(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年12月4日14時20分
平戸島薄香湾
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船重宝丸 |
漁船日貿丸 |
総トン数 |
14.09トン |
2.25トン |
全長 |
15.90メートル |
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登録長 |
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6.25メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
電気点火機関 |
漁船法馬力数 |
120 |
30 |
3 事実の経過
重宝丸は、西日本の各地を移動しながら鯛の延縄漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか1人が乗り組み、給油や給水を終えて回航の目的で、船首0.42メートル船尾0.75メートルの喫水をもって、平成12年12月4日14時15分長崎県薄香湾漁港を発し、同県舘浦漁港に向かった。
A受審人は、操舵室の台の上に立って身体を天井から出して見張りを行いながら出航し、14時16分半薄香湾港西防波堤灯台(以下「西防波堤灯台」という。)から040度(真方位、以下同じ。)20メートルの地点において、針路を308度に定め、機関を9.0ノットの微速力前進にかけ、手動操舵で進行した。
A受審人は、針路を定めて間もなく前路に航行船舶がいなかったことから、操舵室のいすに腰を掛けて手動操舵のまま操船に当たり、14時19分少し前西防波堤灯台から310度630メートルの地点に達したとき、前路の暗岩表示の灯浮標を右舷に見て航行するため針路を左方に転ずることとしたが、左舷方の見張りを十分に行うことなく、前方だけを見ていたので、このころ、左舷船首51度360メートルのところに日貿丸が北に向け航走を開始したが、このことに気付かず、針路を290度に転じ、間もなく両船に衝突のおそれが生じた。
A受審人は、その後も日貿丸と衝突のおそれのある態勢で接近し、14時19分半同船を同方位150メートルに見るようになったが、依然、左舷方の見張りを行わなかったので、このことに気付かず、衝突を避けるための措置をとらないで続航し、14時20分西防波堤灯台から302度1,000メートルの地点において、重宝丸の左舷船首が原針路、原速力のまま、日貿丸の右舷前部に後方から68度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力1の北西風が吹き、潮候はほぼ低潮時であった。
また、日貿丸は、真珠養殖に従事するFRP製漁船で、B受審人が船長Tと2人で乗り組み、養殖用のいかだを設置する目的で、船首尾とも0.10メートルの等喫水をもって、同日13時55分平戸市須草の事務所の係留桟橋を発し、薄香湾崎山埼北側沿岸の養殖場に向かった。
B受審人は、14時ころ養殖場に到着してT船長といかだの設置にかかり、同時15分ころ長さ120メートルのいかだ1本を張り終え、同時19分少し前西防波堤灯台から289度890メートルの地点において帰途につくこととしたとき、北方に向いた船首方をいちべつしただけで、周囲の見張りを十分に行わなかったので、右舷船首61度360メートルのところを西行する重宝丸に気付かず、船尾右舷寄りの舷縁に腰を掛け、針路を358度に定め、機関を8.0ノットの航海速力にかけ、船外機を左手で操作しながら進行し、間もなく同船と衝突のおそれが生じた。
B受審人は、その後も重宝丸と衝突のおそれのある態勢で接近し、14時19分半同船を右舷船首61度150メートルに見る状況にあったが、発航する際、前方に他船を認めなかったことから、他船はいないものと思い、右舷方の見張りを行うことなく、前方を見ていたので、このことに気付かず、衝突を避けるための措置をとらないで原針路、原速力のまま続航中、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、重宝丸は、左舷船首に擦過傷を生じ、日貿丸は、右舷船首外板にき裂を生じたが、のちいずれも修理され、T船長は、後頭部皮下血腫及び頸部捻挫を負い、B受審人は、腰部打撲傷を負い、いずれも2週間の治療を要した。
(原因)
本件衝突は、平戸島薄香湾において、重宝丸が、見張り不十分で左転し、日貿丸が、見張り不十分で発進し、互いに衝突のおそれを生じさせ、いずれも衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、平戸島薄香湾を西行中、左舷方に転針しようとした場合、北上する日貿丸を見落とさないよう、左舷方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、十分な見張りを行わなかった職務上の過失により、日貿丸に気付かず、左転して衝突のおそれを生じさせるとともに衝突を避けるための措置がとれず、同船との衝突を招き、重宝丸の左舷船首を損傷させ、日貿丸の右舷船首外板にき裂を生じさせるなどの損傷をさせ、日貿丸の乗組員2人に後頭部皮下血腫、腰部打撲傷などを負わせるに至った。
B受審人は、平戸島薄香湾で養殖作業を終えて発航しようとした場合、右舷方を西行する重宝丸を見落とさないよう、十分な見張りを行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、十分な見張りを行わなかった職務上の過失により、重宝丸に気付かず、北方に向け発航して衝突のおそれを生じさせるとともに衝突を避けるための措置がとれず、同船との衝突を招き、前示の損傷及び負傷を生じさせるに至った。