(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年1月26日09時45分
和歌山県潮岬西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
遊漁船第三将漁丸 |
漁船京丸 |
総トン数 |
4.74トン |
0.2トン |
登録長 |
10.00メートル |
4.92メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
電気点火機関 |
出力 |
205キロワット |
漁船法馬力数 |
|
60 |
3 事実の経過
第三将漁丸(以下「将漁丸」という。)は、FRP製小型遊漁兼用船で、船長S(昭和7年10月17日生、一級小型船舶操縦士免状受有、平成13年7月12日死亡により受審人指定が取り消された。)が1人で乗り組み、潜水者5人を乗せ、潜水ポイントまで搬送する目的で、船首0.2メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成12年1月26日09時05分和歌山県袋漁港を発し、潮岬西方沖合の双島沖2の根と称するポイントに向かった。
S船長は、発航時から操舵輪後方に立って操船にあたり、09時15分袋港港外に至って西行を始め、同時40分有田港東防波堤灯台から233度(真方位、以下同じ。)1.3海里の地点に達したとき、船首わずか右約1,000メートルのところに、5隻が密集状態で静止している漁船群を認め、これらとの航過距離を広げるつもりで少しばかり左転し、針路を274度に定め、機関を回転数毎分1,500にかけ、6.3ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
定針時、S船長は、正船首970メートルのところに、京丸を視認できる状況であったが、前路の見張りを十分に行っていなかったので、同船の存在に気付かず、船首右方の漁船群に注目して続航した。
S船長は、その後京丸が錨泊中の形象物を表示していないものの、船首が風上に向いて移動しないことから、錨泊していることが分かる同船に衝突のおそれがある態勢のまま接近していることに気付かず、速やかに転舵するなど、同船を避けないまま進行し、09時45分有田港東防波堤灯台から245度1.7海里の地点において、将漁丸は、原針路原速力のまま、その船首が、京丸の右舷側中央部に直角に衝突した。
当時、天候は曇で風力2の北風が吹き、視界は良好で、潮候はほぼ高潮時であった。
また、京丸は、一本釣り漁業に従事する、船外機装備のFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.2メートル船尾0.4メートルの喫水をもって、同日07時00分和歌山県野なぎ漁港を発し、同漁港南方沖合の漁場に向かった。
A受審人は、07時15分漁場に至り、魚釣りを開始したものの釣果が得られず、08時15分前示衝突地点に移動して機関を停止し、水深15メートルのところに、船首から重さ8キログラムの鉄製錨を投じ、直径10ミリメートルの合成繊維製の錨索を30メートル延出し、錨泊中の形象物を表示しないまま、折からの北風に船首を立てて錨泊した。
A受審人は、船体ほぼ中央部で船尾を向いて座り、左右両舷から船尾方に竿を各1本ずつ出して釣りを始め、09時40分船首が004度に向いていたとき、右舷正横970メートルのところに、自船に向首する将漁丸を視認できる状況であったが、釣りに気を取られ、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、同船の存在に気付かなかった。
A受審人は、その後将漁丸が避航動作をとらずに衝突のおそれがある態勢のまま接近していることに気付かず、有効な音響による注意喚起信号を行わず、間近に接近したとき船外機を始動して衝突を避けるための措置をとることなく錨泊を続け、09時45分少し前至近に迫った将漁丸を初めて視認し、立ち上がってたも網を振り大声を出したが効なく、京丸は、船首を004度に向首したまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、将漁丸は、左舷船首外板に破口を生じ、京丸は、船体中央部両舷外板に亀裂及び船外機に濡れ損を生じた。
(原因)
本件衝突は、和歌山県潮岬西方沖合において、西行中の将漁丸が、見張り不十分で、錨泊中の京丸を避けなかったことによって発生したが、京丸が、見張り不十分で、有効な音響による注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、和歌山県潮岬西方沖合において、錨泊して釣りを行う場合、接近する他船を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、釣りに気を取られ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、将漁丸の存在と接近とに気付かず、有効な音響による注意喚起信号を行うことも、間近に接近したとき、船外機を始動して衝突を避けるための措置をとることもなく錨泊を続けて将漁丸との衝突を招き、将漁丸の左舷船首外板に破口を、京丸の船体中央部両舷外板に亀裂及び船外機に濡れ損をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。