(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年4月27日09時40分
愛媛県中浦漁港
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第五十八大祐丸 |
漁船第八大漁丸 |
総トン数 |
85トン |
3.67トン |
全長 |
42.30メートル |
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登録長 |
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7.80メートル |
幅 |
6.38メートル |
2.10メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
669キロワット |
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漁船法馬力数 |
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70 |
船種船名 |
漁船第八十八千両丸 |
漁船第二千両丸 |
総トン数 |
4.97トン |
4.80トン |
登録長 |
10.15メートル |
9.60メートル |
幅 |
2.65メートル |
2.50メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
25 |
25 |
3 事実の経過
第五十八大祐丸(以下「大祐丸」という。)は、網船1隻、灯船2隻及び運搬船3隻からなる大中型まき網船団に所属する中央船橋型の鋼製灯船で、回転方向が船尾から見て左回りの可変ピッチプロペラ(以下「CPP」という。)を備え、CPPにまき網を巻き込むことを防止するため、クラッチ内蔵の減速機を連結したディーゼル機関を主機とし、4月から9月末まで三陸東方沖合で、10月から翌年3月末にかけては愛媛県中浦漁港を基地として東シナ海でそれぞれ操業することを毎年繰り返していた。
また、大祐丸は、操舵室前部中央の操舵スタンド右舷側に設置した主機遠隔操縦盤に、主機回転数制御レバー、クラッチ嵌脱スイッチ及びCPP翼角制御ダイヤルがそれぞれ組み込まれ、各機器を個別に操縦するようになっており、主機回転計、主機非常停止押ボタン、クラッチ位置表示ランプ、CPP翼角計及び警報装置などが付設されていた。
一方、主機は、圧縮空気によって始動され、操舵室での非常停止以外は機側で発停操作が行われ、主機前端に取り付けた警報監視盤に、主機の計器類や各種警報ランプとともに、クラッチ位置表示灯及びCPP翼角計が備えられており、クラッチ及びCPPとの間にインターロック装置は設けられておらず、CPPが前後進いずれかにとられた状態でクラッチを嵌合したまま始動させると、始動負荷が過大となるおそれがあるので、始動時には、クラッチの離脱及びCPP翼角を確認する必要があった。
ところで、中浦漁港は、愛媛県南端の半島部に位置し、北東方に開いた港口から西方の港奥に向け、南北方向の水域幅が200メートルばかりのほぼ逆コの字形をした岸壁が形成され、マブネ灯台から228度(真方位、以下同じ)1,070メートルの地点に中浦漁港原点(以下「漁港原点」という。)が設けられていた。
大祐丸は、A、B両受審人ほか5人が乗り組み、東シナ海での操業を終えて平成12年4月13日早朝中浦漁港に帰港し、漁港原点から125度260メートルの岸壁(以下「南岸壁」という。)に並列係留中であった僚船2隻のうち、沖側の運搬船第十一大祐丸の左舷側に、出船右舷付けとして同船との間に係留索をとり、主機及び発電機を停止して電源を陸電に切り換え、翌14日船内作業を済ませ、乗組員全員が休暇下船した。
越えて同月26日大祐丸は、乗組員全員が休暇を終えて帰船し、漁網の取換えなどの出漁準備を行い、15時30分ごろB受審人が主機減速機潤滑油こし器の開放掃除を済ませ、減速機試運転のために主機を始動し、一方、操舵室では連絡を受けたA受審人が、舵をほぼ中央とし、クラッチを嵌合してCPPの翼角を0度から後進7度にとって負荷をかけ、数分間の試運転を異常なく終えたものの、乗組員各自が作業を終えて帰宅する時間で急いでいたこともあって、A受審人がクラッチとCPP翼角を元に戻さなかったうえ、B受審人がクラッチ離脱やCPP翼角を確認しないで主機を停止し、16時ごろ乗組員全員が離船した。
翌27日A受審人は、08時ごろB受審人ら他の乗組員とともに帰船し、操舵室の清掃を行っていたところ、前日修理のために回航する旨を知らされていた第十一大祐丸が09時30分ごろ出航したのち、係留索を解かれた自船が船尾を北西方に向け、南岸壁から30メートルばかり離れた状態となったので、同岸壁係留中の他の僚船に再係船するために主機を運転することとし、甲板上で作業中の乗組員に対して、B受審人に主機の始動を伝えるよう指示した。
B受審人は、08時すぎに発電機を運転して陸電用ケーブルを取り外したのち、機関室に戻って主機右舷側床板下の居住区用海水管の開放掃除を行っていたところ、A受審人からの指示を聞き、作業を中断して主機を始動することにしたが、前日の試運転後に同受審人がクラッチやCPP翼角を元に戻したものと思い、主機警報盤でクラッチ位置表示灯やCPP翼角計を確認するなど、主機始動時の点検を行うことなく、09時36分漁港原点から120度240メートルの地点で主機を始動し、その後もクラッチが嵌合したうえ、CPP翼角が後進7度となっていることに気付かないまま運転を続け、同海水管の開放掃除を再開した。
一方、A受審人は、狭い水域内であったにもかかわらず、いつものようにしばらく主機を暖機運転しておいても大きく移動することはないと思い、周囲の見張りを行わなかったので、クラッチが嵌合しCPP翼角が微速力後進位置で主機が運転され、第八大漁丸外2隻が係留している対岸の岸壁(以下「北岸壁」という。)に向かって後進していることに気付かないまま、操舵室に隣接する無線室の清掃を続けた。
こうして、大祐丸は、船尾を左に振りながら北岸壁に向かって進行を続け、09時39分半A受審人が無線室の窓越しに船尾方50メートルばかりに同岸壁が迫っているのを認め、驚いてとっさに主機を非常停止し、次いで右舵一杯としたが及ばず、09時40分漁港原点から078度190メートルの地点において、船首が105度を向いて後進行きあしが約3ノットになったとき、左舷船尾側が第八十八千両丸の右舷船首部に前方から30度の角度をもって衝突し、その衝撃で同船の左舷側が第二千両丸の右舷側に、続いて自船の船尾左舷側が第八大漁丸の船首部にそれぞれ衝突した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の中央期であった。
また、第八大漁丸は、まき網漁業に従事する、第八十八千両丸及び第二千両丸は、ひき網漁業に従事するいずれもFRP製漁船で、北岸壁に係留索を取って3船とも船首を75度に向け、沖側から第八大漁丸、第八十八千両丸及び第二千両丸の順で並列となり、無人のまま左舷付係留中、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、大祐丸は、左舷側船尾部に擦過傷を生じたのみであったが、第八十八千両丸は船首部が圧壊し、同船と岸壁とに挟撃された第二千両丸は船首部から両舷中央部にかけて大破し、第八大漁丸は船首部に亀裂を生じ、のち第八十八千両丸と第八大漁丸は修理され、第二千両丸は修理の都合上廃船となった。
(原因)
本件衝突は、愛媛県中浦漁港において、南岸壁係留中の僚船に接舷していた大祐丸が、僚船の出航により他の僚船に再係船する際、主機始動時の点検及び周囲の見張りがいずれも不十分で、主機が後進にかかったまま、北岸壁に並列係留中の第八大漁丸外2隻に向かって進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、中浦漁港において、南岸壁係留中の僚船に接舷していた自船が僚船の出航により他の僚船に再係船するため、主機を始動させた場合、狭い水域内であったから、船体の動きを見逃さないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、いつものようにしばらく主機を暖機運転しておいても大きく移動することはないと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、クラッチが嵌合しCPP翼角が微速力後進位置で主機が運転され、後進していることに気付かないまま、北岸壁に並列係留中の第八大漁丸外2隻に向かって進行して衝突を招き、大祐丸の左舷側船尾部に擦過傷を、第八十八千両丸の船首部に圧壊を、第八大漁丸の船首部に亀裂をそれぞれ生じさせたほか、第二千両丸を大破させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、中浦漁港において、船長の指示を受けて主機を始動する場合、クラッチが嵌合してCPP翼角が微速力後進位置となっていることを見落とすことのないよう、主機警報盤でクラッチ位置表示灯やCPP翼角計を確認するなど、主機始動時の点検を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、前日の試運転後に船長がクラッチやCPP翼角を元に戻したものと思い、主機始動時の点検を十分に行わなかった職務上の過失により、クラッチが嵌合したうえ、CPP翼角が後進7度となっていることに気付かないまま主機の運転を続け、第八大漁丸外2隻との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。