(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年7月19日16時15分
兵庫県林崎漁港西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
プレジャーボート小松丸 |
プレジャーボート明神丸 |
全長 |
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3.10メートル |
登録長 |
2.67メートル |
2.64メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
電気点火機関 |
出力 |
57キロワット |
88キロワット |
3 事実の経過
小松丸は、米国ポラリス社が製造した、SLT750型と称する最大搭載人員3人のFRP製水上オートバイで、船体中央部に主機関を装備し、その上部にステアリングハンドルを備え、同ハンドルの左側グリップの根元部にエンジン始動ボタン及び同停止ボタンが、右側グリップの根元部にスロットルレバーがそれぞれ取り付けられ、同ハンドル後方から船尾にかけて操縦者用と同乗者用の跨乗式座席を備えていた。
小松丸の推進力は、機関に直結するジェットポンプからの海水噴射で得られ、ステアリングハンドルの操作に応じて船尾のノズルの方向を左右に変えることにより旋回し、また、スロットルレバーの操作により、最高速力約40ノット(以下、速力は対地速力である。)までの速力の増減ができるようになっていた。
ところで、A受審人並びに仕事仲間であるC受審人及びB、D両指定海難関係人は、水上オートバイを所有する知人から小松丸及び明神丸両船をこれまで2回ほど借りたことがあり、今回も両受審人及び両指定海難関係人ほか1人が両船を借りて分乗し、レジャーの目的で、平成12年7月19日14時00分兵庫県林崎漁港を発し、同漁港西方の林崎松江海岸沖合に着き、その後発停や旋回を繰り返したり、操縦を適宜交替するなどして遊走を続けた。
A受審人は、16時過ぎ小松丸にB指定海難関係人と2人で乗り、自らは後部座席に座り、同指定海難関係人に前部座席で操縦させることにしたが、B指定海難関係人が水上オートバイの操縦経験が多少あったので、見張りについて一々指示しなくても大丈夫と思い、同指定海難関係人に対し、後方から接近する明神丸を見落とさないよう、後方の見張りを十分に行うよう指示しなかった。
こうして、B指定海難関係人は、16時14分47秒林崎港5号防波堤灯台から312度(真方位、以下同じ。)690メートルの地点を発進し、針路を138度に定め、22.0ノットの速力で進行した。
発進後間もなく、B指定海難関係人は、明神丸が自船の船尾至近に接近したものの、後方の見張りを行っていなかったので明神丸に気付かず、16時14分59秒同船との船間距離が約15メートルとなって、更にその距離が縮まる状況のとき、旋回するつもりでスロットルレバーを少し緩め、体を右方に傾けステアリングハンドルを右一杯に切り、右転開始と同時にスロットルレバーをフルスピードに操作したとき、A受審人が振り落とされた。
B指定海難関係人は、旋回しながら明神丸を目前に認めたものの、どうすることもできず、16時15分00秒林崎港5号防波堤灯台から310度550メートルの地点において、小松丸は、最高速力となって、右転中の船首が003度を向いたとき、その左舷側中央部に、明神丸の左舷船首部が前方から45度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の初期であった。
また、明神丸は、川崎重工業株式会社が製造した、JTT10D型と称する最大搭載人員3人のFRP製水上オートバイで、小松丸とほとんど同じ構造を有し、最高速力約50ノットまでの速力の増減ができるようになっており、前示のとおり遊走に使用されていた。
C受審人は、16時過ぎ明神丸にD指定海難関係人と2人で乗り、自らは後部座席に座り、同指定海難関係人に前部座席で操縦させることにしたが、小松丸が周囲を確かめないで急に反転などすることはないと思い、D指定海難関係人に対し、遊走中の同船の動作に対応できるよう、速力を加減するなどして、小松丸との船間距離を十分にとるよう指示しなかった。
こうして、D指定海難関係人は、16時14分50秒前示発進地点で小松丸に続き発進し、針路を138度に定め、27.0ノットの速力で約35メートル先航する同船を追尾した。
発進後間もなく、D指定海難関係人は、小松丸の船尾至近に接近したものの、同船に対して船間距離を十分にとらず、16時14分59秒小松丸の船尾まで約15メートルに迫り、更にその距離が縮まる状況のとき、同船が突然右転を始めて自船の船首至近に向けて旋回してくるのに気付いたものの、対処できず、明神丸は、原針路原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、小松丸は、左舷側中央部外板に亀裂を、明神丸は、左舷船首部防舷帯に擦過傷をそれぞれ生じ、B指定海難関係人が左腸骨を骨折した。
(原因)
本件衝突は、兵庫県林崎漁港西方の林崎松江海岸沖合において、両船が遊走中、小松丸が、見張り不十分で、急旋回したことによって発生したが、明神丸が、小松丸に対して船間距離を十分にとらなかったことも一因をなすものである。
小松丸の運航が適切でなかったのは、船長が、無資格の操縦者に対し、後方の見張りを十分に行うよう指示しなかったことと、同操縦者が、後方の見張りを十分に行わなかったこととによるものである。
明神丸の運航が適切でなかったのは、船長が、無資格の操縦者に対し、遊走中の小松丸との船間距離を十分にとるよう指示しなかったことと、同操縦者が、小松丸に対して船間距離を十分にとらなかったこととによるものである。
(受審人の所為)
A受審人は、兵庫県林崎漁港西方の林崎松江海岸沖合において、小松丸に無資格のB指定海難関係人と2人で乗り、自らは後部座席に座り、前部座席のB指定海難関係人に操縦させながら遊走する場合、後方から接近する明神丸を見落とさないよう、後方の見張りを十分に行うよう指示すべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、B指定海難関係人が水上オートバイの操縦経験が多少あったので、見張りについて一々指示しなくても大丈夫と思い、後方の見張りを十分に行うよう指示しなかった職務上の過失により、B指定海難関係人が船尾至近に接近した明神丸に気付かず、右急旋回して同船との衝突を招き、小松丸の左舷側中央部外板に亀裂を、明神丸の左舷船首部防舷帯に擦過傷をそれぞれ生じさせ、B指定海難関係人に左腸骨骨折を負わせるに至った。
C受審人は、林崎松江海岸沖合において、明神丸に無資格のD指定海難関係人と2人で乗り、自らは後部座席に座り、前部座席のD指定海難関係人に操縦させながら遊走する場合、小松丸の動作に対応できるよう、速力を加減するなどして、遊走中の同船との船間距離を十分にとるよう指示すべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、小松丸が周囲を確かめないで急に反転などすることはないと思い、遊走中の小松丸との船間距離を十分にとるよう指示しなかった職務上の過失により、D指定海難関係人が船間距離をとらずに小松丸の船尾に接近し、同船の右急旋回に対処できないまま同船との衝突を招き、前示のとおり両船に損傷を生じさせ、B指定海難関係人を負傷させるに至った。
B指定海難関係人が、林崎松江海岸沖合において、小松丸を操縦して遊走する際、後方の見張りを十分に行わなかったことは本件発生の原因となる。
D指定海難関係人が、林崎松江海岸沖合において、明神丸を操縦して遊走する際、遊走中の小松丸に対して船間距離を十分にとらなかったことは本件発生の原因となる。