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平成13年広審第63号
件名

漁船第二金生丸プレジャーボート義丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年1月17日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(横須賀勇一、竹内伸二、中谷啓二)

理事官
上中拓治

受審人
A 職名:第二金生丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:義丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
金生丸・・・甲板及び操舵室囲壁に亀裂
義 丸・・・船首部外板に擦過傷

原因
義 丸・・・見張り不十分、各種船間の航法(避航動作)不遵守(主因)
金生丸・・・見張り不十分、警告信号不履行、各種船間の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、義丸が、見張り不十分で、停留して漁ろうに従事している第二金生丸を避けなかったことによって発生したが、第二金生丸が、見張り不十分で、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Aを戒告する。 

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年11月29日07時00分
 瀬戸内海 水島灘

2 船舶の要目
船種船名 漁船第二金生丸 プレジャーボート義丸
総トン数 4.6トン  
登録長 10.30メートル 8.51メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 46キロワット 25キロワット

3 事実の経過
 第二金生丸(以下「金生丸」という。)は、小型底引き網漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が単独で乗り組み、船首0.2メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、底引き網漁を行う目的で、平成12年11月29日06時00分岡山県浅口郡寄島漁港を発し、同漁港の南西方約2海里沖合の漁場に向かった。
 ところで、金生丸の操業方法は、それぞれ横2メートル縦15センチメートルの網口2個に深さ6メートルの袋網2個を天秤棒に取付け、その天秤棒の両端から長さ6メートルの股綱をとり、直径10ミリメートル長さ200メートルのワイヤロープを結び1本の曳網索として船尾甲板上のネットローラーに巻きとり、袋網の先端から船尾端まで全長約42メートルとし、各網口の下部に付いた爪で海底を掻きながら20ないし30分曵網したあと、揚網に取り掛かり、機関を適宜使用していたもののほぼ停留状態で、ネットローラーを駆動して網に付着した泥を落としながら網口を船尾端まで巻き上げ、船尾に組んだ櫓から吊した索を袋網にかけて漁獲物を甲板上に移すもので、揚網開始から次の投網まで約10分かかり、これら一連の作業を繰り返して行うものであった。
 A受審人は、漁場に至り、06時30分沖ノ白石灯台から077度(真方位、以下同じ。)3.8海里の地点において、漁ろうに従事していることを示す形象物をマスト頂部に表示し、針路を270度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて2.0ノットの対地速力(以下、「速力」という。)で曳網を開始した。
 06時55分A受審人は、沖ノ白石灯台から073度3.0海里の地点に達したとき、原針路を向いたまま停留状態とし、船尾甲板でネットローラーを操作して揚網作業に取り掛かり、同時58分義丸を右舷船首39度1,000メートルのところに視認でき、その後同船が衝突のおそれのある態勢で接近する状況であったが、自船は形象物を掲げて漁ろうに従事中なので他船が避けてくれるものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかったので、同船に気付かず、警告信号を行わないまま作業を続行中、網が海面に現れたころ、ふと右舷側を振り向いたとき、義丸の船首部を認めたもののどうすることもできず、金生丸は、07時00分前示揚網開始地点において、270度を向首して停留中、義丸の船首が、右舷中央部に前方から39度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力2の北東風が吹き、視界は良好で、潮候はほぼ低潮時であった。
 また、義丸は、船体中央に操舵室を有するFRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、友人1人を同乗させ、魚釣りの目的で、船首0.2メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、同日06時35分岡山県笠岡港笠岡区を発し、塩飽諸島の小手島に向かった。
 B受審人は、舵輪後方に立って操縦にあたり、06時52分沖ノ白石灯台から026度2.5海里の地点に達したとき、針路を129度に定め、機関を半速力前進にかけて17.0ノットの速力で進行した。
 06時55分B受審人は、沖ノ白石灯台から045度2.5海里の地点に達したころ、左隣のベンチに腰掛けていた友人に釣りの仕掛けについて尋ねられ、周囲を一瞥して数隻の漁船が散見されたものの、船首方向に他船を見かけなかったので、操縦スタンド後方のベンチに腰掛けて片手で舵輪を持った姿勢で説明を始め、同時58分沖ノ白石灯台から063度2.7海里の地点に達したとき、船首方向1,000メートルのところに漁ろうに従事していることを示すかごをマスト頂部に表示して漁ろうに従事中の金生丸を視認することができ、その後同船と衝突のおそれのある態勢で接近する状況であったが、仕掛けの説明に気を奪われ、前路の見張りを十分に行わなかったので、同船に気付かず、同船を避けることなく続航中、説明を終えて立ち上がったとき、正船首至近に金生丸を認めたものの、どうすることもできず、義丸は、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突とした。
 衝突の結果、金生丸は右舷側中央部の舷縁材、甲板及び操舵室囲壁に亀裂を伴う損傷を、義丸は船首部外板に擦過傷をそれぞれ生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
 本件衝突は、岡山県笠岡市沖合の水島灘において、義丸が、見張り不十分で、停留して漁ろうに従事している金生丸を避けなかったことによって発生したが、金生丸が、見張り不十分で、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 B受審人は、岡山県笠岡市沖合の漁船が散在する水島灘を釣り場に向けて航行する場合、前路で漁ろうに従事している金生丸を見落とすことのないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、友人から仕掛けのことを尋ねられたのでベンチに腰掛けてその説明に専念し、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、金生丸に気付かず、同船を避けないまま進行して衝突を招き、金生丸の右舷側中央部の舷縁材、甲板及び操舵室囲壁に亀裂を伴う損傷並びに義丸の船首部外板に擦過傷をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人は、岡山県笠岡市沖合の水島灘において、漁ろうに従事する場合、接近する義丸を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、自船は形象物を掲げて漁ろうに従事中なので他船が避けてくれるものと思い、船尾甲板で揚網作業に専念し、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、義丸に気付かず、警告信号を行わずに衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:36KB)





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