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平成13年函審第54号
件名

旅客船クイーン宗谷漁業調査船北洋丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年1月18日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(織戸孝治、安藤周二、工藤民雄)

理事官
堀川康基

受審人
A 職名:クイーン宗谷船長 海技免状:三級海技士(航海)
B 職名:北洋丸二等航海士 海技免状:三級海技士(航海)

損害
宗 谷・・・左舷船首部を凹損
北洋丸・・・左舷船尾部を凹損

原因
宗 谷・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守

主文

 本件衝突は、クイーン宗谷が、自動操舵装置の取扱いが不適切であったばかりか、見張り不十分で、錨泊中の北洋丸を避けなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年5月29日11時08分
 北海道鴛泊(おしどまり)港外

2 船舶の要目
船種船名 旅客船クイーン宗谷 漁業調査船北洋丸
総トン数 3,531トン 237トン
全長 95.70メートル 42.01メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 4,413キロワット 1,176キロワット

3 事実の経過
 クイーン宗谷(以下「宗谷」という。)は、北海道の稚内、鴛泊、香深及び沓形の各港間に定期就航する鋼製旅客船兼自動車渡船で、A受審人ほか13人が乗り組み、旅客311人と車両15台を載せ、船首3.2メートル船尾3.8メートルの喫水をもって、平成13年5月29日11時00分鴛泊港を発し、稚内港に向かった。
 A受審人は、船橋の出入港配置を船長、機関長及び甲板手に定めていたが、発航時、多人数の旅客整理のため、同甲板手を客室の対応に当たらせて自ら操舵操船することとし、機関長を機関操縦盤の操作に就かせた。
 離岸後、A受審人は、針路を適宜とり、機関を極微速力前進にかけ9.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で港口に向かい、11時04分半鴛泊灯台から135度(真方位、以下同じ。)700メートルの地点に達したとき、手動操舵により針路を050度に定め、機関を18.0ノットの全速力前進に令し、徐々に増速しながら進行した。
 ところで、宗谷の手動操舵から自動操舵への切替手順は、操舵スタンドの操舵モード切替スイッチが手動操舵位置で自動操舵装置の針路設定ノブを押し込みながら回転させ、同ノブの指針をジャイロコンパスレピータ上で設定針路に合わせたのち、同スイッチを自動操舵位置に切り替えるようになっていた。
 11時05分少し過ぎA受審人は、鴛泊灯台から120度740メートルの地点に達したとき、操舵モードを050度の設定針路とする自動操舵に切り替えるつもりで、手のひらを針路設定ノブに押し付けて回転操作を行ったが、このとき、船橋前面中央部の窓ガラス下方に設置されたVHF無線電話設備(以下「VHF」という。)から自船を呼び出すかのような不明瞭な小音声をたまたま聞いて応答するため、急いで同操作を行い、同ノブの指針を確認して自動操舵装置を適切に取り扱うことなく、その指針がまだ340度を指していることに気付かず、050度方向に障害となる他船はいなかったので、自動操舵に切り替えると同時に、VHFに駆け寄った。
 そして宗谷は、自動操舵に切り替えられた直後、船首方位050度から自動操舵装置による340度の針路に設定がなされたため、舵角制限装置の作動により左舵7度がとられ、徐々に旋回を開始し、11時07分半鴛泊灯台から071度1,145メートルの地点で、針路が錨泊中の北洋丸に向首する340度に定まり、速力が16.5ノットにまで増速して同船と295メートルに接近し、その後同船と衝突のおそれのある状況で進行した。
 A受審人は、自動操舵装置のオフ・コース警報が点灯していたものの、前路に他船はいないものと思い、船橋前面で右舷方を向き中腰になって、VHFの感度や音量の調節つまみを操作して交信内容を確かめることに気を奪われ、周囲の見張りを行わなかったので、自船が左旋回して錨泊中の北洋丸に向首し、衝突のおそれのある態勢になったことに気付かず、転舵して同船を避けることなく続航した。
 一方、機関長は、機関増速後の回転数整定操作等に没頭していた。
 11時08分少し前A受審人は、VHFの交信内容が自社船と第三船とのもので自船とは関係ないことが判明したので、顔を上げて船首方を見たとき、船首近距離に迫った北洋丸を認めると同時に同船の警告信号を聞き、同船との衝突の危険を感じ、直ちに機関停止を令するとともに操舵を手動に切り替えて右舵一杯とするも及ばず、宗谷は、11時08分鴛泊灯台から057度1,185メートルの地点で、ほぼ原速力のまま010度を向首し、その左舷前部が北洋丸の左舷後部に前方から35度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力8の南西風が吹き、潮候は上げ潮の末期であった。
 また、北洋丸は、漁業に関する試験、調査業務に従事する鋼製漁業調査船で、船長T及びB受審人ほか18人が乗り組み、漁業調査員2人を乗せ、北海道北部日本海定期海洋観測の目的で、船首2.5メートル船尾4.0メートルの喫水をもって、同月28日09時30分稚内港を発し、観測業務を行っていたところ、強風により同業務の遂行ができなくなり荒天待機のため、翌29日10時00分右舷錨鎖5節を繰り出して前示の衝突地点で錨泊した。
 T船長は、船橋当直を航海中、錨泊中との間に区別を設けず、3直4時間交替で行わせることにしていた。
 B受審人は、錨泊作業後船橋当直に就き、相当直者が食事のために降橋し、11時04分半ごろ単独で船橋当直に当たっていたところ、宗谷が左舷船首方1,250メートルばかりに鴛泊港内から発航し、無難に替わる態勢で進行するのを認めた。
 11時05分少し過ぎB受審人は、宗谷が左転を開始し、同時07分半、船首が225度に向いていたとき、左舷船首35度295メートルの地点で自船に向首し、その後衝突のおそれのある態勢で接近するのを認め、同時08分少し前警告信号を行ったが、北洋丸は、225度を向首したまま前示のとおり衝突した。
 T船長は、食堂で食事中、自船の汽笛の連吹音を聞き、異常事態の発生を感じて直ちに昇橋し、間近に迫った宗谷を認めたが、どうすることもできず、同船が衝突するのを認め、事後の措置に当たった。
 衝突の結果、宗谷は左舷船首部を、北洋丸は左舷船尾部をそれぞれ凹損したが、のちいずれも修理された。

(原因)
 本件衝突は、鴛泊港外で、宗谷が、自動操舵装置の取扱いが不適切であったばかりか、見張り不十分で、錨泊中の北洋丸を避けなかったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、鴛泊港外を航行する場合、前路で錨泊中の北洋丸を視認できるよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、前路に他船はいないものと思い、無線交信に気を奪われ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、北洋丸に気付かず、転舵して同船を避けることなく進行して衝突を招き、宗谷の左舷船首部及び北洋丸の左舷船尾部に凹損をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。 


参考図
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