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平成12年門審第122号
件名

漁船第五千栄丸漁船久栄丸衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年1月25日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(西村敏和)

理事官
長浜義昭

受審人
A 職名:第五千栄丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:久栄丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
千栄丸・・・左舷船首部に擦過傷
久栄丸・・・右舷船首部に擦過傷及び揚網機に損傷

原因
千栄丸・・・見張り不十分、船員の常務(新たな危険)不遵守

裁決主文

 本件衝突は、第五千栄丸が、見張り不十分で、停留中の久栄丸の至近のところで、同船に向けて転針したことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。 

適条
 海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号 

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年5月22日07時20分
 長崎県佐護湊漁港北方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第五千栄丸 漁船久栄丸
総トン数 4.9トン 1.0トン
全長 13.50メートル  
登録長 11.98メートル 6.67メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
漁船法馬力数 90 30

3 事実の経過
 第五千栄丸(以下「千栄丸」という。)は、さし網漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、船首0.6メートル船尾1.1メートルの喫水をもって、平成12年5月22日05時55分長崎県対馬佐護湊漁港を発し、対馬棹尾埼(さおざき)南南東方約1,500メートルの漁場に向かった。
 06時30分A受審人は、漁場に到着し、前日に施網したさし網の揚網に取り掛かり、07時00分揚網を終え、対馬棹尾埼(さおざき)灯台(以下「棹尾埼灯台」という。)から192度(真方位、以下同じ。)1,450メートルの地点を発進し、操舵室右舷側に立って手動操舵に当たり、針路を354度に定め、機関を回転数毎分800の微速力前進に掛け、5.0ノットの対地速力で、佐護湊漁港に向けて帰途に就いた。
 A受審人は、棹埼を通過した後、右舷側を一見して佐護湾口の魚瀬鼻北方に漁船を認めなかったことから、同鼻北方で操業する漁船はいずれも帰港したものと思い、07時14分少し過ぎ棹尾埼灯台から325度950メートルの地点において、針路を090度に転じ、魚瀬鼻北方に向けて進行し、同時18分半同灯台から009度750メートルの地点に達して、機関を回転数毎分1,800のほぼ全速力前進にかけ、18.0ノットに増速したところ、船首が浮上して右舷船首方に約7度及び左舷船首方に約13度の範囲にわたって死角(以下「船首死角」という。)を生じるようになった。
 ところが、A受審人は、増速した後も操舵室右舷側で立った状態のまま操船に当たり、07時19分わずか過ぎ棹尾埼灯台から029度880メートルの地点において、正船首わずか右方500メートルのところに、漁ろうに従事していることを示す形象物を掲げずに、船首を南に向けて停留中の久栄丸を視認し得る状況で、その後同船の船尾方を通過する態勢であったが、前路に他船はいないものと思い、操舵室天井に設けた見張り用の開口部から、船首死角を補う見張りを行っていなかったので、このことに気付かず、そのころ、左舷前方に僚船を認めたので、僚船の動静を監視しながら続航した。
 こうして、A受審人は、07時20分少し前右舷船首7度150メートルのところに停留中の久栄丸が存在したが、左舷前方の僚船の動静に気を取られ、依然として、船首死角を補う見張りを行わず、久栄丸の存在に気付かないまま、右舵5度をとって徐々に右転を始め、07時20分棹尾埼灯台から050度1,200メートルの地点において、千栄丸は、右に60度回頭して船首が150度を向いたとき、その左舷船首部が、久栄丸の右舷船首部に後方から30度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、視界は良好であった。
 また、久栄丸は、さし網漁業に従事する船外機を備えた和船型のFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、同人の妻を乗せ、操業の目的で、船首0.3メートル船尾0.5メートルの喫水をもって、同日07時00分佐護湊漁港を発し、魚瀬鼻北方の漁場に向かった。
 ところで、B受審人は、1張りの長さが約250メートル及び高さ約1.5メートルのさし網を2張り使用し、前日に、棹尾埼灯台から040度1,300メートルの地点において、1張り目の投網を始め、南南東方に前示衝突地点付近まで投網した後、方向転換して2張り目を北東方に投網し、魚瀬鼻北方に拡延した瀬の周辺に施網していた。
 07時05分B受審人は、漁場に到着して機関を中立とし、漁ろうに従事していることを示す形象物を掲げずに、自らは右舷船首部に設置した揚網機の後方で揚網作業に、妻が船尾甲板で網から漁獲物を取り外す作業にそれぞれ当たり、1張り目のさし網の北端から揚網を開始した。
 B受審人は、揚網が進むにつれて少しずつ南南東方に移動していたところ、07時13分半棹埼北西方を北上中の千栄丸を初めて視認し、その後同船が右転して自船の方に向けて東行するのを認め、同時19分わずか過ぎ前示衝突地点付近において、船首を180度に向け、2張り目の揚網に取り掛かったころ、右舷正横わずか後方500メートルのところの千栄丸が、自船の船尾方に向首していたことから、そのまま船尾方を通過するものと思い、同船の動静を監視しながら揚網を続けた。
 こうして、B受審人は、船首を180度に向けて揚網中、07時20分少し前右舷船尾85度150メートルのところに接近した千栄丸が、自船の船尾方を約20メートル隔てて通過する態勢であったところ、同時20分わずか前至近に迫った同船が右回頭を始め、自船に向首する態勢となって衝突の危険を感じ、両手を振りながら大声で叫んだが、衝突を避けるための措置をとる暇もなく、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、千栄丸は、左舷船首部に擦過傷を生じ、久栄丸は、右舷船首部に擦過傷及び揚網機に損傷を生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
 本件衝突は、長崎県佐護湊漁港北方沖合において、第五千栄丸が、漁場から同漁港に向けて帰航中、見張り不十分で、停留中の久栄丸の至近のところで、同船に向けて転針したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、長崎県佐護湊漁港北方沖合において、漁場から同漁港に向けて帰航する場合、船首が浮上して船首方に死角を生じていたのであるから、前路の他船を見落とさないよう、操舵室天井に設けた見張り用の開口部から、船首死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、一見して魚瀬鼻北方に漁船を認めなかったことから、同鼻北方で操業する漁船はいずれも帰港したものと思い、船首死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、右舷船首方で停留中の久栄丸に気付かず、同船の至近のところで、これに向けて転針して衝突を招き、第五千栄丸の左舷船首部に擦過傷を、久栄丸の右舷船首部に擦過傷及び揚網機に損傷をそれぞれ生じさせるに至った。
 B受審人の所為は、本件発生の原因とならない。


参考図
(拡大画面:25KB)





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