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平成13年函審第48号
件名

遊漁船第六十三貴洋丸漁船第56榮徳丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年1月16日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(工藤民雄、安藤周二、織戸孝治)

理事官
堀川康基

受審人
A 職名:第六十三貴洋丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:第56榮徳丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
C 職名:第56榮徳丸機関長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
貴洋丸・・・船首部外板に亀裂
榮徳丸・・・右舷中央部外板並びに操舵室右舷側に凹損

原因
貴洋丸・・・狭視界時の航法(信号、レーダー、速力)不遵守(主因)
榮徳丸・・・狭視界時の航法(信号、レーダー)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第六十三貴洋丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったことによって発生したが、第56榮徳丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Cを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年6月13日23時20分
 北海道中川郡豊頃町沖合

2 船舶の要目
船種船名 遊漁船第六十三貴洋丸 漁船第56榮徳丸
総トン数 4.9トン 4.9トン
全長 15.38メートル  
登録長   11.99メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 421キロワット 308キロワット

3 事実の経過
 第六十三貴洋丸(以下「貴洋丸」という。)は、FRP製の遊漁船で、A受審人が1人で乗り組み、釣り客4人を乗せ、船首0.1メートル船尾1.9メートルの喫水をもって、平成12年6月13日12時00分北海道釧路港を発し、14時30分北海道十勝港北東方5海里付近の漁場に到着して漂泊し、釣り客に釣りを行わせ、22時25分遊漁を切り上げて十勝港南防波堤灯台から048度(真方位、以下同じ。)2.8海里の地点を発進し、釧路港に向け帰航の途についた。
 発進時、A受審人は、霧のため視程が約300メートルに制限された状況のもと、針路をGPSプロッターに入力している知人鼻沖合のポイントに向かう049度に定めて自動操舵とし、航行中の動力船の灯火を表示したものの、霧中信号を行うことも安全な速力とすることもなく、機関を全速力前進にかけて22.0ノットの対地速力で、操舵室右舷側の椅子に腰を掛けて時折12海里レンジとしたレーダーを見て進行した。
 22時55分A受審人は、北海道広尾郡大樹町沖合に差し掛かったころ、前路に他船の映像を認めなくなったことからしばらくは大丈夫と思い、椅子に腰を掛けたままうつむいた姿勢で雑誌を読みながら続航した。
 A受審人は、23時14分半、十勝大津灯台から160度9.0海里の地点に達したとき、正船首2.0海里のところに、漂泊中の第56榮徳丸(以下「榮徳丸」という。)の映像をレーダーで探知でき、その後同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが、雑誌を読むことに没頭し、レーダーによる見張りを行わなかったので、この状況に気付かず、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また必要に応じて行きあしを停止することもなく進行中、23時20分十勝大津灯台から148度8.4海里の地点において、原針路、原速力のまま、貴洋丸の船首が榮徳丸の右舷中央部に、後方から77度の角度で衝突した。
 当時、天候は霧で風はほとんどなく、視程は約300メートルで、潮候は上げ潮の末期であった。
 また、榮徳丸は、さけ・ます流し網漁業及びさんま棒受け網漁業などに従事する軽合金製の漁船で、B受審人及び息子のC受審人ほか3人が乗り組み、さけ・ます流し網漁の目的で、船首0.6メートル船尾2.3メートルの喫水をもって、同月9日00時00分十勝港を発し、納沙布岬南方60海里付近の漁場に到着して操業を繰り返した。
 ところで、榮徳丸のさけ・ます流し網漁は、漁場で約1時間かけて投網を行い、投網後は網の端部に船体を繋いで5ないし6時間漂泊して待機したのち、約1時間半かけて揚網を行うものであった。
 B受審人は、越えて13日08時00分さけ及びます600キログラムを獲たところで、北海道中川郡豊頃町沖合に移動することにして漁場を発進し、18時00分十勝大津灯台から168度15.2海里の地点に至り、その後長さ約2海里の網4はえを北方に向け順次投網し、19時20分同灯台から144度7.5海里付近で投網を終え、網の端部に船首から長さ約50メートルのもやい索をとり、機関のクラッチを中立とし、航行中の動力船の灯火を表示したほか、船尾甲板上に4個の作業灯を点灯し、翌日の揚網時まで漂泊待機を開始した。
 20時ごろB受審人は、船橋当直をC受審人に委ねることにし、このとき霧模様で視程が約300メートルに狭められたが、同人が有資格者なので任せても大丈夫と思い、同人に対して霧中信号を行い、レーダーによる見張りを行うように指示することなく、降橋して船員室で休息した。
 こうしてC受審人は、単独で当直に就いたものの霧中信号を行わず、操舵室後部の寝台に腰を掛けて雑誌を読みながら、たまに3海里レンジとしたレーダーを見て当直に当たり、21時10分ごろ依然視程が約300メートルに狭められていたが、所定の灯火や作業灯を点灯して漂泊している自船を航行船が避けるものと思い、約2時間後に起きるつもりで目覚ましをかけて寝台で休息し、レーダーによる見張りを行わなかった。
 23時14分半、C受審人は、十勝大津灯台から148度8.4海里の地点で、船首が126度に向いていたとき、右舷船尾77度2.0海里のところに東行する貴洋丸が存在し、その後同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが、操舵室で仮眠していて、同船が接近したとき同船に対して電気ホーンを連続吹鳴するなどの注意喚起信号を行わずに漂泊中、榮徳丸は、126度を向いたまま前示のとおり衝突した。
 休息中のB受審人は、衝撃で目を覚まし、直ちに昇橋して衝突したことを知り、事後の措置に当たった。
 衝突の結果、貴洋丸は、船首部外板に亀裂を、榮徳丸は、右舷中央部外板及びブルワーク並びに操舵室右舷側に凹損を生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
 本件衝突は、夜間、霧のため視界が制限された北海道中川郡豊頃町沖合において、貴洋丸が、霧中信号を行わず、安全な速力とせず、レーダーによる見張り不十分で、榮徳丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを停止しなかったことによって発生したが、榮徳丸が、漁場で漂泊中、霧中信号を行わず、レーダーによる見張り不十分で、注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 榮徳丸の運航が適切でなかったのは、船長が、船橋当直者に対し、霧中信号を行うこと及びレーダーによる見張りを行うことについて指示しなかったことと、同当直者が、霧中信号を行わなかったこと及びレーダーによる見張りを行わなかったこととによるものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、霧のため視界が制限された北海道中川郡豊頃町沖合を東行する場合、船首方の榮徳丸を見落とすことのないよう、レーダーによる見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、いすに腰を掛けて雑誌を読むことに没頭し、レーダーによる見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、船首方の榮徳丸を見落とし、同船と著しく接近することを避けることができない状況となっていることに気付かず、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また必要に応じて行きあしを停止することなく進行して同船との衝突を招き、貴洋丸の船首部外板に亀裂を、また榮徳丸の右舷中央部外板及びブルワーク並びに操舵室右舷側に凹損をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、夜間、北海道中川郡豊頃町沖合でさけ・ます流し網漁に従事中、投網を終え漂泊待機を開始した後、船橋当直を機関長に委ねる場合、折から霧のため視界が制限される状態であったから、霧中信号を行い、レーダーによる見張りを行うよう指示すべき注意義務があった。ところが、同受審人は、機関長が有資格者なので任せておいても大丈夫と思い、霧中信号を行い、レーダーによる見張りを行うよう指示しなかった職務上の過失により、貴洋丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 C受審人は、夜間、北海道中川郡豊頃町沖合の漁場において漂泊待機中、霧のため視界が制限された状態で船橋当直に当たる場合、自船に接近する他船を察知できるよう、レーダーによる見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、所定の灯火や作業灯を点灯して漂泊している自船を航行船が避けるものと思い、操舵室で仮眠してレーダーによる見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、貴洋丸が右舷後方から接近した際に注意喚起信号を行うことなく同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 


参考図
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