(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年8月19日07時20分
福井県雄島西岸沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第五栄漁丸 |
プレジャーボート英ちゃん丸 |
総トン数 |
1.6トン |
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全長 |
8.33メートル |
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登録長 |
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2.80メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
電気点火機関 |
出力 |
66キロワット |
3キロワット |
3 事実の経過
第五栄漁丸(以下「栄漁丸」という。)は、一本つり漁業等に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、福井県雄島漁業協同組合の依頼により福井港福井区にある福井石油備蓄シーバースで行われている工事作業の監視に当たる目的で、船首0.2メートル船尾0.7メートルの喫水をもって、平成12年8月19日07時07分同県梶漁港を発し、目的地に向かった。
A受審人は、07時16分半雄島灯台から033度(真方位、以下同じ。)460メートルの地点において、針路を244度に定め、機関を半速力前進にかけ、7.0ノットの対地速力で、手動操舵により進行した。
A受審人は、左舷船首方の雄島北西端に近づいたら左転して同島西岸に沿って目的地に向かう針路に転じる予定でいたところ、07時18分雄島灯台から357度260メートルの地点に達したとき、左舷船首25度280メートルの、雄島北西端沖合に、停留中のプレジャーボートを認めたので、もう少し同一針路で西行し、同船の西方で左転することとした。
このとき、A受審人は、左舷船首19度430メートルのところに、船首を西方に向けて漂泊している英ちゃん丸を視認することができる状況であったが、左舷方のプレジャーボートを見ることに気を取られ、英ちゃん丸を見落とさないよう、船首方向の見張りを十分に行っていなかったので、英ちゃん丸の存在に気付かなかった。
07時18分半A受審人は、雄島灯台から332度240メートルの地点で左転し、針路を219度に転じたところ、英ちゃん丸に向首する状況となり、その後衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、右転するなど、英ちゃん丸を避けないまま続航中、07時20分雄島灯台から262度320メートルの地点において、栄漁丸は、原針路原速力のまま、その船首部が、英ちゃん丸の右舷中央部に前方から84度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力1の南南西風が吹き、視界良好であった。
また、英ちゃん丸は、船外機を装備した高圧縮ポリプロピレン製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、めばる釣りの目的で、船首0.2メートル船尾0.3メートルの喫水をもって、同日05時20分福井県安島漁港を発し、雄島西岸沖合の釣り場に向かい、同釣り場において、移動しながら釣りを行い、07時15分衝突地点付近に到着した。
到着時、B受審人は、水深約17メートルのところで機関停止のうえ、船尾部から自家製簡易シーアンカーを投じ、長さ3メートルの合成繊維索を延出して漂泊したのち、船体中央部の腰掛けに船尾方を向いて座り、右舷側に竿を出して釣りを始めた。
07時18分B受審人は、船首が315度に向いていたとき、右舷正横430メートルのところに、来航する栄漁丸を初めて視認したが、一瞥して沖合に向かう漁船と思い、衝突のおそれの有無を判断できるよう、その動静監視を十分に行うことなく釣りを続けた。
こうして、B受審人は、07時18分半右舷船首84度330メートルのところで、栄漁丸が針路を転じて自船に向け接近していることに気付かず、有効な音響による注意喚起信号を行うことも、間近に接近したとき、機関を使用するなど、衝突を避けるための措置をとることもなく釣りを続け、07時20分少し前至近に迫った栄漁丸を視認し、立ち上がって手を振ったが、英ちゃん丸は、船首を315度に向けた状態で、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、栄漁丸は損傷がなく、英ちゃん丸は船体保護金具などに破損を生じたが、のち修理された。
(原因)
本件衝突は、福井県雄島西岸沖合において、南下中の栄漁丸が、見張り不十分で、漂泊中の英ちゃん丸を避けなかったことによって発生したが、英ちゃん丸が、動静監視不十分で、有効な音響による注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、福井県雄島西岸沖合を南下する場合、前路で漂泊している英ちゃん丸を見落とさないよう、船首方向の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、左舷方のプレジャーボートを見ることに気を取られ、船首方向の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、英ちゃん丸の存在と接近に気付かず、右転するなど、同船を避けないまま進行して英ちゃん丸との衝突を招き、同船の船体保護金具などに破損を生じさせるに至った。
B受審人は、福井県雄島西岸沖合において、自家製簡易シーアンカーを投じて漂泊して釣りを行っていたとき、近距離のところに、来航する栄漁丸を初めて視認した場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、その動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、一瞥して沖合に向かう漁船と思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、栄漁丸が少し左転して衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、機関を使用するなど、衝突を避けるための措置をとらないまま釣りを続けて衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。