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平成13年広審第66号
件名

貨物船勇進丸旅客船第三いんのしま衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年1月23日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(竹内伸二、中谷啓二、伊東由人)

理事官
岩渕三穂

受審人
A 職名:勇進丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
B 職名:勇進丸一等航海士 海技免状:三級海技士(航海)
C 職名:第三いんのしま船長 海技免状:五級海技士(航海)

損害
勇進丸・・・左舷船首部に亀裂
いんのしま・・・左舷側中央部に凹損

原因
いんのしま・・・船員の常務(前路進出、衝突回避措置)不遵守(主因)
勇進丸・・・警告信号不履行(一因)

主文

 本件衝突は、第三いんのしまが、勇進丸の前路に向けて進行し、衝突のおそれのある関係を生じさせたばかりか、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、勇進丸が、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 受審人Cを戒告する。
 受審人Aを戒告する。 

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年12月25日19時12分
 瀬戸内海因島西岸 生口橋南方

2 船舶の要目
船種船名 貨物船勇進丸 旅客船第三いんのしま
総トン数 499トン 98トン
全長   25.75メートル
登録長 65.54メートル  
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット 242キロワット

3 事実の経過
 勇進丸は、主に瀬戸内海において海砂の輸送に従事する船尾船橋型の砂利採取運搬船で、A、B両受審人ほか2人が乗り組み、海砂830立方メートルを積載し、船首3.2メートル船尾4.8メートルの喫水をもって、平成12年12月25日16時20分愛媛県今治港を発し、広島県尾道糸崎港の三原湾に向かった。
 A受審人は、平素陸上で船主として会社経営にあたっていたが、前任船長が休暇で下船したことから、同人が休暇を終えて乗船するまで運航の指揮を執っていたものの、狭い水道の航行にあまり慣れておらず、出航後自ら船橋当直にあたり、法定灯火を点灯して燧灘及び備後灘を北上したのち、伯方島、津波島間の狭い水路を通航し、その後伯方瀬戸及び青木瀬戸を経て三原湾に向かう予定で赤穂根島西岸に近寄って航行した。
 17時55分ごろA受審人は、ワンワン瀬灯浮標を左舷側約900メートルに通過したが、伯方瀬戸の通航に慣れていなかったうえ糖尿病を患い視力が低下していたことから同灯浮標を見落とし、大三島、生口島間の伯方瀬戸に架かる多々羅大橋に向け転針しないで岩城島南岸に近づき、18時00分同灯浮標北北東方1,100メートルの地点に達したとき、B受審人に船橋当直を引継いで手動操舵にあたらせ、引き続き在橋して操船の指揮をとりながら、岩城島、赤穂根島間を東行したうえ、岩城島、生名島間の水路を北上した。
 B受審人は、予定進路と違うことに気付いたが、A受審人の指示に従って操舵にあたり、橋梁名も分からないまま生口橋下を通過し、生口島と因島に挟まれた水路を北上した。
 A受審人は、それまで通航したことがない水路であることに気付いたものの、水深を確かめながら低速力で北上を続ければ三原湾に抜けられると考え、音響測深儀を作動させて航行中、18時55分ごろ水深が著しく浅くなったことを認め、GPSプロッタに経緯度で表示された船位を海図上で確認したところ、生口島北東岸の賀盛鼻北方沖合であることを知り、さらに北上を続けることは危険と判断して反転し、19時02分生口橋橋梁灯(C2灯)(以下「中央橋梁灯」という。)から338度(真方位、以下同じ。)1,250メートルの地点で、針路を157度に定め、機関を微速力前進にかけ、折からの弱い潮流に乗じて6.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行した。
 A受審人は、右舷側前面の窓際に立ち、自発的に昇橋した機関長とともに周囲の見張りを行いながら、可航幅が約400メートルの生口島、因島間の水路のほぼ中央を南下し、19時09分中央橋梁灯から147度150メートルの地点に達したとき、右舷船首40度440メートルの赤崎桟橋に着桟中の第三いんのしま(以下「いんのしま」という。)を初認し、同船がマスト灯及び紅灯を見せているものの停止していることから同桟橋に係留中であると判断し、ほぼ同時にB受審人も同船を認め、原針路、原速力のまま続航した。
 19時10分少し過ぎA受審人は、いんのしまが桟橋を離れ、自船の前路に向けて前進し始めたことに気付いたものの、どこに向かおうとしているのか分からず、同じころ同船が動き出したことを知ったB受審人が機関を中立とし、その後A受審人は、いんのしまがどちらかに転針するものと予想し、B受審人とともに増速中の同船に留意していたところ、同時10分半同船が自船の前路に向かう態勢のまま右舷船首77度250メートルとなり、衝突の危険を感じたB受審人が機関を全速力後進にかけたものの、転舵すれば左右の陸岸に接近して乗り揚げるおそれがあり、自船の停止距離からそのままでは衝突回避が困難な状況であったが、機関を全速力後進にかけたので何とか相手船が前路を航過すると思い、いんのしまに衝突回避措置を促すよう速やかに汽笛により警告信号を行わず、勇進丸は、舵中央のまま徐々に右転しながら進行中、19時12分中央橋梁灯から154度630メートルの地点において、180度を向首したとき、ごくわずかな残存速力で、船首が、いんのしまの左舷側中央部に、前方から87度の角度で衝突した。
 当時、天候は曇で、風力4の北西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期にあたり、付近には約0.5ノットの南南東流があった。
 また、いんのしまは、因島西岸の因島市田熊町金山と生口島東岸の同市洲江町赤崎間約500メートルの水路を横切って往復運航する定期旅客船で、毎日06時50分赤崎桟橋を出航し、数分後に金山桟橋に到着して乗客及び車両の乗下船を終えたあと折返し赤崎桟橋に向かうという航海を繰り返し、正午を挟んで1時間休む以外、19時40分金山桟橋発の最終便まで片道10分の往復運航に従事していた。同船は、主機関1基を備えるとともに船体両端にそれぞれプロペラ1箇を有し、クラッチにより一方のプロペラを中立として他方のプロペラにより前進し、金山又は赤崎に着桟後クラッチを切り替え、対岸に向け出航する際、船体を回頭させないまま、それまでの船尾側を船首側として進行する、いわゆる両頭船で、C受審人ほか2人が乗り組み、同日06時50分赤崎桟橋発の第1便から就業していた。
 19時04分C受審人は、赤崎桟橋に着桟し、係留索をとらないまま機関を極微速力前進にかけ、船首を267度に向けて桟橋に押し付けた状態で停泊し、ランプウエーを桟橋に降下したあと、車両甲板を照らす作業灯4個を点灯して操舵室から乗客と車両の乗下船を見守った。
 C受審人は、やがて乗客7人と車両5台が乗船し、出航予定時刻が近づいたので、金山桟橋に向け出航するためクラッチを中立とし、それまで点灯していた西行時の航海灯を消灯するとともに東行時の航海灯を点灯し、19時09分出航1分前となり、車両甲板にいる機関長にランプウエーを上げるよう指示する合図のベルを鳴らし、そのころ生口橋南方約150メートルの左舷船首70度440メートルのところに、水路のほぼ中央を南下する勇進丸の白、白、緑3灯を初認したが、同船の前路を航過することができると考え、船首尾とも1.7メートルの喫水をもって、19時10分機関を回転数毎分1,600の半速力前進にかけて離桟した。
 そのときC受審人は、勇進丸が左舷船首46度320メートルに接近していたが、そのまま金山桟橋に向け進行して衝突のおそれが生じても、横切り船の航法により相手船が自船の進路を避けるものと思い、機関を停止するなどして相手船の航過を待つことなく、針路を対岸の金山桟橋に向首する087度に定め、勇進丸の前路に向けて前進を開始し、徐々に速力を増しながら進行したところ、同船と衝突のおそれのある関係が生じた。
 C受審人は、勇進丸に留意しながら手動操舵にあたり、金山桟橋に向首したまま、折からの潮流により右方に約6度圧流されながら同船の前路に向かう態勢で続航し、19時10分半中央橋梁灯から184度570メートルの地点に達し、速力が6.0ノットでほぼ一定となったとき、勇進丸が250メートルに迫って衝突の危険があったが、速やかに行きあしを止めるなど衝突を避けるための何らの措置もとらず、原針路のまま進行中、いんのしまは、6.0ノットの速力で、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、勇進丸は左舷船首部に亀裂が、いんのしまは左舷側中央部に凹損などがそれぞれ生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
 本件衝突は、夜間、瀬戸内海の因島、生口島間の水路において、いんのしまが、生口島東岸の赤崎桟橋を出航して因島西岸の金山桟橋に向け航行する際、水路のほぼ中央を南下中の勇進丸の前路に向けて進行し、衝突のおそれのある関係を生じさせたばかりか、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、勇進丸が、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 C受審人は、夜間、生口島東岸の赤崎桟橋を出航して因島西岸の金山桟橋に向け航行する場合、折から水路のほぼ中央を南下中の勇進丸が間近に接近していたから、衝突のおそれが生じないよう、機関を停止するなどして同船の航過を待つべき注意義務があった。しかるに、同人は、横切り船の航法により勇進丸が自船の進路を避けるものと思い、勇進丸の航過を待たなかった職務上の過失により、同船の前路に向け進行して衝突を招き、勇進丸の右舷船首部に亀裂を、また、いんのしまの左舷側中央部に凹損などをそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人は、夜間、因島、生口島間の水路を南下中、生口島西岸に停泊中のいんのしまが、出航後自船の前路に向かう態勢のまま間近に接近した場合、転舵すれば左右の陸岸に接近して乗り揚げるおそれがあり、自船の停止距離からそのままでは衝突回避が困難な状況であったから、相手船に衝突回避措置を促すよう、速やかに警告信号を行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、機関を全速力後進にかけたので何とか相手船が前路を航過すると思い、速やかに警告信号を行わなかった職務上の過失により、いんのしまとの衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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