(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年4月11日06時20分
宮城県御崎岬南東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第五東洋丸 |
漁船第十喜代丸 |
総トン数 |
30トン |
19.41トン |
全長 |
21.52メートル |
21.50メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
441キロワット |
478キロワット |
3 事実の経過
第五東洋丸(以下「東洋丸」という。)は、沖合底引き網漁業に従事する船首船橋型の鋼製漁船で、A受審人ほか5人が乗り組み、操業の目的で、船首0.4メートル船尾3.0メートルの喫水をもって、平成13年4月9日02時00分宮城県女川港を発し、05時30分同県歌津崎東方沖合11海里ばかりの漁場に至って操業を開始した。
A受審人は、歌津崎沖合から宮城県御崎岬東方沖合にかけての海域で等深線に沿って北上あるいは南下しながら、1回の操業を昼間は4時間ないし5時間、夜間は約9時間かけて連続して行い、翌々11日05時05分御崎岬東方沖合11.5海里ばかりの海域で、10回目の投網を行い、引き綱600メートルを繰り出したのち、同時15分陸前御崎岬灯台(以下「御崎岬灯台」という。)から107度(真方位、以下同じ。)11.2海里の地点で、針路を217度に定め、機関を毎分850回転の前進にかけ、翼角を13度として自動操舵により2.5ノットの対地速力で、漁ろうに従事している船舶であることを示す灯火を掲げてえい網を開始した。
A受審人は、10回目の投網を行ったとき、霧のため視界が著しく制限されていたが、霧中信号を行うことなく、1.5海里レンジとしたレーダーを監視しながら操業を続けた。
A受審人は、06時13分ごろ自船を替わして東方沖合に向かう7ないし8隻の漁船の映像を認めたのち、レーダーレンジを3海里に切り替えたところ、同時14分レーダーにより右舷船首39度1.6海里のところに第十喜代丸(以下「喜代丸」という。)の映像を初めて認め、同時16分少し過ぎ御崎岬灯台から120度10.6海里の地点に達したとき、同映像が方位が変わらず1.0海里となって、喜代丸と著しく接近することを避けることができない状況になったことを知ったが、接近してくる喜代丸がいずれ自船を避けてくれるものと思い、速やかに行きあしを止めることなくえい網を続けた。
A受審人は、原針路、原速力でえい網中、06時20分少し前右舷船首至近に喜代丸を視認し、汽笛で長音2回を吹鳴し、翼角をわずかに下げたが及ばず、06時20分御崎岬灯台から121度10.5海里の地点において、東洋丸は、原針路、原速力のまま、その右舷船首に喜代丸の船首が前方から45度の角度で衝突した。
当時、天候は霧で風はほとんどなく、視程は約50メートルであった。
また、喜代丸は、いさだ引き網漁業に従事する上下2段の船橋を持ったFRP製漁船で、B受審人ほか5人が乗り組み、操業の目的で、船首0.4メートル船尾2.1メートルの喫水をもって、同日04時00分宮城県寺間漁港を発し、歌津崎東方沖合の漁場に向かった。
B受審人は、出港したのち、寺間漁港東方沖合3海里ばかりの笠貝島に向けて航行し、04時22分ごろ同島に0.5海里ばかりに接近したところで北上を開始するとともにソナー、魚群探知器を作動させ、魚群を探索しながら航行を続けた。
B受審人は、魚群を探索しながら北上を続けていたところ、僚船から操業している旨の無線連絡が入り、その僚船のいる海域に向かうこととし、06時04分御崎岬灯台から138度8.0海里の地点において、針路を082度に定め、機関を全速力前進にかけて、霧のため視界が著しく制限されていた中、霧中信号を行うことも安全な速力に減ずることもなく、航行中の動力船であることを示す灯火を掲げ、高速で航行すると喜代丸の船首が浮上して船首方に死角が生じるので、下部船橋に木製踏み台を置いて同台に上がり、同船橋の天井蓋を開けて上半身を出す状態で上部船橋の窓から周囲の見張りに当たり、ときどき下部船橋右舷寄りに設置したレーダーを6海里レンジとして監視しながら手動操舵により14.0ノットの対地速力で進行した。
B受審人は、06時14分少し過ぎレーダーにより左舷船首6度1.5海里のところに東洋丸の映像を初めて認め、同時16分少し過ぎ御崎岬灯台から124度9.8海里の地点に達したとき、同映像が方位が変わらず1.0海里となり、東洋丸と著しく接近することを避けることができない状況となったことを知ったが、まだ大丈夫と思い、針路を保つことができる最小限度の速力に減ずることも、必要に応じて行きあしを止めることもなく続航した。
間もなくB受審人は、レーダー画面で東洋丸の映像を見失い、同船の映像を確認することに気を取られ、原針路、原速力のまま進行中、喜代丸は、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、東洋丸は右舷船首部ブルワークに曲損を生じ、喜代丸は船首部を圧壊したが、のちいずれも修理された。
(原因)
本件衝突は、霧のため視界が著しく制限された宮城県御崎岬南東方沖合において、東航中の喜代丸が、霧中信号を行わなかったばかりか、安全な速力で航行せず、南下中の東洋丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて行きあしを止めなかったことによって発生したが、東洋丸が、霧中信号を行わず、東航する喜代丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、速やかに行きあしを止めなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
B受審人は、霧のため視界が制限された宮城県御崎岬南東方沖合を東航中、レーダーで前路に認めた東洋丸と著しく接近することを避けることができない状況となったのを知った場合、針路を保つことができる最小限度の速力に減じ、必要に応じて行きあしを止めるべき注意義務があった。しかるに、同人は、レーダー画面を監視することに気を取られ、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかった職務上の過失により、そのまま進行して東洋丸との衝突を招き、喜代丸の船首部を圧壊させ、東洋丸の右舷船首部ブルワークに曲損を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、霧のため視界が制限された宮城県御崎岬南東方沖合をえい網しながら南下中、レーダーで前路に認めた喜代丸と著しく接近することを避けることができない状況となったことを知った場合、速やかに行きあしを止めるべき注意義務があった。しかるに、同人は、接近する喜代丸が自船を避けてくれるものと思い、速やかに行きあしを止めなかった職務上の過失により、そのまま進行して喜代丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。