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平成13年横審第85号
件名

貨物船興和丸漁船第三十五日東丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年2月22日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(半間俊士、長谷川峯清、甲斐賢一郎)

理事官
関 隆彰

受審人
A 職名:興和丸船長 海技免状:三級海技士(航海)
B 職名:第三十五日東丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
C 職名:第三十五日東丸一等航海士 海技免状:四級海技士(航海)

損害
興和丸・・・左舷錨、左舷ベルマウス部及び左舷ホースパイプを損傷
日東丸・・・右舷船尾甲板上のブルワーク、ボラードを損傷

原因
日東丸・・・追い越しの航法(避航動作)不遵守

主文

 本件衝突は、第三十五日東丸が、興和丸を確実に追い越し、かつ、同船から十分に遠ざかるまでその進路を避けなかったことによって発生したものである。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Cを戒告する。 

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年1月16日06時15分
 茨城県鹿島灘

2 船舶の要目
船種船名 貨物船興和丸 漁船第三十五日東丸
総トン数 499.95トン 286トン
全長   56.60メートル
登録長 66.69メートル  
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,176キロワット 735キロワット

3 事実の経過
 興和丸は、専ら千葉県木更津港と岩手県釜石港との間を、ペレット状鉄塊運搬に従事する船尾船橋型鋼製貨物船で、A受審人ほか4人が乗り組み、空倉で海水バラスト450トンを張り、船首2.2メートル船尾3.3メートルの喫水をもって、平成13年1月15日10時20分釜石港を発し、木更津港に向かった。
 A受審人は、船橋当直を同人と一等航海士との単独6時間交代制として航海を続け、翌16日05時45分昇橋して法定灯火が点灯していることを確認し、一等航海士から船橋当直を引き継ぎ、06時00分鹿嶋灯台から095度(真方位、以下同じ。)11.9海里の地点で、レーダーにより船位を確認して針路を175度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力で、自動操舵により進行した。
 定針時にA受審人は、左舷船尾43度1.0海里に第三十五日東丸(以下「日東丸」という。)の掲げる緑灯及び薄いながらもその船影を初めて視認し、そののち操舵スタンドの前に立って前方の見張りを行いながら続航した。
A受審人は、06時14分少し前鹿嶋灯台から105度12.5海里の地点に達し、船橋内左舷側の海図台のところで、ふと左舷後方を見たとき、自船の船尾と日東丸の船首が並び、同船が左舷側に40メートル離れて追い越しの態勢で接近していることを認め、自船の針路、速力を保つことに努めて進行中、同時14分半自船の船首と日東丸の船首とが並航し、同船が右転し自船の前方に進出する態勢になったのを見て、機関を全速力後進としたところ、06時15分鹿嶋灯台から106度12.6海里の地点において、興和丸は、原針路、原速力のまま、日東丸の右舷船尾が興和丸の左舷船首に後方から12度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力1の北西風が吹き、日出時刻は06時46分であった。
 また、日東丸は、可変ピッチプロペラを装備したまき網漁業船団に付属する鋼製運搬船で、B、C両受審人ほか7人が乗り組み、砕氷90トンを積んで網船など僚船と共に、同月15日18時30分銚子港を発し、鹿島灘の漁場に至り、23時ごろから操業を行ったのち、漁獲したセグロイワシ45トンを積み、水揚げの目的で、船首2.0メートル船尾3.8メートルの喫水をもって、翌16日05時30分漁場を発進し、銚子港に向かった。
 B受審人は、漁場発進時から法定灯火と白色点滅灯を点灯し、単独の船橋当直に就いて南下を始め、05時35分鹿嶋灯台から068度14.3海里の地点で、針路を銚子港に向かう188度に定め、機関を全速力前進にかけ、13.3ノットの対地速力で、自動操舵により進行した。
 定針時B受審人は、レーダーで右舷船首18度2.3海里ばかりに興和丸の映像を認めたが、その後昇橋したC受審人に船橋当直を引き継ぐにあたり、同人とは長年一緒に乗り組み、船長経験もあって信頼していたことから、同当直中の注意事項を指示するまでもないと思い、興和丸の存在や、他船にあまり接近せず、他船を追い越す際には確実に追い越し、かつ、十分に遠ざかるまでその進路を避けるよう指示することなく、銚子港に接近したら知らせるよう指示したのみで、05時40分鹿嶋灯台から072度13.8海里の地点で同当直を交代して降橋した。
 C受審人は、船橋当直交代時、6海里レンジとしたレーダーで右舷船首20度2.0海里ばかりに興和丸の映像を認め、同時に同船の船尾灯と船影を初めて視認し、同航の態勢で続航した。
 06時13分半C受審人は、鹿嶋灯台から105度12.5海里の地点に達し、興和丸の船橋が右舷船首30度100メートルとなったとき、手動操舵に切り替え、針路を同船と40メートル隔てて並航する175度に転じ、同時14分少し過ぎ自船の船橋と興和丸の船橋が並んだとき、平素漁場において僚船と進路を交差させて接近する際、10メートル以内で替わしたこともあったので、自船の速力が興和丸より速いことであり、銚子港に向かう針路に戻しても興和丸の進路を替わせるものと思い、同船を確実に追い越し、かつ、同船から十分に遠ざかるまでその進路を避けることなく、右舵10度をとり、針路を187度に転じて進行中、前示のとおり衝突した。
 B受審人は、食堂で休んでいたとき衝撃で気付き、昇橋する際右舷船尾に興和丸を認めて衝突を知り、事後の措置にあたった。
 衝突の結果、興和丸は、左舷錨、左舷ベルマウス部及び左舷ホースパイプを損傷し、日東丸は、右舷船尾甲板上のブルワーク、ハンドレール及びボラードを損傷したが、のちいずれも修理された。

(原因)
 本件衝突は、日出前の薄明時、鹿島灘において、日東丸が、興和丸を追い越す際、同船を確実に追い越し、かつ、同船から十分に遠ざかるまでその進路を避けなかったことによって発生したものである。
 日東丸の運航が適切でなかったのは、船長が船橋当直者に対し、他船を追い越す際の措置について十分に指示しなかったことと、同当直者が他船を追い越す際の措置が適切でなかったこととによるものである。

(受審人の所為)
 B受審人は、日出前の薄明時、鹿島灘において、銚子港に向けて南下中、一等航海士と船橋当直を交代する場合、同当直中の注意事項について十分に指示すべき注意義務があった。しかしながら、同受審人は、一等航海士とは長年一緒に乗り組み、船長経験もあって信頼していたことから、同当直中の注意事項を指示するまでもないと思い、他船を追い越す際の措置について十分に指示しなかった職務上の過失により、興和丸との衝突を招き、同船の左舷錨、左舷ベルマウス部及び左舷ホースパイプに損傷を生じさせ、日東丸の右舷船尾甲板上のブルワーク、ハンドレール及びボラードに損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して、同人を戒告する。
 C受審人は、日出前の薄明時、鹿島灘において、右舷近距離の興和丸を追い越す場合、同船を確実に追い越し、かつ、同船から十分に遠ざかるまでその進路を避けるべき注意義務があった。しかしながら、同受審人は、銚子港に向かう針路に戻しても興和丸の進路を替わせるものと思い、同船を確実に追い越し、かつ、同船から十分に遠ざかるまでその進路を避けなかった職務上の過失により、同船との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して、同人を戒告する。
 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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