(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年8月15日05時30分
京都府久美浜港北方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
遊漁船豊松丸 |
総トン数 |
5.5トン |
全長 |
15.14メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
242キロワット |
3 事実の経過
豊松丸は、中央操舵室型のFRP製遊漁船で、A受審人が1人で乗り組み、釣り客6人を乗せ、船首0.4メートル船尾1.1メートルの喫水をもって、遊漁の目的で、平成12年8月15日05時10分京都府久美浜港を発し、同港北方の釣り場に向かった。
ところで、久美浜港北方海域には、南北約2,000メートルにわたり、漁具定置箇所一覧図中に公知された大型定置網があって、久美浜港西防波堤灯台(以下「西灯台」という。)から009度(真方位、以下同じ。)3,300メートルに同網の垣網の北西端が位置し、西灯台から358度1,200メートルに同垣網の南西端を配し、南北に連なる垣網間には袋網2基を設置して、北方のものを沖網、南方のものを磯網と称し、垣網北西端の東方130メートル、垣網南西端の西方100メートル、磯網東端の北東方150メートルの3地点に、各標識灯が設置されていた。
A受審人は、平素から前示定置網付近を航行して同網設置状況も、釣り場に向け北上の際に、垣網南西端の浮子と同端西方の標識灯間を通航可能なことも知っており、出島の西方を航過してから定置網西方沖を北上するとき、針路線からの右偏模様を知る手段として、出島と西灯台の重視線を山立てと称し、避険線として活用していた。
A受審人は、出港後、久美浜港外から10ノット以下の低速力で北上後、垣網南西端と同端西方の標識灯間を通過して間もなく増速し、05時26分半西灯台から358度1,300メートルの地点において、針路を009度に定め、折からの海潮流により右方へ7度圧流されながら、機関を全速力前進より低めとして、19.5ノットの対地速力で、手動操舵により進行した。
A受審人は間もなく、右舷船首方に沖網の北東端付近で操業中の漁船を認め、同漁船から適当に離れて航行すれば定置網を替わるものと思い、その後船位の右偏傾向が分かるよう、船尾方を向き前示の避険線を活用して、船位の確認を十分に行うことなく続航した。
こうして、A受審人は、東流の存在を察知していたものの、依然として船尾方の重視線を見なかったので、船位の右偏傾向不明のまま、05時27分すでに出島と西灯台の重視線から東方海域に入り、その後も東流による右偏傾向が変わらず、定置網北西端部へ向かっていることに気付かずに続航中、同時30分少し前ふと後方を向き、西灯台を出島の左方に認め、ようやく右偏していることに気付き、左舵一杯としたが及ばず、05時30分西灯台から009度3,240メートルの地点で、000度に向首して原速力のまま、豊松丸の船首部が定置網北西端部に衝突した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、海潮流による2.5ノットの東流があり、日出時刻は05時18分であった。
衝突の結果、プロペラ、同シャフト及びクラッチ板などに損傷を生じたがのち修理され、定置網には損傷を生じなかった。また、釣り客2人は、衝突の衝撃で転倒し顔面裂傷などの軽傷を負った。
(原因)
本件定置網衝突は、京都府久美浜港の北方沖において、定置網の西方海域を北上中、船位の確認が不十分で、定置網北西端部に向け進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、京都府久美浜港の北方沖において、定置網の西方海域を北上する場合、船位の右偏傾向が分かるよう、船尾方を向き重視線による避険線を活用して、船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、右舷船首方に沖網の北東端付近で操業中の漁船を認め、同漁船から適当に離れて航行すれば定置網を替わるものと思い、船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、船位の右偏傾向不明のまま、定置網北西端部に向け進行して同部との衝突を招き、プロペラ、同シャフト及びクラッチ板などに損傷を生じさせ、釣り客2人に顔面裂傷などの軽傷を負わせるに至った。