(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年5月15日00時02分
日本海 鳥取港北西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船福與丸 |
漁船母龍丸 |
総トン数 |
95トン |
9.7トン |
登録長 |
29.20メートル |
14.99メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
617キロワット |
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漁船法馬力数 |
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120 |
3 事実の経過
福與丸は、底引き網漁業に従事する船首船橋型鋼製漁船で、A受審人ほか7人が乗り組み、操業の目的で、船首1.4メートル船尾4.2メートルの喫水をもって、平成13年5月11日08時00分基地とする鳥取県網代港を発し、同港から北西方に3時間ほど航走したところで操業を始め、その後操業しながら北西方に移動し、隠岐諸島北西約18海里沖合の島後堆付近に至って操業を行い、同月14日午後約3トンの漁獲物を獲たところで、翌朝の市場に間に合わせるため操業を打ち切り、17時40分漁場を発進して帰途に就いた。
ところで、A受審人は、漁ろう長を兼務して毎月2日間の定休日を設け、1航海4日前後の行程で操業を行い、その際の船橋当直については出入港の操船及び比較的近い漁場での操業では往復航とも自ら単独で行い、遠方漁場での操業の際には適宜甲板員にも船橋当直を行わせるようにしていた。
こうして、帰途に就いた後、A受審人は、操業中に引き続き単独で船橋当直にあたり、多くのいか釣り船が操業する隠岐諸島北方沖を経て島後黒島埼沖に至り、20時10分白埼灯台から72度(真方位、以下同じ。)7.9海里の地点で、針路を134度に定め、機関を全速力前進にかけて10.0ノットの対地速力(以下速力は対地速力である。)で自動操舵により進行した。
ところで、A受審人は、この度の操業でははたはたの大漁でそのうえ選別作業のために、1日のうち2ないし4時間程度の睡眠しかとらず休息不足の状態であった。そこで、21時30分隠岐諸島東方に至り、前方に操業船も見当たらなくなったので、一時甲板員に船橋当直を行わせて2時間ほど睡眠をとってから再び当直を続けるつもりで自室に退いて休息をとった。
ところが、23時30分A受審人は、再び当直に就くために昇橋したとき、疲労が抜け切れない状態であったが、2時間ばかり休息したので、その後の当直を単独で続けることができると思い、甲板員との2人体制にして長時間の単独当直を避けるなどの居眠り運航の防止措置をとることなく、そのまま単独で当直に就いた。その後前方に点在する操業中のいか釣り船の間を航行し、同時45分ごろ付近に他船が認められなくなったので、一段高くなった床間に腰掛けるようになり、やがて居眠りに陥ってしまった。
こうして、23時56分A受審人は、正船首1.0海里のところに多数の集魚灯を点じて漂泊しながら操業中の母龍丸を視認することができる状況であったが、これに気付かず、その後同船を避けないまま続航し、翌15日00時02分鳥取港灯台から337度14.7海里の地点において、福與丸は、原針路、原速力のまま、その船首が母龍丸の右舷船尾部に後方から40度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力3の南風が吹き、視界は良好であった。
また、母龍丸は、音響信号装置を備えたいか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.3メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、同月14日15時30分網代港を発し、同港北西方約15海里沖合の漁場に至り、点在する同業船群のほぼ中央付近に船首からシーアンカーを投入して機関を中立状態で漂泊し、日没に近づいたころから多数の集魚灯を点じて、18時30分ごろ操業を開始した。
B受審人は、操業開始から3時間経過したころから大漁が続くようになり、前部甲板上で漁獲物の選別とその箱詰め等の作業が忙しい状況になった。
こうして、23時56分B受審人は、前示衝突地点付近で、折からの南寄りの風の影響を受けて船首を174度に向いた状態で漂泊しながら操業を続けていたとき、右舷正横後50度1.0海里のところに福與丸の灯火を視認することができ、その後自船に向首したまま接近する状況であったが、前示多忙な作業に気をとられて、周囲の見張りを十分に行わなかったので、これに気付かず、警告信号を行わないまま漂泊を続け、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、福與丸は船首部外板に擦過傷を、母龍丸は右舷船尾部外板に亀裂及び船尾マストの倒壊などの損傷をそれぞれ生じ、更にB受審人は頭部に打撲傷などを負った。
(原因)
本件衝突は、夜間、鳥取県北西方沖合において、沖合漁場から帰航中の福與丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、前路で多数の集魚灯を点じて漂泊しながら操業中の母龍丸を避けなかったことによって発生したが、母龍丸が、見張り不十分で、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、鳥取県北西方沖合において、操業に引き続いて船橋当直に就いて帰航する場合、4日間に及ぶ連続操業と船橋当直で著しい休息不足の状態であったから、単独当直を避けた当直体制を組むなどの居眠り運航の防止措置を十分にとるべき注意義務があった。しかし、同人は、帰途2時間ほどの休息によりその後の当直を単独で続けることができると思い、長時間の単独当直を避けた居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、休息不足状態のまま単独当直を続けているうちに居眠りに陥り、前路で多数の集魚灯を点じて漂泊しながら操業中の母龍丸に気付かず、同船を避けないまま進行して、母龍丸との衝突を招き、福與丸の船首部外板に擦過傷を、母龍丸の右舷船尾部外板に亀裂及び船尾マストの倒壊などの損傷を生じさせ、B受審人に頭部打撲傷などを負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
B受審人は、夜間、鳥取県北西方沖合において、多数の集魚灯を点じて漂泊しながら操業する場合、操業中であっても自船に向かって接近する福與丸を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、たまたま大漁が続き多忙な選別作業に気をとられ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、福與丸が自船に向かって接近する状況に気付かず、警告信号を行わないまま漂泊を続けて、福與丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、自らも負傷するに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。