(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年10月9日17時42分
大分県津久見島南岸沖
2 船舶の要目
船種船名 |
プレジャーボート共福2 |
プレジャーボート将丸 |
総トン数 |
3.0トン |
0.97トン |
登録長 |
6.56メートル |
5.40メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
62キロワット |
17キロワット |
3 事実の経過
共福2は、船首部にやりだし甲板を設け、船体中央部に操舵室を有するFRP製プレジャーボートで、A受審人が1人で乗り組み、魚釣りの目的で、船首0.40メートル船尾1.30メートルの喫水をもって、平成12年10月9日12時00分大分県臼杵港を発し、同港北東方沖合4海里の筏島周辺で魚釣りを行ったのち、臼杵湾を南下して津久見島東岸沖約50メートルの釣り場に向かい、15時10分同島島頂から078度(真方位、以下同じ。)400メートルの地点で錨泊し、魚釣りを再開した。
A受審人は、折からの北風に船首を立てて魚釣りを続け、17時ごろ自船付近に錨泊して魚釣りを行っている漁船及びプレジャーボート各1隻を、左舷船尾方約500メートルの津久見島南岸沖に将丸を含む停止状態のプレジャーボート3隻ばかりをそれぞれ認めたが、やがて日没が近づき、自船付近の漁船及びプレジャーボートがいずれも臼杵港方面に走り去ったことから、自らも帰港することとした。
間もなく、A受審人は、揚錨を終え、機関を使用してゆっくり回頭したのち、17時40分津久見島島頂から090度350メートルの地点を発進すると同時に、針路を218度に定め、機関を回転数毎分600にかけて3.3ノットの対地速力で、操舵室右舷寄りに設置した舵輪後方に立ち、日没前であったものの、航行中の動力船の灯火を表示し、手動操舵により進行した。
定針したときA受審人は、右舷船首8度400メートルのところに船首を臼杵港に向けて停止状態の将丸を視認でき、同船が錨泊中の船舶が掲げる形象物を表示していなかったものの、その周囲に航跡がなく、17時ごろから全く移動していない様子から、同船が錨泊中であることが分かり得る状況であったが、自船付近の錨泊船がいずれも臼杵港方面に走り去っていたことから、津久見島南岸沖の前示船舶も全て帰港したものと思い、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、将丸の存在に気付かず、右舷正横方を向いて同島の離岸距離を確認しながら同島に沿って南下した。
A受審人は、17時41分少し過ぎ機関を回転数毎分3,400に上げて17.7ノットの対地速力に増速したところ船首部が浮上し、舵輪後方に立った姿勢では正船首方に死角を生じて見張りが妨げられる状況となり、同時42分少し前津久見島島頂から151度300メートルの地点に達したとき、転針方向を確認しないまま、針路を臼杵港に向く255度に転じたところ、将丸が正船首100メートルとなり、同船を視認できないで続航中、17時42分津久見島島頂から167度300メートルの地点において、共福2は、原針路、原速力のまま、その船首が、将丸の右舷船尾部に後方からほぼ平行に衝突し、同船の右舷側を乗り切った。
当時、天候は曇で風力1の北風が吹き、視界は良好で、潮候は高潮時にあたり、日没は17時48分であった。
A受審人は、船底から激しい衝撃を感じて機関を停止し、船体内部を調査して損傷が見付けられなかったが、浸水を危惧して急いで臼杵港に戻り、その後帰宅したところ、大分海上保安部から将丸との衝突の事実を知らされた。
また、将丸は、船体中央から少し船尾寄りに操舵室を有するFRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、友人2人を乗せ、魚釣りの目的で、船首0.20メートル船尾0.58メートルの喫水をもって、同日15時30分臼杵港を発し、同港北東方沖合約2海里の三ツ子島南岸沖の釣り場に至って魚釣りを行ったのち、17時00分前示衝突地点付近に移動して機関を停止し、船首から重さ30キログラムの錨を水深10メートルの海底に投じ、直径15ミリメートルの合成繊維製錨索を20メートル延出して船首部のかんぬきに係止し、錨泊中の船舶が掲げる形象物を表示しないまま、魚釣りを再開した。
B受審人は、友人1人とともに船体中央部に立ち、同友人が右舷方を、自らは左舷方をそれぞれ向き、他の1人が右舷後部で後方を向いて立ち、いずれも釣りざおを用いて魚釣りを行い、17時37分日没が近づいて釣り糸が見えにくくなったので帰港することとし、釣りざおなどの後片付けに取り掛かった。
17時40分B受審人は、船首が255度を向いていたとき、共福2が右舷船尾29度400メートルのところから、自船の左舷側を50メートルばかり離して無難に航過する態勢で南下し始めたものの、同船を視認しないまま、やがて操舵室に戻って発進準備を始め、友人1人は同室右舷前方で、他の1人は同室左舷後方でそれぞれ後片付けを続けた。
B受審人は、間もなく機関を始動し、17時42分少し前航海灯を点けようと腰を屈めて操舵室左舷側壁のスイッチに左手を伸ばしたとき、共福2が正船尾100メートルのところで自船に向けて針路を転じ、同時42分わずか前同室左舷後方に立っていた友人が至近に迫った共福2に気付いて大声を出したが、振り返る間もなく、将丸は、船首を255度に向けたまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、共福2は、船首及び船底外板に擦過傷並びに船首部ハンドレールに曲損を生じ、将丸は、右舷船尾舷端部及び外板、操舵室上部風防、右舷中央部舷端ハンドレール並びにマスト等に損傷を生じたが、のちいずれも修理された。また、B受審人が左上瞼切傷、左前腕打撲及び頚椎捻挫等を、友人1人が左肩関節打撲及び頚椎捻挫をそれぞれ負った。
(原因)
本件衝突は、大分県津久見島東岸沖において、釣り場から帰港する際、共福2が、見張り不十分で、錨泊中の将丸に向けてその至近で転針したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、大分県津久見島東岸沖において、錨泊して魚釣りを行ったのち、臼杵港に帰港する場合、同島南岸沖で錨泊中の他船を見落とすことがないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同受審人は、日没が近づき、自船付近の錨泊船がいずれも臼杵港方面に走り去っていたことから、津久見島南岸沖に存在した船舶も全て帰港したものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、同沖で錨泊中の将丸に気付かず、同船に向けてその至近で転針して衝突を招き、共福2の船首及び船底外板に擦過傷並びに船首部ハンドレールに曲損を、将丸の右舷船尾舷端部及び外板、操舵室上部風防、右舷中央部舷端ハンドレール並びにマスト等に損傷をそれぞれ生じさせ、B受審人及び友人1人に頚椎捻挫等を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同受審人の四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
B受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。