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平成13年横審第61号
件名

油送船第八宏福丸プレジャーボート隆盛衝突事件
二審請求者〔補佐人峰 隆男〕

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年1月11日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(半間俊士、長谷川峯清、小須田 敏)

理事官
供田仁男

受審人
A 職名:第八宏福丸船長 海技免状:六級海技士(航海)(旧就業範囲)
指定海難関係人
B 職名:隆盛同乗者

損害
宏福丸・・・右舷船首部外板及び右舷錨に擦過傷
隆 盛・・・右舷側後部外板を破損、転覆し、のち廃船、船長と同乗者1人が死亡、同乗者1人が呼吸不全で入院加療

原因
隆盛・・・船員の常務(新たな危険・衝突回避措置)不遵守(主因)
宏福丸・・・見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、東京都荒川に架かる営団地下鉄東西線鉄橋付近の狭い水道において、隆盛が、徐行しなかったばかりか、無難に航過する態勢の第八宏福丸に対し、新たな衝突のおそれを生じさせたうえ、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、第八宏福丸が、徐行しなかったばかりか、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。 

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年11月27日11時05分
 東京都荒川

2 船舶の要目
船種船名 油送船第八宏福丸 プレジャーボート隆盛
総トン数 80トン  
全長 31.30メートル  
登録長   6.62メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力 330キロワット 84キロワット

3 事実の経過
 第八宏福丸(以下「宏福丸」という。)は、主として千葉港及び京浜港川崎区の各精油所から東京都荒川及び同隅田川を航行して、東京都内の各油槽所への灯油や軽油の運搬に従事する、船尾に操舵室を有する平甲板型鋼製油タンカーで、A受審人ほか2人が乗り組み、灯油150キロリットルを積み、船首1.4メートル船尾2.1メートルの喫水をもって、平成12年11月27日09時25分千葉港千葉第4区の極東石油工業株式会社の桟橋を発し、東京都板橋区舟渡の新河岸川左岸に設けられた渡辺鉱油株式会社の桟橋に向かった。
 ところで、荒川は、河口から1.5海里ばかり上流で同川の東側を流れる中川と合流し、合流部の上流550メートルに両川をまたいで営団地下鉄東西線鉄橋(以下「東西線鉄橋」という。)が架けられ、同鉄橋の上流600メートルに西橋が架けられていた。
 東西線鉄橋は、川幅450メートルの荒川に6基の橋脚(以下、右岸から順に番号を付す。)が設けられ、1番及び6番の両橋脚がいずれも川岸に接して立ち、各橋脚の間隔は、同川のほぼ中央部にあたる3番及び4番の間が150メートル、その両側の2番及び3番の間並びに4番及び5番の間が80メートルであった。そして、同川を航行する船舶は、右岸から3番橋脚までの間と左岸から4番橋脚までの間はそれぞれ水深が浅いため、主として3番及び4番の両橋脚間の狭い水道(以下「狭い水道」という。)を航行していた。
 一方、東西線鉄橋の下流至近では、同鉄橋に平行して架かる荒川横断橋梁(仮称)架設工事が行われており、合流部付近から同鉄橋との間の荒川左岸から4番橋脚付近にかけて、同工事に従事する作業船及び土砂運搬船等が数隻錨泊していた。
 A受審人は、東京湾から荒川を経て隅田川及び新河岸川を順次さかのぼる予定で、河川航行中は自ら操船にあたることとし、離岸操船を終えたのち、機関長に荒川河口付近までの操船を委ねて一旦(いったん)休息を取り、同河口付近に至って昇橋し、10時50分東京灯標から011度(真方位、以下同じ。)5.9海里の地点にあたる、東京都江戸川区清新町1丁目に立つ送電線鉄塔(以下「基点」という。)から190度3,440メートルの地点で、機関長と操船を交代し、針路を002度に定め、機関を全速力前進時より20回転少ない毎分回転数370とし、下向流に抗して7.9ノットの対地速力で、操舵室中央やや右側に立って舵輪を左手で持ち、手動操舵により進行した。
 A受審人は、荒川を上航するうち右舷前方に前示作業船などを認め、11時03分合流部を過ぎ、4番橋脚を右舷側に40メートル離すよう、狭い水道の右側端に寄ったものの徐行しないまま続航し、同時04分基点から277度490メートルの地点に達したとき、左舷船首3度490メートルに無難に航過する態勢で下航してくる隆盛を視認できる状況であったが、右舷正横50メートルのところから東西線鉄橋付近までに錨泊している作業船及び土砂運搬船、並びにそれらの船舶が西方に伸出していた錨索を示す赤旗などの監視に気を奪われ、前路の見張りを十分に行わなかったので隆盛に気付かず、同時04分半同船が同水道の中央に向けて転針し、自船に対して新たな衝突のおそれを生じさせたことにも気付かず、機関を後進にかけるなど衝突を避けるための措置をとらないまま進行中、同時05分わずか前左舷船首至近に迫った隆盛を初めて認め、機関を後進としたものの効なく、11時05分基点から302度570メートルの地点において、宏福丸は、原針路、原速力のまま、その右舷船首部が隆盛の右舷側後部に前方から13度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候はほぼ低潮時にあたり、上流から下流に向かう微弱な水流があった。
 また、隆盛は、船体中央部に操舵室を有する、最大搭載人員8人のFRP製プレジャーボートで、船長Sが1人で乗り組み、釣り仲間のB指定海難関係人及びYを同乗させ、ハゼ釣りの目的で、船首0.36メートル船尾0.75メートルの喫水をもって、同日10時58分東京都江東区の荒川右岸で西橋の上流470メートルに設けられた桟橋を発し、京浜港東京第2区にある竹芝桟橋と日の出桟橋との間に注ぐ古川の河口に向かった。
 S船長は、平素、B指定海難関係人とY同乗者との3人で出航するときは、船酔いになりやすいB指定海難関係人を右舷側後部暴露甲板に乗せ、Y同乗者を操舵室内左舷側のいすに腰掛けさせ、自らは操舵室内右舷側に装備された舵輪後方の操舵席に腰掛けて操船にあたり、離桟後荒川の右岸から50メートルばかり離れた地点まで後退し、その後前進して西橋の下を通過したのち、同川の中央部右寄りを川筋に沿って航行していた。
 S船長は、同乗者2人をいつもの位置に乗せ、操舵席に腰掛けて操船にあたって後退したのち、11時00分基点から340度1,660メートルの地点で、針路を171度に定め、機関を半速力前進にかけ、下向流に乗じて8.2ノットの対地速力で、手動操舵によって進行した。
 B指定海難関係人は、前進したときから下を向いて釣りの仕掛けを作り始め、自身の体の傾き具合から隆盛が転針したことや、頭上の陰りから橋の下を通過したことを知るのみであった。
 11時02分少し過ぎS船長は、基点から335度1,100メートルの西橋下で針路を184度に転じ、しばらくして狭い水道に接近する状況となったものの徐行しないまま同じ速力で続航し、同時04分基点から317度750メートルの地点に達したとき、左舷船首5度490メートルのところを上航する宏福丸と自船の左舷側を30メートル隔てて無難に航過する態勢で進行していたところ、同時04分半基点から310度660メートルの地点で、針路を狭い水道の中央に向く169度に転じ、宏福丸に対して新たな衝突のおそれを生じさせて続航し、その後同船が右舷船首至近に迫ったものの、速やかに右転するなど衝突を避けるための措置をとらずに進行中、同針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、宏福丸は右舷船首部外板及び右舷錨に擦過傷を生じ、隆盛は右舷側後部外板に破損を生じるとともに転覆し、のち廃船となった。S船長(昭和4年12月13日生、四級小型船舶操縦士免状受有)及びY同乗者(昭和3年11月7日生)は転覆した船内に閉じ込められ、溺水により死亡し、B指定海難関係人は来援した作業船に救助されたものの、12日間の入院加療を要する呼吸不全を負った。

(原因)
 本件衝突は、東京都荒川に架かる東西線鉄橋付近の狭い水道において、隆盛が、徐行しなかったばかりか、無難に航過する態勢の宏福丸に対し、新たな衝突のおそれを生じさせたうえ、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、宏福丸が、徐行しなかったばかりか、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、東京都荒川に架かる東西線鉄橋付近の狭い水道を上航する場合、下航する隆盛を見落とさないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、右舷側で錨泊している作業船及び土砂運搬船、並びにそれらの船舶が伸出した錨索を示す赤旗などに気を奪われ、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、隆盛に気付かず、その後同船が同水道の中央に向けて転針し、自船に対して新たな衝突のおそれを生じさせたことにも気付かず、機関を後進にかけるなど衝突を避けるための措置をとらないまま進行して隆盛との衝突を招き、宏福丸の右舷船首部外板及び右舷錨に擦過傷を生じさせ、隆盛の右舷側後部外板に破損を生じさせるとともに転覆させ、船内に閉じ込められたS船長及びY同乗者を溺水による死亡に至らせ、B指定海難関係人に12日間の入院加療を要する呼吸不全を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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