日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成13年函審第55号
件名

漁船第十八早池峰丸漁船第八萬盛丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年2月21日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(織戸孝治、安藤周二、工藤民雄)

理事官
堀川康基

受審人
A 職名:第十八早池峰丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:第八萬盛丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
早池峰丸・・・船首部に凹損
萬盛丸・・・左舷中央部外板に破口等

原因
早池峰丸・・・狭視界時の航法(信号、レーダー、速力)不遵守(主因)
萬盛丸・・・狭視界時の航法(信号、レーダー)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第十八早池峰丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったことによって発生したが、第八萬盛丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。 

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年9月1日05時50分
 色丹島東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第十八早池峰丸 漁船第八萬盛丸
総トン数 19トン 9.7トン
全長 22.60メートル 19.20メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 478キロワット 496キロワット

3 事実の経過
 第十八早池峰丸(以下「早池峰丸」という。)は、さんま漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人及び漁労長Kほか6人が乗り組み、操業の目的で、船首0.6メートル船尾2.6メートルの喫水をもって、平成12年8月30日14時00分北海道釧路港を発し、色丹島東方沖合35海里ばかりのロシア連邦経済水域内の漁場に向かい、さんま13.2トンを漁獲したのち翌々9月1日04時30分色丹島灯台から080.0度(真方位、以下同じ。)33.0海里の地点を発進し、同経済水域出入船が通過するよう定められている同灯台から213度54海里ばかりの地点を経由する予定で帰途に就いた。
 早池峰丸は、K漁労長が発進時から単独の船橋当直に就き、霧により視界が制限された状況の下、霧中信号を行うことなく、自動操舵により針路を229度に定めて操業の後片付け作業のため機関を半速力前進にかけ、5.1ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行し、04時50分同作業が終了したので機関を全速力前進にかけ、10.1ノットの速力で続航中、05時30分A受審人が同漁労長と食事交替のために昇橋して単独の船橋当直に就いた。
 ところで、早池峰丸のレーダーは、当時、3マイルレンジ以外は探知能力が低下し、更に同レンジで1マイル以内の海面反射が除去できなくなっていたため、3マイルレンジとしたレーダーの継続した見張りにより早期に他船などを探知する必要があった。
 A受審人は、霧により視界が約10メートルに制限された状況の下、依然、霧中信号を行うことも安全な速力に減じることもなく、3マイルレンジとしたレーダーを見ながら航行中、05時32分少し過ぎ色丹島灯台から092.5度24.5海里の地点に達したとき、船首方3.0海里のところに漂泊中の第八萬盛丸(以下「萬盛丸」という。)が存在し、その後同船と著しく接近することを避けることができない状況であったが、レーダーによる見張りを十分に行っていなかったので、同船に気付かず、速力を針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて行きあしを止めることなく続航した。
 K漁労長は、朝食ののち05時45分昇橋してA受審人から何ら引継事項を受けずに当直に当たったとき、レーダーを一瞥したが船首方0.8海里に接近していた萬盛丸がレーダー画面の中心付近の海面反射内に入って識別できない状況になっていたため、同船に気付くことができなかった。
 一方、A受審人は、当直交替後、操舵室後部の無線室の机に向かいロシア側の臨検に備えて操業日誌の記載を行った。
 こうしてK漁労長は、05時50分わずか前操舵室の椅子に腰を掛けていたとき、萬盛丸を船首至近距離に認めて大声を発し、直ちに機関を全速力後進にかけるも及ばず、早池峰丸は、05時50分色丹島灯台から098.0度22.5海里の地点で、原針路、ほぼ原速力のままその船首部が萬盛丸の左舷中央部に前方から90度の角度で衝突した。
 当時、天候は霧で風力2の南西風が吹き、潮候は下げ潮の初期であった。
 A受審人は、無線室でK漁労長の大声を聞き、船首方を振り向いたとき、間近に迫った萬盛丸を視認したが何らなすことができず、同船と衝突するのを認め、事後の措置に当たった。
 また、萬盛丸は、さんま漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人ほか6人が乗り組み、操業の目的で、船首1.0メートル船尾2.5メートルの喫水をもって、同年8月31日10時00分北海道花咲港を発し、色丹島東方沖合20海里ばかりの漁場に向かい、操業を行ったのち翌9月1日04時30分前示衝突地点付近で、夜間操業に備えて漂泊を開始した。
 漂泊後、B受審人は、霧により視界が約10メートルに制限された状況の下、乗組員の睡眠の妨げになることから霧中信号を行わず、ロシア側の臨検に備えて操業日誌の整理や僚船との情報交換を行ったのち、付近を航行する他船はいないものと思い、レーダーにより周囲の見張りを行うことなく、05時30分操舵室内のベッドで休息した。
 こうしてB受審人は、05時32分少し過ぎ船首が139度に向いていたとき、左舷方3.0海里のところに早池峰丸が存在し、その後同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが、レーダーによる見張りを行っていなかったので、この状況に気付かず、同船に対して注意喚起信号を行うことなく、同方向を向首したまま前示のとおり衝突した。
 B受審人は、就寝中、衝突の衝撃で目覚め、事後の措置に当たった。
 衝突の結果、早池峰丸は船首部に凹損、萬盛丸は左舷中央部外板に破口等を生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
 本件衝突は、霧により視界が制限された色丹島東方沖合において、西行中の早池峰丸が、霧中信号を行うことも安全な速力とすることもせず、レーダーによる見張り不十分で、前路に漂泊中の萬盛丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて行きあしを止めなかったことによって発生したが、萬盛丸が、霧中信号を行わず、レーダーによる見張り不十分で、接近する早池峰丸に対して注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、霧により視界が制限された色丹島東方沖合を西行する場合、前路に漂泊中の萬盛丸を見落とさないよう、レーダーによる見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、レーダーによる見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、同船に気付かず、同船と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて行きあしを止めることなく進行して衝突を招き、早池峰丸の船首部に凹損、萬盛丸の左舷中央部外板に破口等をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、霧により視界が制限された色丹島東方沖合で漂泊する場合、接近する早池峰丸を見落とさないよう、レーダーによる見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、付近を航行する他船はいないものと思い、レーダーによる見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、早池峰丸に気付かず、注意喚起信号を行うことなく衝突を招き、前示のとおり両船に損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:18KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION