(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年12月18日06時40分
宮城県名足漁港沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船正盛丸 |
漁船三宝丸 |
総トン数 |
0.5トン |
0.4トン |
登録長 |
6.03メートル |
5.04メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
電気点火機関 |
漁船法馬力数 |
30 |
30 |
3 事実の経過
正盛丸は、信号装置及び灯火設備のない船外機付きのFRP製漁船で、受審人Aほか3人が乗り組み、あわび採取のため、船首0.1メートル、船尾0.8メートルの喫水をもって、平成12年12月18日06時37分宮城県名足漁港北部を発し、同漁港北東方の犬こ浜と称する東方に向いた海岸付近の採取場に向かった。
A受審人は、船尾右舷の物入れに腰掛けて左手で船外機の操作に当たり、06時38分少し過ぎ名足漁港北部南側の防波堤北東端を右舷至近距離で通過したとき、針路を115度(真方位、以下同じ。)に定め、船外機を半速力前進にかけ、そのころ日出の7分ばかり前であったが、左舷船首25度400メートルのところに沖に向かう三宝丸を認め、自船と同じ犬こ浜に向かうと思い、5.0ノットの対地速力で進行し、06時39分歌津埼灯台から003度2,730メートルの地点に達したとき、針路を070度に転じるとともに、船外機を全速力前進にかけ、12.0ノットの対地速力で続航した。
このとき転針したことにより正船首方となった三宝丸が、360メートルのところで停留しており、A受審人は、全速力前進にかけると船首が浮き上がり、船尾に腰掛けていると船首方を見通すことができない状況であったが、同船が沖に向かって走っているので危険はないと思い、左方の竜神埼南側海岸付近のあわび採取中の漁船の様子を見ることに気をとられ、立ち上がって三宝丸の状況を確かめるなど、動静監視を十分に行わなかったので、同船に衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、同船を避けないまま同針路及び同速力で進行中、06時40分歌津埼灯台から010度2,900メートルの地点において、正盛丸は、その船首が三宝丸の右舷中央部に後方から65度の角度で衝突し、同船に乗り揚がった。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の中央期で、日出時刻は06時45分であった。
また、三宝丸は、信号装置及び灯火設備のない船外機付きのFRP製漁船で、あわび採取のため、受審人Bほか両親が乗り組み、船首0.2メートル、船尾0.8メートルの喫水をもって、06時30分名足漁港北部を発し、同漁港東方の竜神埼南側の採取場に向かい、同時38分半歌津埼灯台から010度2,900メートルの前示衝突地点付近に至った。
B受審人は、船外機を停止のうえ、これを上げて停留し、あわび採取の準備のうえ、中央部に位置して左舷側から身を乗り出し、左手で箱めがねを支えて覗(のぞ)き、右手で採取用竹竿を持ち、採取を開始した。
06時39分B受審人は、135度に向首しているとき、右舷船尾65度360メートルのところに自船に向かって衝突のおそれがある態勢で接近する正盛丸があったが、停留したころ接近する他船がなかったことから、接近する他船はいないと思い、自ら周囲を確かめるとか、船尾左舷でろかいにより船首方向を維持していた父に接近する他船があれば知らせるよう指示するなどの周囲の十分な見張りを行わなかったので、同船に気付かず、衝突を避けるための措置をとらないまま停留を続け、06時40分少し前母の知らせで右舷後方至近に正盛丸を認めたが、どうすることもできず、135度に向首した状態で前示のとおり衝突した。
B受審人は、海中に投げ出された母を引き上げて正盛丸に乗せ、A受審人に病院までの搬送を依頼するなどの事後の措置に当たった。
衝突の結果、正盛丸は船首船底に擦過傷を生じ、三宝丸は中央部右舷外板に亀裂及び凹損を生じ、B受審人の母が外傷性肝破裂を負った。
(原因)
本件衝突は、日出直前の薄明時、宮城県名足漁港沖合において、正盛丸が、あわび採取場に向かって進行中、動静監視不十分で、前路で停留した三宝丸を避けなかったことによって発生したが、三宝丸が、停留してあわび採取中、周囲の見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、日出直前の薄明時、宮城県名足漁港沖合において、操船に当たり、あわび採取場に向かって進行する場合、全速力で航行すると船首が浮き上がって船首方が見通せない状況であったから、自船の転針により正船首方となった三宝丸の状況を把握できるよう、立ち上がるなどして三宝丸の動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同受審人は、転針前に三宝丸を認めたとき、同船が自船と同様に沖に向かって航走していたので危険はないと思い、立ち上がって同船の状況を確かめるなどの動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、停留した同船に衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、同船を避けないまま進行して衝突を招き、正盛丸の船首部船底に擦過傷を、三宝丸の中央部右舷外板に亀裂及び凹損を生じさせ、B受審人の母に外傷性肝破裂を負わせるに至った。
B受審人は、日出直前の薄明時、宮城県名足漁港沖合において、あわび採取のため停留した場合、自ら周囲を確かめるとか、乗り組んでいた父に接近する他船があれば知らせるよう指示するなどして周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同受審人は、停留したころ接近する他船がなかったことから、接近する他船はいないと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれがある態勢で接近する正盛丸に気付かず、衝突を避けるための措置をとらないまま停留を続けて同船との衝突を招き、前示の損傷を生じさせ、負傷を負わせるに至った。