(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年2月4日09時20分
静岡県御前埼東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船久喜丸 |
プレジャーボート福義丸 |
総トン数 |
199トン |
4.3トン |
全長 |
57.64メートル |
13.00メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
213キロワット |
3 事実の経過
久喜丸は、船尾船橋型鋼製貨物船で、A受審人ほか2人が乗り組み、鋼材約605トンを積載し、船首2.60メートル船尾3.60メートルの喫水をもって、平成13年2月3日23時10分木更津港を発し、名古屋港に向かった。
A受審人は、航海当直を同人、甲板長、機関長の順番による単独3時間交代制としており、出港操船に引き続き単独の当直に就いて浦賀水道を南下し、翌4日03時ごろ三浦半島の南西方沖合で甲板長と交代して休息した。
09時00分A受審人は、御前埼灯台から101度(真方位、以下同じ。)9.0海里の地点に達したとき、機関長と交代して再び単独の航海当直に就き、針路を273度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、10.7ノットの対地速力で進行した。
当直交代時A受審人は、12海里レンジとしたレーダーにより御前埼の航過距離を確認し、その後海図を見たり書類の整理などを行い、09時12分操舵室後部の壁際に置いたいすに腰を掛け、当時、荷主から積荷に対する損害賠償を請求される可能性があったため、体をやや右舷方に向けて床に目を落とし、その処理について考え事をしながら当直を続けた。
09時17分A受審人は、御前埼灯台から105度5.9海里の地点に至ったとき、正船首方1,000メートルにスパンカを展張して漂泊中の福義丸を認めることができ、その後衝突のおそれのある態勢で接近する状況となったが、依然、考え事をしていて、見張りを十分に行っていなかったため、このことに気付かず、同船を避けないまま続航した。
09時20分少し前A受審人は、ふと船首方を向いたとき、至近に福義丸を初めて認め、直ちに手動操舵に切り替えて右舵一杯としたが及ばず、09時20分久喜丸は、御前埼灯台から106度5.4海里の地点において、ほぼ原針路、原速力のまま、その船首が、福義丸の右舷側前部に後方から80度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力2の北西風が吹き、高さ約2メートルの西寄りのうねりがあった。
また、福義丸は、FRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、魚釣りの目的で、船首0.20メートル船尾1.35メートルの喫水をもって、同月4日04時00分静岡県焼津港を発し、御前埼東方沖合の釣り場に向かった。
B受審人は、同県相良港沖合4海里付近と御前埼東方沖合10海里付近とでそれぞれ魚釣りを行ったのち、09時ごろ前示衝突地点付近の釣り場に至って機関を中立とし、スパンカを展張して前の釣り場で用意したイカ釣り道具の片付けや、タイ釣り用の竿や餌などの準備を始めた。
09時17分B受審人は、船首が353度を向いているとき、右舷船尾80度1,000メートルに自船に向首する久喜丸を認めることができ、その後衝突のおそれのある態勢で接近する状況となったが、魚釣りの準備に気をとられ、見張りを十分に行っていなかったため、このことに気付かず、警告信号を行うことも、更に接近して機関を後進にかけるなどの衝突を避けるための措置をとることもなく漂泊を続けた。
09時20分少し前B受審人は、船首部に赴き、甲板上に置いた餌用のクーラーボックスの蓋を開けようとしてふと右舷側を見たとき、至近に久喜丸の船体を初めて認め、機関を後進にかけようとしたが何もできないまま、353度を向首して前示のとおり衝突した。
衝突の結果、久喜丸は、船首部に擦過傷を生じ、福義丸は、右舷側前部外板及び上部構造物を損傷したが、のち修理された。
(原因)
本件衝突は、静岡県御前埼東方沖合において、久喜丸が、見張り不十分で、前路で漂泊中の福義丸を避けなかったことによって発生したが、福義丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、静岡県御前埼東方沖合において、単独の航海当直に就いて航行する場合、前路で漂泊する福義丸を見落とさないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、考え事をしていて、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路で漂泊中の福義丸に気付かず、同船を避けないまま進行して衝突を招き、自船の船首部に擦過傷を、福義丸の右舷側前部外板及び上部構造物に損傷をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、静岡県御前埼東方沖合において、魚釣りのため漂泊する場合、自船に向首して接近する久喜丸を見落とさないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、魚釣りの準備に気をとられ、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、自船に向首して接近する久喜丸に気付かず、警告信号を行うことも、機関を後進にかけるなど衝突を避ける措置をとることもなく漂泊を続けて同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。