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平成13年神審第103号
件名

貨物船啓陽丸漁船住吉丸衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年2月20日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(黒田 均)

理事官
加藤昌平

受審人
A 職名:啓陽丸一等航海士 海技免状:五級海技士(航海)
B 職名:住吉丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士

損害
住吉丸・・・船首部を圧壊、船長が胸部打撲
啓陽丸・・・右舷船首部外板に擦過傷

原因
啓陽丸・・・見張り不十分、各種船間の航法(避航動作)不遵守(主因)
住吉丸・・・見張り不十分、警告信号不履行、各種船間の航法(協力動作)不遵守(一因)

裁決主文

 本件衝突は、北上中の啓陽丸が、見張り不十分で、漁ろうに従事している住吉丸の進路を避けなかったことによって発生したが、住吉丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。 

適条
 海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号 

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年10月22日05時55分
 和歌山県友ケ島北方沖合

2 船舶の要目
船種船名 貨物船啓陽丸 漁船住吉丸
総トン数 499トン 4.94トン
全長 66.01メートル  
登録長   10.78メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット  
漁船法馬力数   15

3 事実の経過
 啓陽丸は、船尾船橋型の鋼製液体化学薬品ばら積船で、A受審人ほか4人が乗り組み、コールタール1,000トンを積載し、船首3.20メートル船尾4.40メートルの喫水をもって、平成12年10月21日11時05分名古屋港を発し、兵庫県姫路港に向かった。
 翌22日03時10分A受審人は、和歌山県湯浅湾沖合で単独の船橋当直に就き、所定の灯火が表示されていることを確認し、友ケ島水道を通過して大阪湾を北上し、05時51分半友ケ島灯台から013度(真方位、以下同じ。)4.4海里の地点で、針路を明石海峡東口に向く008度に定め、機関を全速力前進にかけ10.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、自動操舵により進行した。
 定針したときA受審人は、右舷船首12度1,250メートルのところに、住吉丸が表示した緑、白2灯のほか左舷灯や作業灯数個を視認することができる状況であったが、前路を一瞥しただけで、付近に他船はいないものと思い、船首方の見張りを十分に行わなかったので、住吉丸の存在に気付かないまま、船橋左舷後部の海図机で、後方を向いて海図作業を始めた。
 A受審人は、その後、住吉丸と衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かなかったので、大きく右転するなど、漁ろうに従事している住吉丸の進路を避けずに続航し、05時55分少し前ふと船首方を見たとき、至近に迫った住吉丸を初めて認め、手動で左舵一杯とし、半速力前進としたが及ばず、05時55分友ケ島灯台から012度5.0海里の地点において、啓陽丸は、000度に向首したとき、ほぼ原速力のまま、その右舷船首部に、住吉丸の船首部が、前方から75度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力2の北風が吹き、潮候は下げ潮の中央期で、日出は06時10分であった。
 また、住吉丸は、船体中央部に操舵室を備え、後部甲板にも操舵輪がある、汽笛装備のFRP製底びき網漁船で、B受審人が1人で乗り組み、船首0.3メートル船尾0.7メートルの喫水をもって、操業の目的で、同月22日03時45分兵庫県仮屋漁港を発し、友ケ島北方沖合の漁場に向かった。
 B受審人は、所定の灯火のほか作業灯数個を点灯し、仮屋漁港沖合で1回操業して漁獲を得たのち、05時40分目的地に到着して操業を再開し、友ケ島灯台から018度5.3海里の地点で、針路を255度に定め、機関を全速力前進にかけ2.5ノットの曳網速力で、手動操舵により進行した。
 ところで、B受審人の行う底びき網漁は、袋網を含む長さ約10メートルの網の両側に、直径32ミリメートル(以下「ミリ」という。)長さ60メートルのロープを接続し、その他端に開口板を取り付けたものを、後部甲板に設置したネットローラから導いた直径9ミリ長さ250メートルのワイヤロープ2本を水深の3ないし4倍伸ばして曳網するもので、当時、住吉丸の船尾から袋網先端までの長さが約300メートルとなっていた。
 間もなく、B受審人は、付近に他船を見かけなかったことから、後部甲板に赴き、時折、そばの操舵輪で保針しながら漁獲物の選別作業を始めたところ、05時51分半友ケ島灯台から014度5.1海里の地点に達したとき、左舷船首55度1,250メートルのところに、啓陽丸が表示した白、白、緑3灯を視認することができる状況となったが、漁獲物の選別に気を取られ、船首方の見張りを十分に行わなかったので、啓陽丸の存在に気付かなかった。
 B受審人は、その後、啓陽丸と衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かなかったので、警告信号を行わず、更に間近に接近しても、行きあしを止めるなど、衝突を避けるための協力動作をとらずに続航し、原針路原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、啓陽丸は、右舷船首部外板に擦過傷を生じ、住吉丸は、船首部を圧壊したが、のちいずれも修理された。また、B受審人が前胸部打撲などを負った。

(原因)
 本件衝突は、日出前の薄明時、和歌山県友ケ島北方沖合において、北上中の啓陽丸が、見張り不十分で、漁ろうに従事している住吉丸の進路を避けなかったことによって発生したが、住吉丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、日出前の薄明時、和歌山県友ケ島北方沖合を北上する場合、右舷前方の住吉丸を見落とさないよう、船首方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、前路を一瞥しただけで、付近に他船はいないものと思い、船首方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、住吉丸の存在に気付かず、漁ろうに従事している同船の進路を避けないまま進行して衝突を招き、啓陽丸の右舷船首部外板に擦過傷を生じさせ、住吉丸の船首部を圧壊させ、B受審人に前胸部打撲などを負わせるに至った。
 B受審人は、日出前の薄明時、和歌山県友ケ島北方沖合において、漁ろうに従事して西行する場合、左舷前方の啓陽丸を見落とさないよう、船首方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、後部甲板で漁獲物の選別に気を取られ、船首方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、啓陽丸の存在に気付かず、警告信号を行うことも、衝突を避けるための協力動作をとることもしないまま進行して衝突を招き、前示の損傷を生じさせ、自らが負傷するに至った。


参考図
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