(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年5月25日03時40分
千葉県八幡岬南東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船芳重丸 |
漁船千大丸 |
総トン数 |
4.70トン |
4.44トン |
全長 |
15.2メートル |
13.0メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
183キロワット |
114キロワット |
3 事実の経過
芳重丸は、一本釣り漁業等に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、きんめだい漁の目的で、船首0.27メートル船尾1.26メートルの喫水をもって、平成13年5月25日02時10分千葉県内浦湾内の小湊漁港を発し、多数の僚船とともに八幡岬南東方約21海里沖合の漁場に向かった。
A受審人は、02時16分小湊港灯標から170度(真方位、以下同じ。)1.1海里の地点で針路を130度に定め、機関を全速力前進にかけて12.2ノットの対地速力で、航行中の動力船の灯火を表示して手動操舵で進行した。
A受審人は、操舵室内の舵輪後方に左右に張り渡した板に腰掛けたり、立ち上がったりしながら、僚船と前後して続航するうち、03時38分勝浦灯台から152度14.3海里の地点に達したとき、正船首750メートルに千大丸の船尾灯を視認することができ、この時、更に船尾甲板を照らす40ワットの作業灯2個が点灯されたことを認めることができる状況であったが、漁場に近づいたことから、僚船との無線連絡に気を取られ、前路の見張りを十分に行うことなく、千大丸に気付かないで進行した。
03時39分A受審人は、千大丸の灯火に急速に接近する様子から、同船が航行中の動力船の灯火を表示したまま漂泊を始めたことが推認でき、衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったものの、依然、前路の見張りを十分に行っていなかったので、千大丸の存在に気付かず、同船との衝突を避けるための措置をとらないまま続航中、03時40分勝浦灯台から151度14.7海里の地点で、芳重丸は、原針路、原速力のまま、その船首が千大丸の左舷船尾に後方から3度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の北東風が吹き、視界は良好であった。
また、千大丸は、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、きんめだい漁の目的で、船首0.9メートル船尾1.8メートルの喫水をもって、同日02時00分千葉県大沢漁港を発し、多数の僚船とともに八幡岬南東方約20海里沖合の漁場に向かった。
B受審人は、02時03分小湊港灯標から131度1.4海里の地点で針路を133度に定め、漁場到着時刻を調整するため、機関を半速力前進にかけて10.3ノットの対地速力で、航行中の動力船の灯火を表示して自動操舵で進行した。
B受審人は、僚船と前後して続航するうち、便意を催したので、一時漂泊して用を足すこととし、03時38分前示衝突地点で、同針路のまま機関を中立運転とし、自船の存在を明瞭にしようと操舵室後壁上部の左舷側及び右舷側の作業灯各1個を点じて漂泊を始めたとき、右舷船尾3度750メートルに芳重丸の白、紅、緑3灯を視認できる状況であったが、作業灯を点灯したので、接近する他船が避けてくれると思い、後方を一瞥(べつ)しただけで、周囲の見張りを十分に行うことなく、左舷船尾の舷縁に腰掛け、前方を見る姿勢となった。
03時39分B受審人は、芳重丸が自船に向首して衝突のおそれがある態勢で接近していたものの、依然、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、速やかに機関を使用するなどして、同船との衝突を避けるための措置をとらないまま漂泊を続け、用を足し終えて舷縁から離れた直後、03時40分千大丸は原針路に向いたまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、芳重丸は、右舷船首部に破口を生じ、間もなく浸水して転覆し、のち廃船処理され、千大丸は、左舷船尾舷縁及び同甲板に破損並びに船尾マストに曲損が生じたが、のち修理され、また、B受審人が1箇月の通院を要する第2腰椎圧迫骨折を負った。
(原因)
本件衝突は、夜間、千葉県八幡岬南東方沖合において、漁場に向け航行中の芳重丸が、見張り不十分で、前路で航行中の動力船の灯火を表示したまま漂泊を始めた千大丸との衝突を避けるための措置をとらなかったことと、千大丸が、見張り不十分で、芳重丸との衝突を避けるための措置をとらなかったこととによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、千葉県八幡岬南東方沖合を漁場に向けて航行する場合、前路で航行中の動力船の灯火を表示したまま漂泊を始めた千大丸を見落とすことのないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、僚船との無線連絡に気を取られ、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、千大丸の存在に気付かず、同船との衝突を避けるための措置をとらずに進行して衝突を招き、芳重丸の右舷船首部に破口を生じさせ、千大丸の左舷船尾舷縁及び同甲板に破損並びに船尾マストに曲損を生じさせるとともに、B受審人に第2腰椎圧迫骨折を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、夜間、千葉県八幡岬南東方沖合を漁場に向けて航行中、漂泊を始める場合、自船に向首して衝突のおそれのある態勢で接近する芳重丸を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、作業灯を点じたので接近する他船が避けてくれると思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、船尾方から接近する芳重丸に気付かず、同船との衝突を避けるための措置をとらずに漂泊を続けて衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるとともに自身が第2腰椎圧迫骨折を負うに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。