(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年6月14日23時07分
紀伊水道
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船悠勢丸 |
貨物船ユウショウクイーン |
総トン数 |
607トン |
3,884トン |
全長 |
78.20メートル |
94.40メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,323キロワット |
1,471キロワット |
3 事実の経過
悠勢丸は、専ら鋼材輸送に従事する船尾船橋型の貨物船で、A受審人ほか4人が乗り組み、鋼材約757トンを載せ、船首3.22メートル船尾4.12メートルの喫水をもって、平成12年6月14日14時55分広島県福山港を発し、千葉港に向かった。
ところで、悠勢丸の船橋当直は、00時から05時までと12時から17時までを一等航海士、05時から07時までと17時から19時までを甲板長、07時から12時までと19時から24時までをA受審人とする単独3直制をとっていた。
19時00分A受審人は、備讃瀬戸男木島西方2海里沖合の地点で昇橋して船橋当直に就き、所定の灯火を表示し、鳴門海峡を通過したのち、21時41分大磯埼灯台から087度(真方位、以下同じ。)2.2海里の地点で、針路を日ノ御埼の3海里沖合に向く140度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、12.2ノットの対地速力で進行した。
A受審人は、23時00分紀伊日ノ御埼灯台から304度10.3海里の地点に達したとき、左舷船首52度1.0海里のところにユウショウクイーン(以下「ユ号」という。)の白、白、緑3灯を初めて視認し、同航船のように見えたことから、航過距離を離すこととし、同時00分半同灯台から303.5度10.2海里の地点で、針路を150度に転じたが、ユ号が同航船で自船の左舷方を無難に替わしていくものと思い、その後、ユ号の動静監視を十分に行わなかったので、同船が前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かなかった。
23時03分A受審人は、ユ号が左舷船首62度0.6海里になり、その方位が変わらないまま衝突のおそれがある態勢で接近したものの、依然動静監視が不十分で、このことに気付かず、警告信号を行わず、更に間近に接近したとき大きく右転するなど衝突を避けるための協力動作をとらないまま、続航した。
A受審人は、23時07分少し前ユ号の汽笛を聞き、同船が左舷正横方至近に迫っているのを認め、衝突の危険を感じ、手動操舵に切り替えて右舵一杯をとったが効なく、23時07分紀伊日ノ御埼灯台から300度9.0海里の地点において、悠勢丸は、原針路、原速力のまま、その左舷後部にユ号の右舷船首部が後方から41度の角度で衝突し、続いて悠勢丸の左舷船首部とユ号の右舷中央部が再度衝突した。
当時、天候は晴で風力2の東風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。
また、ユ号は、船尾船橋型の貨物船で、B指定海難関係人、P三等航海士ほか13人が乗り組み、鋼材4,091.8トンを載せ、船首5.71メートル船尾6.70メートルの喫水をもって、同日18時20分大阪港を発し、台湾基隆港に向かった。
ところで、B指定海難関係人は、平素、各船橋当直者に対し、紀伊水道中央部付近は船舶同士の針路が交差する海域であるから、早めに他船の動静を判断して接近しないよう指導していた。
B指定海難関係人は、友ケ島水道の手前で昇橋して操船の指揮を執り、所定の灯火を表示し、同水道を通過したのち、21時30分友ケ島灯台から213度2.4海里の地点で、針路を191度に定めて自動操舵とし、機関を回転数毎分205にかけ、11.0ノットの対地速力で進行し、同時45分船橋当直中のP三等航海士に針路などを引き継ぎ、降橋して自室で休息した。
P三等航海士は、船橋前部で操舵手とともに見張りに当たり、23時00分紀伊日ノ御埼灯台から307度9.5海里の地点に達したとき、右舷船首77度1.0海里のところに、悠勢丸のマスト灯の白1灯のみを初めて認めたが、これを同航船の船尾灯と判断し、その後悠勢丸の動静監視を十分に行わなかったので、同船が掲げていたほかの白、紅2灯を見落としたまま、同船が、同時00分半針路を10度右転したことも、前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近していることにも、気付かないまま続航した。
その後、P三等航海士は、悠勢丸の方位が変わらないまま衝突のおそれがある態勢で接近したが、依然動静監視が不十分で、このことに気付かず、同船の進路を避けないで進行中、23時06分半右舷正横方至近に同船の左舷灯を初めて視認し、衝突の危険を感じ、機関を半速力前進にかけたのち、汽笛により長音1回を鳴らし、左舵一杯を令したが効なく、ユ号は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
B指定海難関係人は、衝突の衝撃に気付いて昇橋し、事後の措置に当たった。
衝突の結果、悠勢丸は、左舷側船首部ハンドレールなどに亀裂を伴う凹損、同側後部の外板及びブルワークに凹損を生じ、ユ号は、右舷側船首部外板に破口を伴う凹損、同側中央部外板に凹損及び同部ブルワークに曲損などを生じたが、のちいずれも修理された。
(原因)
本件衝突は、夜間、和歌山県日ノ御埼北西方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、南下中のユ号が、動静監視不十分で、前路を左方に横切る悠勢丸の進路を避けなかったことによって発生したが、南東進中の悠勢丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、和歌山県日ノ御埼北西方沖合を南東進中、左舷正横方にユ号を視認し、針路を転じた場合、衝突のおそれがあるかどうかを判断できるよう、転針後、同船の動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、ユ号が同航船で自船の左舷方を無難に替わしていくものと思い、ユ号の動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船と衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、警告信号を行うことも、間近に接近したとき衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行してユ号との衝突を招き、悠勢丸の左舷側船首部ハンドレールに亀裂を伴う凹損及び同側後部外板などに凹損を、ユ号の右舷側船首部外板に破口を伴う凹損及び同側中央部外板などに凹損をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。