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平成13年広審第88号
件名

貨物船第十一進宝丸橋脚衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年1月31日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(竹内伸二、勝又三郎、中谷啓二)

理事官
黒田敏幸

受審人
A 職名:第十一進宝丸機関長 海技免状:五級海技士(航海)(履歴限定)

損害
第十一進宝丸・・・船首部が圧壊、浸水
北備讃瀬戸大橋3P橋脚・・・鋼製緩衝工の一部が破損、変形

原因
第十一進宝丸・・・居眠り運航防止措置不十分

主文

 本件橋脚衝突は、居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。 

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年3月17日23時30分
 備讃瀬戸西部 北備讃瀬戸大橋

2 船舶の要目
船種船名 貨物船第十一進宝丸
総トン数 199トン
全長 57.60メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 625キロワット

3 事実の経過
 第十一進宝丸は、船尾船橋型貨物船で、専ら阪神、九州間の穀物輸送に月間8ないし9航海就航し、A受審人と同人の兄である船長のNの2人が乗り組み、大豆粕600トンを積載し、船首2.8メートル船尾3.6メートルの喫水をもって、平成13年3月17日16時00分神戸港を発し、瀬戸内海経由で鹿児島県鹿児島港に向かった。
 ところで、A受審人は、昭和56年から内航貨物船の甲板員または機関員として乗り組み、その後五級海技士(機関)及び同(航海)の各海技免状を取得し、昭和61年から機関部または甲板部の職員として乗船するようになり、瀬戸内海の航行経験は豊富であった。
 N船長は、A受審人と2人で運航にあたり、積地と揚地間の航海時間が片道24時間前後となることがあったが、1箇月に3ないし4日の休養日を設け、ときどき五級海技士(機関)の海技免状を有する母親に乗船してもらい、その間A受審人か自身のいずれかが下船して休むようにしており、入出航及び狭水道では自ら操船し、航海中はA受審人と3ないし5時間交替で船橋当直を行うなど、A受審人に疲労が蓄積しないよう配慮していた。
 A受審人は、出航の前日15時30分に関門港若松区を出航して神戸港に向け航海中、前示のとおりN船長と交替で船橋当直に従事したほか、数時間ごとに機関室の点検を行ったものの、点検はせいぜい5分前後の短時間で、17日12時15分神戸港に入航したあとN船長が荷役の監督にあたって休息をとることができ、出航時に疲労や睡眠不足の状態ではなかった。
 出航作業を終えたあとA受審人は、16時40分ごろから1時間半ばかり休息をとって夕食を済ませ、19時10分淡路島の都志港北方約7海里のところで船長と交替して単独の船橋当直に就き、播磨灘を西行した。
 21時00分ごろA受審人は、大角鼻南方沖合に達したころ小雨模様の天候で視程が2ないし3海里となり、同時30分備讃瀬戸東航路に入航したあと、航路内でこませ網漁の漁船が操業していたので緊張して見張りと操船にあたりながら航路に沿って航行した。
 22時40分A受審人は、男木島西方約3海里に達したころ、依然小雨模様であったものの視程が10海里ばかりに回復し、同時56分小槌島灯台から019度(真方位、以下同じ。)1.1海里の地点で、備讃瀬戸東航路第1号灯浮標を右舷側100メートルに航過したとき、針路を246度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、10.5ノットの対地速力で進行した。
 23時10分A受審人は、乃生岬を左舷側1.0海里に通過し、そのころから航路内に操業漁船を見かけなくなり、近くを航行する他船もいなかったので、操舵室中央の舵輪の前で、椅子に座って前路の見張りにあたっていたところ、うとうとして眠気を感じるようになったが、今まで当直中に居眠りをしたことがなく、疲れていたわけではないので交替時刻の00時まで眠気を我慢できると思い、椅子から下りて体を動かすとか、新鮮な外気にあたるなどして居眠り運航の防止措置をとることなく、椅子に座ったまま見張りを続けるうち、いつしか居眠りに陥った。
 23時24分少し過ぎ第十一進宝丸は、備讃瀬戸北航路に入り、同時26分鍋島灯台から110度1,100メートルの地点で、航路が右に屈曲している小与島南方沖合に達し、三ツ子島北端に設置された北備讃瀬戸大橋3P橋脚が船首方1,300メートルに接近していたが、A受審人が居眠りをしていてこのことに気付かず、航路に沿って針路が転じられないまま続航中、23時30分鍋島灯台から189度890メートルの地点において、原針路、原速力のまま、船首が、北備讃瀬戸大橋3P橋脚に衝突した。
 当時、天候は雨で風力2の西風が吹き、潮候は上げ潮の初期にあたり、視界は良好であった。
 衝突の結果、第十一進宝丸は、船首部が圧壊して船首水倉に浸水し、船首が船舶衝突時の衝撃を緩和する目的で橋脚側面に仮設置されていた鋼製緩衝工に食い込んで離脱できなくなり、一時航行不能となったが、サルベージ船により救助されてその後修理され、また、北備讃瀬戸大橋3P橋脚は、鋼製緩衝工の一部が破損、変形した。

(原因)
 本件橋脚衝突は、夜間、瀬戸内海の香川県坂出市沖合において、備讃瀬戸東航路及び同北航路を航行中、居眠り運航の防止措置が不十分で、航路に沿って転針が行われず、北備讃瀬戸大橋の橋脚に向首したまま進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、単独で船橋当直に従事し、椅子に腰掛けたまま見張りにあたって備讃瀬戸東航路を自動操舵により西行中、付近に漁船など気になる船舶を見かけなくなって安心し、眠気を催した場合、居眠り運航とならないよう、椅子から下りて体を動かすとか、新鮮な外気にあたるなどして居眠り運航防止措置をとるべき注意義務があった。しかし、同人は、今まで当直中に居眠りをしたことがなく、疲れていたわけでもないので交替時刻まで眠気を我慢できると思い、新鮮な外気にあたるなど居眠り運航防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠りに陥り、北備讃瀬戸大橋3P橋脚に向首したまま進行して衝突を招き、船首部を圧壊して船首水倉に浸水させるとともに、同橋脚側面に仮設置されていた鋼製緩衝工の一部を破損、変形させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。





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