(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年1月29日20時58分
兵庫県香住港内
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船昇幸丸 |
総トン数 |
18トン |
全長 |
21.60メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
625キロワット |
3 事実の経過
昇幸丸は、はえなわ漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人及びB指定海難関係人ほか4人が乗り組み、えさ用のさば300キログラムと氷1トンを載せ、ずわいがに漁の目的で、船首1.0メートル船尾1.8メートルの喫水をもって、平成13年1月29日19時15分兵庫県香住港を発し、同港北方沖合45海里付近の漁場へ向かった。
発航後、A受審人は、義兄で漁労長でもあるB指定海難関係人が一級小型船舶操縦士(5トン限定)の免状を受有して乗船経歴が長いことから、漁場の選定や操業の可否及び単独の船橋当直を同人に任せ、自室で休息した。
B指定海難関係人は、目的地に向けて30分ばかり北上を続けたところ、雪まじりの時化模様となり船体動揺が激しくなってきたので、僚船と無線電話で話し合ったのち、出漁を取り止めて引き返すこととした。
20時00分B指定海難関係人は、香住港城山灯台(以下「城山灯台」という。)から340度(真方位、以下同じ。)5.4海里の地点において、針路をGPSプロッターに表示された針路線である香住港北方沖合の防波堤(以下「沖防波堤」という。)の西端を約50メートル離す162度に定め、手動操舵により進行した。
ところで、沖防波堤は、城山灯台から274度410メートルの地点を西端として東方へ約230メートル延び、同防波堤西端には、仮設の緑色簡易標識灯が設置されていた。
B指定海難関係人は、次第に降雪が激しくなる状況で南下を続け、20時53分城山灯台から331度1.2海里の地点に達したとき、降雪で著しい視界不良の香住港に入港間近であったが、船長に昇橋を求めることなく、機関を全速力前進にかけ、13.0ノットの対地速力とし、入港に備えてベルで全員を起こして続航した。
A受審人は、起床して船尾甲板に出たとき、降雪で著しい視界不良の香住港に入港間近であることを知ったが、B指定海難関係人が操船に慣れているので、船橋当直を任せても大丈夫と思い、自ら操船の指揮を執ることなく、船尾甲板で甲板員と共に係船索を準備するなどの作業に取り掛かった。
B指定海難関係人は、20時57分城山灯台から306度730メートルの地点に達したとき、右舷後方に入港する僚船の灯火を視認したので、同船より先に入港しようと徐々に増速しながら沖防波堤に接近したが、その後同船との接近模様に気を取られ、沖防波堤を安全に航過するまで針路の保持を十分に行うことなく、いつしか、操舵がおろそかとなって舵輪がわずかに左に回り、沖防波堤西端へ向かって進行する状況となったことに気付かないまま続航し、20時58分城山灯台から275度400メートルの地点において、昇幸丸は、その船首部が沖防波堤西端に衝突した。
当時、天候は雪で風力4の南西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。
衝突の結果、船首部外板に破口を伴う損傷を生じ、のち修理された。また、乗組員森田恵志が左大腿骨骨折を、他の乗組員5人が打撲傷などの軽傷をそれぞれ負った。
(原因)
本件防波堤衝突は、夜間、兵庫県香住港へ向け帰航中、針路の保持が不十分で、沖防波堤西端至近のところから左転進行したことによって発生したものである。
運航が適切でなかったのは、船長が、降雪で著しい視界不良の香住港に入港間近となった際、自ら操船の指揮を執らなかったことと、船橋当直者が、船長に昇橋を求めなかったこと及び針路の保持を十分に行わなかったこととによるものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、兵庫県香住港へ向け帰航中、降雪で著しい視界不良の同港に入港間近であることを知った場合、自ら操船の指揮を執るべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、B指定海難関係人が操船に慣れているので、船橋当直を任せても大丈夫と思い、自ら操船の指揮を執らなかった職務上の過失により、針路の保持が十分に行われないまま沖防波堤西端至近のところから左転進行して衝突を招き、船首部外板に破口を伴う損傷を生じさせたほか、乗組員1人に左大腿骨骨折を、他の乗組員5人に打撲傷などの軽傷をそれぞれ負わせるに至った。
B指定海難関係人が、夜間、兵庫県香住港へ向け帰航中、沖防波堤に接近した際、針路の保持を十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。