を右舷船首至近に初認したものの、どうすることもできず、泉丸は、原針路原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、太賀丸は、左舷側後部外板に破口を伴う凹損を生じ、泉丸は、右舷側船首部ブルーワークに凹損及び同部ハンドレールに曲損を生じたが、のちいずれも修理された。
(原因)
本件衝突は、夜間、両船が神戸港南方沖合を東行中、泉丸を追い越す太賀丸が、動静監視不十分で、その進路を避けなかったことによって発生したが、泉丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、神戸港南方沖合を東行中、左舷正横方に自船より速力の遅い同航中の泉丸を視認したのち転針した場合、泉丸を被追越し船と認めていたのだから、安全に替わりゆくかどうか判断できるよう、同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、転針後も泉丸を無難に追い越すことができるものと思い、同船に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船の進路を避けずに進行して衝突を招き、太賀丸の左舷側後部外板に破口を伴う凹損を、泉丸の右舷側船首部ブルーワークに凹損などを生じさせるに至った。
B受審人は、夜間、神戸港南方沖合を大阪港に向け東行する場合、船舶が輻輳する海域であったから、右舷後方から接近する太賀丸を見落とさないよう、後方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、後方から接近する船舶が自船を避けるものと思い、後方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、警告信号を行うことも、間近に接近したとき衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行して太賀丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。