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平成13年横審第89号
件名

プレジャーボートシグモア標識灯衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年2月28日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(長谷川峯清、葉山忠雄、黒岩 貢)

理事官
酒井直樹

受審人
A 職名:シグモア船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
シグモア・・・左舷船首船縁及び同船底チャイン部外板に破口、のち廃船
第6号標識灯・・・亀裂を伴う曲損

原因
シグモア・・・見張り不十分

主文

 本件標識灯衝突は、見張りが十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。 

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年8月6日20時25分
 東京都葛西海浜公園三枚州

2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボートシグモア
総トン数 18トン
全長 16.21メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 441キロワット

3 事実の経過
 シグモアは、2基2軸でフライングブリッジを有する中央船橋型のFRP製プレジャーボートで、A受審人及び有資格のT所有者が乗り組み、同乗者6人を乗せ、千葉県浦安市にある東京ディズニーランドの花火見物の目的で、船首0.7メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成13年8月6日17時30分東京都江東区の夢の島マリーナを発し、京浜港東京第2区のお台場海浜公園内船だまりに投錨仮泊したのち、20時00分同船だまりを発進し、航行中の動力船の灯火を表示し、浦安沖灯標から298度(真方位、以下同じ)1海里の花火見物予定地点に向かった。
 ところで、シグモアは、操舵室に舵輪、機関操作レバー、レーダー、GPSプロッタ、魚群探知機及び磁気コンパスが、また、フライングブリッジに舵輪、機関操作レバー及びGPSプロッタがそれぞれ装備され、同ブリッジの操縦席に腰掛けたときの眼高が約4メートルであった。
 東京都の荒川及び旧江戸川両河口に挟まれた水域は、東京都港湾局が管理する葛西海浜公園の一部で、三枚州と称する浅瀬になっていた。同港湾局は、同州への乗揚防止を目的に、同州の北辺を除く周囲を取り囲むように黄色塗装が施された9基の東京都葛西海浜公園標識杭(以下「標識杭」という。)を設置し、北西端から同州の南辺を経て北東端に向かって第1号から第9号まで順番号を付していた。
 標識杭は、外径508ミリメートル(以下「ミリ」という。)板厚16ミリ長さ16メートルの鋼管の片端に、外径559ミリ板厚12.7ミリ長さ2.5メートルの鋼管が二重張りにされたもので、同二重張り部の頂部が東京湾平均海面上高さ3.37メートルになるよう海底に打ち込まれ、同頂部から下方に「乗揚げ注意」等の文字を記載した縦1.5メートル横1.3メートル厚さ4ミリのレーダー反射器を兼ねた3枚のFRP製標識板が三角柱状に取り付けられ、また、同頂部から上方高さ600ミリに、灯質黄色4秒1閃光・到達距離7.5キロメートルの標識灯が装備されていた。
 A受審人は、東京灯標から荒川河口域を経て、東京ディズニーランド及びその東に隣接して翌9月に開園予定で建設中の東京ディズニーシーの沖合に至る水域を何回も航行した経験があり、標識杭(以下「標識灯」という。)の存在を知っており、東京東航路から同沖合に向かうときには、同航路の中間で浦安沖灯標から329度1,400メートルの東京ディズニーシー内にある汽船型遊興施設コロンビア号の煙突に向け、また、9基の標識灯のうちの南東端に位置し、同灯標から281度1.4海里に設置された第6号標識灯を左方に約40メートル離して航行していた。
 こうして、A受審人は、発進後フライングブリッジの操縦席に腰を掛け、東京西航路の東側航路外を南下して中央防波堤内側埋立地の北側を東行したのち、東京東航路内を南下し、20時19分半浦安沖灯標から263度3.1海里の地点に達したとき、開園前の各種催し物で明るく照明が施された東京ディズニーシーの方角に向けて左転し、針路をコロンビア号の煙突に向く069度に定め、機関を港内全速力前進にかけ、19.5ノットの速力で、手動操舵により進行した。
 定針時にA受審人は、正船首1.8海里のところに、海面上高さ約3.2メートルに灯光を有する第6号標識灯があり、同標識灯が前方の東京ディズニーシーの強い照明及び同照明の海面に反射した明かりに紛れて見えにくいものの、各標識灯に設けられた標識板がレーダー反射器を兼ねていたので、レーダーを使用すれば前路に第6号標識灯の存在を認めることができ、定めた針路で進行すると同標識灯に向かって衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、航行に慣れた水域なのでレーダーを使用して前路の監視を行うまでもあるまいと思い、操舵室にT所有者を配置してレーダー監視を行わせるなど前路の見張りを十分に行うことなく、その後第6号標識灯に向首接近していることに気づかないまま、照明で照らされたコロンビア号と、海岸線、航跡及び進路などが表示されるGPSプロッタ画面とを交互に見ながら続航した。
 20時25分直前A受審人は、ふとGPSプロッタから目を移して前路を見たとき、正船首わずか左至近に第6号標識灯の標識板を初めて認め、慌てて機関を中立としたが間に合わず、20時25分浦安沖灯標から281度1.4海里の地点において、シグモアは、原針路、原速力のまま、その左舷船首が同標識灯に衝突した。
 当時、天候は晴で風力4の東風が吹き、潮侯は下げ潮の初期にあたり、潮高は176センチメートルで、視界は良好であった。
 この結果、シグモアは、左舷船首舷縁及び同船底チャイン部外板にそれぞれ破口を生じ、自力で夢の島マリーナに向かったが、途中荒川河口を北上中に同破口部からの浸水が激しくなり、航行不能となって新砂水門南東方約450メートルの浅所に任意座礁し、のち同マリーナに引き付けられたが廃船処理され、第6号標識灯は、海底下40センチメートルのところに亀裂を伴う曲損を生じたが、のち東京都港湾局により新換えされた。

(原因)
 本件標識灯衝突は、夜間、東京東航路から東京ディズニーシー沖合に向けて航行する際、見張り不十分で、葛西海浜公園の一部である三枚州の南東部に設置された乗揚防止用の第6号標識灯に向首進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、フライングブリッジで操船に当たり、東京東航路から東京ディズニーシー沖合に向けて航行する場合、第6号標識灯の灯光が前方の同ディズニーシーの明かりに紛れて見えにくい状況であったから、同標識灯を遠方から探知できるよう、同乗中の 山所有者にレーダー監視を行わせるなどして前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同受審人は、航行に慣れた水域なので、レーダーを使用して前路の監視を行うまでもあるまいと思い、同所有者にレーダー監視を行わせるなどして前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、第6号標識灯に向首接近していることに気づかないまま進行して同標識灯との衝突を招き、シグモアの左舷船首舷縁及び同船底チャイン部外板にそれぞれ破口を生じさせ、第6号標識灯の海底下40センチメートルのところに亀裂を伴なう曲損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同受審人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。





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