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平成13年神審第56号
件名

遊漁船大瀬丸漁船実丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年1月24日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(前久保勝己、大本直宏、小金沢重充)

理事官
野村昌志

受審人
A 職名:大瀬丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:実丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士(5トン限定)

損害
大瀬丸・・・船首外板に凹損及び推進器翼に曲損
実 丸・・・左舷後部外板に破口、のち廃船、船長が左胸部打撲

原因
大瀬丸・・・見張り不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
実 丸・・・見張り不十分、注意喚起信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、大瀬丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る実丸の進路を避けなかったことによって発生したが、実丸が、見張り不十分で、有効な音響による注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。 

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年12月29日06時20分
 和歌山県番所鼻北方沖合

2 船舶の要目
船種船名 遊漁船大瀬丸 漁船実丸
総トン数 9.51トン 3.17トン
登録長 11.95メートル 10.20メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 367キロワット  
漁船法馬力数   40

3 事実の経過
 大瀬丸は、船体中央より少し後方に操舵室を有するFRP製遊漁船で、A受審人が1人で乗り組み、釣り客4人を乗せ、遊漁の目的で、船首1.2メートル船尾0.4メートルの喫水をもって、平成11年12月29日06時10分和歌山県田辺港を発し、マスト灯、舷灯一対及び船尾灯を表示して、番所鼻灯台西方の杓子岩付近の釣り場に向かった。
 A受審人は、発航時から操舵輪後方に立って操舵と見張りに当たり、06時14分半番所鼻灯台から051度(真方位、以下同じ。)2.0海里の地点で、針路を釣り場に向く247度に定め、機関を回転数毎分1,500にかけ、17.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
 06時16分半A受審人は、番所鼻灯台から044度1.5海里の地点に達したとき、右舷船首7度1.0海里のところに実丸の左舷灯及び作業灯1個とともに、折からの薄明により同船の船影を視認できる状況であったが、杓子岩付近で停留している釣り船2隻の灯火とその船影を注視することに気を取られ、右舷前方の見張りを十分に行わなかったので、実丸の存在に気付かなかった。
 こうして、A受審人は、その後実丸が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、その進路を避けないまま続航中、06時20分番所鼻灯台から010度1,250メートルの地点において、大瀬丸は、原針路原速力のまま、その船首が、実丸の左舷後部に後方から79度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の初期にあたり、視界は良好で、日出は07時02分、月齢は20.7で、月正中は05時30分であった。
 また、実丸は、一本釣り漁業に従事する木製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、たちうお漁の目的で、船首0.3メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、同日05時10分和歌山県芳養漁港を発し、マスト灯、舷灯一対及び船尾灯を表示して、同漁港沖合の漁場に向かった。
 B受審人は、05時20分芳養漁港西方沖合1海里付近に至り、マスト灯を消灯し、船尾甲板上に作業灯1個を点灯したのち、船尾から縄を延出して曳縄による操業を開始し、06時11分番所鼻灯台から003度1,800メートルの地点で、針路を168度に定め、機関を回転数毎分1,500にかけ、2.0ノットの対地速力で、舵柄による操舵で進行した。
 B受審人は、船尾甲板左舷側のいすに腰を下ろして船尾方を向き、右手で縄を持って魚の掛かり具合を見ながら続航し、06時16分半番所鼻灯台から007度1,450メートルの地点に達したとき、左舷船尾86度1.0海里のところに大瀬丸のマスト灯及び右舷灯とともに、その船影を視認できる状況であったが、操業に気を取られ、左舷方の見張りを十分に行わなかったので、大瀬丸の存在に気付かなかった。
 こうして、B受審人は、その後大瀬丸が前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、有効な音響による注意喚起信号を行うことも、更に間近に接近したとき、衝突を避けるための協力動作をとることもなく続航中、06時20分わずか前エンジン音を聞いて左舷方を振り向いたとき、至近に迫った大瀬丸を初めて視認したものの、どうすることもできず、実丸は、原針路原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、大瀬丸は、船首外板に凹損及び推進器翼に曲損を生じたが、のち修理され、実丸は、左舷後部外板に破口を生じ、のち廃船処分された。また、B受審人は、左胸部打撲などを負った。

(原因)
 本件衝突は、日出前の薄明時、和歌山県番所鼻北方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、西行中の大瀬丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る実丸の進路を避けなかったことによって発生したが、南下中の実丸が、見張り不十分で、有効な音響による注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、日出前の薄明時、和歌山県番所鼻北方沖合を釣り場に向けて西行する場合、南下中の実丸を見落とさないよう、右舷前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、杓子岩付近で停留している釣り船2隻を注視することに気を取られ、右舷前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する実丸に気付かず、その進路を避けないまま進行して同船との衝突を招き、大瀬丸の船首外板に凹損及び推進器翼に曲損を生じさせ、実丸の左舷後部外板に破口を生じて廃船とさせ、B受審人に左胸部打撲などを負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、日出前の薄明時、和歌山県番所鼻北方沖合を曳縄しながら南下する場合、西行中の大瀬丸を見落とさないよう、左舷方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、操業に気を取られ、左舷方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近している大瀬丸に気付かず、有効な音響による注意喚起信号を行うことも、更に間近に接近したとき、衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行して同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、自らが負傷するに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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