(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年9月10日03時30分
島根県隠岐諸島島後北方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船共福丸 |
漁船第五久光丸 |
総トン数 |
95トン |
85トン |
全長 |
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36.20メートル |
登録長 |
29.98メートル |
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機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,007キロワット |
617キロワット |
3 事実の経過
共福丸は、船体前部に操舵室を設けた沖合底びき網漁業に従事する鋼製漁船で、A受審人ほか10人が乗り組み、操業の目的で、船首2.5メートル船尾3.6メートルの喫水をもって、平成12年9月9日08時00分鳥取県鳥取港を僚船数隻とともに発し、島根県隠岐諸島の島後南東方30海里ばかりの漁場に向かった。
11時00分A受審人は、漁場に至って操業を開始し、その後北西方に移動しながら操業を繰り返したものの、漁獲がほとんどなかったので、僚船と相談して島後北方沖合の漁場に移動することとし、所定の灯火を表示して23時00分白島埼灯台から106度(真方位、以下同じ。)17.0海里の地点を発進し、翌10日02時30分同灯台から351度27.5海里の地点に至り、機関を停止し、前部マスト灯は点灯していたものの、舷灯一対と船尾灯を消灯し、操舵室後方に明るい作業灯4個及び集魚灯2個を点灯して船首が西南西方を向いた状態で漂泊を始めた。そして、自船の後方1海里ばかりを航行していた僚船には漂泊を開始した旨を漁業無線で連絡したので、他の僚船もこれを傍受していて、自船が漂泊し始めたのを了解したものと判断した。
A受審人は、操業を開始する日の出までの間漂泊して待機することとしたが、自船は明るい白色作業灯や集魚灯などを点灯していて周囲からよく見えるから、接近する他船が漂泊中の自船を避けてくれるものと思い、休息中の甲板員を昇橋させて見張りに当たらせるなどの船橋当直者を配置することなく、船橋を無人とし、少し休息するつもりで操舵室左舷側後方の寝台に向かい、仮眠した。
03時27分A受審人は、船首を247度に向けて漂泊していたとき、左舷正横後10度0.5海里のところに、自船の方に向かってくる第五久光丸(以下「久光丸」という。)の白、紅、緑3灯を視認でき、その後同船が衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、依然船橋を無人としたまま、仮眠をとっていて、自船を避けずに接近する久光丸に気付かず、警告信号を行うことなく漂泊を続け、03時30分白島埼灯台から351度27.5海里の地点において、共福丸は、その左舷中央部に久光丸の船首が後方から80度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力2の北東風が吹き、視界は良好で、日出は05時45分であった。
また、久光丸は、船体中央部に操舵室を設けた沖合底びき網漁業に従事する鋼製漁船で、B受審人ほか9人が乗り組み、操業の目的で、船首2.0メートル船尾2.8メートルの喫水をもって、同月9日08時00分鳥取港を共福丸を含む僚船数隻とともに発し、11時00分島後南東方30海里ばかりの漁場に至って操業を開始し、その後北西方に移動しながら操業を繰り返したものの、漁獲がほとんどなかったので、僚船の共福丸らと相談して島後北方沖合の漁場に移動することとし、所定の灯火を表示して23時30分白島埼灯台から110度18.5海里の地点を発進した。
発進したとき、B受審人は、操舵室中央の舵輪後方に立ち、針路を327度に定め、機関を全速力前進にかけて10.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)とし、止まっているときは前方がよく見えていたものの、全速力航走による船首浮上のため、舵輪後方の位置から正船首左右約10度の範囲で死角を生じて前方の見通しが妨げられる状態で、自動操舵によって進行した。
翌10日02時30分ごろB受審人は、開けていた操舵室前面の窓から外をのぞくなどしていて共福丸の漂泊した旨の漁業無線を聞き漏らしたまま、同一針路、速力で続航した。03時27分白島埼灯台から351.5度27.0海里の地点に達したとき、正船首0.5海里のところに、明るい白色作業灯や集魚灯などを掲げて漂泊中の共福丸が存在し、その後同船と衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、先航する僚船は夜が明けるまで航走することでもあるので、前路に漂泊中の僚船はいないものと思い、船首を左右に振ったり、作動中のレーダーを見たりするなどして船首死角を補う見張りを十分に行うことなく、共福丸に気付かず、同船を避けないまま進行中、久光丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、共福丸は左舷中央部外板に破口等を生じ、久光丸は船首部外板に擦過傷及び凹損を生じたが、のちいずれも修理された。
(原因)
本件衝突は、夜間、島根県隠岐諸島の島後北方沖合において、漁場を移動中の久光丸が、見張り不十分で、前路で漂泊中の共福丸を避けなかったことによって発生したが、共福丸が、船橋を無人とし、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
B受審人は、夜間、1人で操船に当たって島根県隠岐諸島の島後北方沖合を僚船とともに漁場移動のため北上する場合、全速力で航走すると船首が浮上して船首方向に死角を生じ、前方の見通しが妨げられる状況であったから、前路の他船を見落とすことのないよう、船首を左右に振ったり、作動中のレーダーを見たりするなどして船首死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、共福丸の漂泊した旨の漁業無線を聞き漏らしたまま、先航する僚船は夜が明けるまで航走することでもあるので、前路に漂泊中の僚船はいないものと思い、船首死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路で漂泊中の共福丸に気付かず、同船を避けることなく進行して衝突を招き、共福丸の左舷中央部外板に破口等を、久光丸の船首部外板に擦過傷及び凹損をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、夜間、島根県隠岐諸島の島後北方沖合において、操業を開始する日の出までの間漂泊して待機する場合、船橋を無人としないよう、休息中の甲板員を昇橋させて見張りに当たらせるなどの船橋当直者を配置すべき注意義務があった。しかるに、同人は、自船は明るい白色作業灯や集魚灯などを点灯していて周囲からよく見えるから、接近する他船が漂泊中の自船を避けてくれるものと思い、船橋を無人とし、船橋当直者を配置しなかった職務上の過失により、操舵室左舷側後方の寝台で仮眠していて久光丸の接近に気付かず、同船に対して警告信号を行うことなく漂泊を続けて衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。