(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年9月18日17時45分
明石海峡東方
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船徳栄丸 |
漁船健龍丸 |
総トン数 |
498トン |
4.9トン |
全長 |
64.241メートル |
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登録長 |
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11.94メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
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漁船法馬力数 |
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15 |
3 事実の経過
徳栄丸は、船尾船橋型鋼製貨物船で、A受審人ほか4人が乗り組み、空倉のまま、船首0.7メートル船尾3.2メートルの喫水をもって、平成12年9月18日15時45分大阪港を発し、山口県徳山下松港に向かった。
A受審人は、16時35分単独で船橋当直に就いて西行し、17時33分平磯灯標から114度(真方位、以下同じ。)2.5海里の地点で、針路を269度に定め、機関を全速力前進にかけ、折からの潮流に抗して9.5ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で手動操舵により進行した。
定針後、A受審人は、操舵輪後方に立って操船に当たり、17時40分半平磯灯標から135度1.5海里の地点に達したとき、右舷船首9度1.0海里のところに、トロールにより漁ろうに従事している船舶が表示する形象物(以下「鼓型形象物」という。)を掲げた健龍丸を視認できる状況であったが、右舷前方をいちべつしただけで、航行の支障となる他船はいないと思い、右舷前方の見張りを十分に行わず、折から西日が差し込んでいたこともあって、健龍丸を見落としたまま続航した。
こうして、A受審人は、衝突のおそれがある態勢で接近している健龍丸に気付かず、同船の進路を避けることなく進行中、17時45分平磯灯標から163度1.1海里の地点において、徳栄丸は、原針路原速力のまま、その左舷船首部が、健龍丸の左舷中央部に平行に衝突した。
当時、天候は晴で風力1の西風が吹き、潮候は上げ潮の初期にあたり、視界は良好で、付近には2.0ノットの東流があった。
また、健龍丸は、小型底引き網漁業に従事し、全長12メートルを超える汽笛不装備のFRP製漁船で、B受審人及びその息子の2人が乗り組み、操業の目的で、船首0.3メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、同日16時00分兵庫県岩屋港を発し、明石海峡東方の漁場に向かった。
B受審人は、16時15分ごろ漁場に到着し、鼓型形象物を掲げ、底引き網を取り付けた2本の曳索を船尾から約200メートル延出し、15分間ほど曳網したのち揚網するという方法で操業を開始した。
17時25分B受審人は、平磯灯標の西方約1.5海里の地点から東南東方に向けて当日3回目の曳網を開始し、同時39分平磯灯標から183度1,600メートルの地点に達したとき、揚網機の脇に赴き、舵及び主機の遠隔操縦により、船首を114度に向け、推進器に曳索と網が絡まないよう、機関を中立にしたり、微速力前進にかけたりしながら、折からの潮流に乗じて4.0ノットの速力で揚網を開始した。
B受審人は、息子を揚網作業に当たらせ、自らは揚網機の操作と操船に当たり、17時40分半平磯灯標から177度1,700メートルの地点に達したとき、左舷船首16度1.0海里のところに徳栄丸を初めて視認し、同船の動静を監視していたところ、衝突のおそれがある態勢で接近していることを知った。
その後B受審人は、汽笛を装備していなかったので警告信号を行うことができないまま、徳栄丸が自船の進路を避けずに間近に接近するのを認めたが、いずれ徳栄丸が漁ろう中の自船を避けてくれるものと思い、速やかに機関を全速力前進にかけるなど、衝突を避けるための協力動作をとることなく、徳栄丸を見守りながら続航した。
17時44分半B受審人は、徳栄丸に避航の気配が見られないまま至近に迫ったので、ようやく衝突の危険を感じ、曳索を延ばし、機関を全速力前進にかけ、左舵一杯としたが及ばず、健龍丸は、船首が089度を向き、7.0ノットの速力となったとき、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、徳栄丸は、左舷船首部外板に擦過傷を生じ、健龍丸は、左舷中央部から同後部のブルワークに亀裂を生じたが、のち修理された。
(原因)
本件衝突は、明石海峡東方沖合において、徳栄丸が、見張り不十分で、漁ろうに従事している健龍丸の進路を避けなかったことによって発生したが、健龍丸が、汽笛不装備で警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、明石海峡東方沖合を西行する場合、漁ろうに従事している健龍丸を見落とさないよう、右舷前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、右舷前方をいちべつしただけで、航行の支障となる他船はいないと思い、右舷前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、漁ろうに従事している健龍丸に気付かず、その進路を避けないまま進行して健龍丸との衝突を招き、徳栄丸の左舷船首部外板に擦過傷を、健龍丸の左舷中央部から同後部のブルワークに亀裂をそれぞれ生じさせるに至った。
B受審人は、明石海峡東方沖合において、揚網中、徳栄丸が衝突のおそれがある態勢で、自船の進路を避けずに間近に接近するのを認めた場合、速やかに機関を全速力前進にかけるなど、衝突を避けるための協力動作をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、いずれ徳栄丸が漁ろう中の自船を避けてくれるものと思い、衝突を避けるための協力動作をとらなかった職務上の過失により、そのまま進行して徳栄丸との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。