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平成13年広審第29号
件名

漁船徳夫丸プレジャーボート半田丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年1月22日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(伊東由人、?橋昭雄、坂爪 靖)

理事官
道前洋志

受審人
A 職名:徳夫丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
B 職名:半田丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
徳夫丸・・・球状船首に亀裂
半田丸・・・左舷中央部外板に破口

原因
徳夫丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
半田丸・・・見張り不十分、注意喚起信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、徳夫丸が、見張り不十分で、停留中の半田丸を避けなかったことによって発生したが、半田丸が、見張り不十分で、避航を促すための有効な音響による信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。 

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年10月2日07時35分
 広島県 尾道糸崎港港界付近

2 船舶の要目
船種船名 漁船徳夫丸 プレジャーボート半田丸
総トン数 4.92トン  
登録長 9.50メートル 5.63メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力   54キロワット
漁船法馬力数 15  

3 事実の経過
 徳夫丸は、FRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、小型底引き網漁を行う目的で、船首0.1メートル船尾1.3メートルの喫水をもって、平成12年10月2日05時30分広島県尾道糸崎港第2区の係留地を発し、向島南東方沖合の漁場に向かった。
 06時30分A受審人は、前示漁場に至り、2回網を引いたところ漁がほとんどなかったので帰航することにし、07時05分機関を半速力前進にかけて7.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で漁場を離れ布刈瀬戸に向かって南下し、同時23分大浜埼灯台から114度(真方位、以下同じ。)1,640メートルの地点で、針路を304度に定め、折からの1.0ノットの潮流に乗じて8.0ノットの速力で進行した。
 07時31分少し過ぎA受審人は、大浜埼灯台から337度540メートルの地点で、針路を尾道糸崎港内の御幸瀬戸に向く009度に転じたとき、前方に他船を認めなかったことから、その後前路の見張りを十分に行うことなく、操舵室後方右舷側に置かれたいすに腰掛けて少し左舷方を向いて左手で舵柄を操作し、憩流時となって潮流の影響のほとんどなくなった状況のもと、7.0ノットの速力で続航した。
 こうして、07時31分半A受審人は、右舷船首方1,200メートルの同港津部田地区防波堤西端付近から半田丸が南下してくるのを視認でき、同時33分正船首方430メートルのところで、同船が船首を西方に向けて停留し衝突のおそれのある状況となったが、前路の見張りを十分に行っていなかったのでこれに気付かず、同時34分同船に210メートルまで接近したものの、依然見張り不十分で、同船を避けることなく進行し、07時35分大浜埼灯台から356度1,290メートルの地点において、徳夫丸は、原針路、原速力のまま、その船首が半田丸の左舷中央部に前方から84度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は低潮時であった。
 また、半田丸は、FRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、たい釣りの目的で、船首0.1メートル船尾0.6メートルの喫水をもって、同日07時30分尾道糸崎港津部田地区を発し、同港港界付近の釣り場に向かった。
 07時31分半、B受審人は、津部田地区防波堤をかわして針路を200度に定めたとき、左舷船首方1,200メートルのところに徳夫丸を視認できる状況下、機関を半速力前進にかけ、10.0ノットの速力で進行して釣り場に至り、同時33分前示衝突地点付近で、投錨するため右転して船首を273度に向けて行きあしを止めたとき、左舷船首84度430メートルのところの同船が自船に向首して衝突のおそれのある態勢で接近する状況となったが、右舷方や船尾方の目標物を見て船位を確認することに気を取られ、周囲の見張を十分に行わなかったのでこれに気付かないまま、水深17メートルのところに船首から投錨し錨索を35メートル延出してクリ−トに係止したのち、錨泊中であることを示す形象物を掲示することなく、機関を停止してキャビン内と甲板上を往復して釣りの準備を行った。
 07時34分、B受審人は、徳夫丸が自船を避ける様子なく220メートルまで接近したものの、依然見張り不十分でこのことに気付かず、避航を促す有効な音響による信号を行うことも、機関を後進にかけるなどの衝突を避けるための措置もとることなく釣りの準備中、同時35分わずか前至近に迫った同船を初めて認めたもののどうすることもできず、半田丸は273度を向いたまま前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、徳夫丸は球状船首に亀裂を、半田丸は左舷中央部外板に破口をそれぞれ生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
 本件衝突は、広島県布刈瀬戸から尾道糸崎港に向けて入航中の徳夫丸が、見張り不十分で、前路で停留している半田丸を避けなかったことによって発生したが、半田丸が、見張り不十分で、避航を促すための有効な音響による信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、布刈瀬戸から尾道糸崎港に向けて入航する場合、前路で停留中の他船を見落とさないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、同港に向けて針路を転じたとき前方に他船を見かけなかったことから、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、停留している半田丸に気付かず、同船を避けないまま進行して衝突を招き、徳夫丸の球状船首に亀裂を、半田丸の左舷中央部外板に破口をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、尾道糸崎港港界付近において、釣りをするため錨を投入する場合、港口に近く小型船の出入航の予想されるところであるから、接近する他船を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、船位の確認や釣りの準備に気を取られ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれのある態勢で接近する徳夫丸に気付かず、有効な音響による信号を行うことも、機関を後進にかけるなどの衝突を避けるための措置もとらないまま釣りの準備を続けて衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。  


参考図
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