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平成13年第二審第10号
件名

プレジャーボートラブグリーンVプレジャーボートシー・ホースVII衝突事件〔原審広島〕

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年2月13日

審判庁区分
高等海難審判庁(田邉行夫、山?重勝、森田秀彦、吉澤和彦、川本 豊)

理事官
上野延之

受審人
B 職名:シー・ホースVII船長 海技免状:四級小型船舶操縦士

指定海難関係人
A 職名:ラブグリーンV操縦者
C 職名:株式会社O運送社長

損害
ラ号・・・船首船底部に擦過傷
シ号・・・左舷前部に亀裂、操縦ハンドル曲損、船長が肝挫傷と記憶障害、操縦者が頚椎骨折により死亡

原因
ラ号・・・船員の常務(船間距離)不遵守
シ号・・・見張り不十分、船員の常務(前路進出)不遵守

二審請求者
理事官上中拓治、受審人B

主文

 本件衝突は、両船が遊走中、ラブグリーンVが、有資格者が乗り組まないで運航されたばかりか、シー・ホースVIIに対して安全な船間距離をとらなかったことと、シー・ホースVIIが、見張り不十分で、ラブグリーンVの船首方至近に向けて転針したこととによって発生したものである。
 受審人Bの四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年7月25日14時27分
 愛媛県小部湾九王海岸沖合

2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボート プレジャーボートシー・ホースVII
  ラブグリーンV  
全長 5.04メートル 2.86メートル
2.28メートル 1.01メートル
深さ 0.95メートル 0.40メートル
機関の種類 電気点火機関 電気点火機関
出力 179キロワット 80キロワット

3 事実の経過
 ラブグリーンV(以下「ラ号」という。)とシー・ホースVII(以下「シ号」という。)は、ヤマハ発動機株式会社が製造したFRP製プレジャーボートで、株式会社O運送が購入し、主として社員の福利厚生用に使用されていた。
 C指定海難関係人は、愛媛県小部湾南部の九王海岸沖合に、長さ12.10メートル幅1.70メートルと長さ9.45メートル幅2.42メートルの浮桟橋を長さ方向にロープで繋いで設置し、毎年夏季の休日ごとに、同桟橋上で、社員や知人らとともに、ラ号などを使用して船遊びを兼ねたバーベキューパーティー(以下「レジャー」という。)を主催していた。
 C指定海難関係人は、一級小型船舶操縦士の海技免状を受有し、プレジャーボートの操縦経験も豊富で、参加者にラ号やシ号を適宜使用させていたが、無資格者に対しては有資格者とともに乗船するように指導しており、平成11年7月25日11時ごろ、ラ号、シ号、シ号と同型船のシー・ホースVII及び交通船代わりとした漁船1隻を浮桟橋に係留してレジャーを開催した。
 A指定海難関係人は、株式会社O運送の子会社の社員で、レジャーの常連であり、海技免状を受有していなかったが、これまで有資格者とラ号に同乗して操縦の方法について数回指導を受けていた。
 A指定海難関係人は、同日11時ごろ九王海岸に到着してレジャーに加わり、浮桟橋の一隅でバーベキューを楽しんでいるうち、ラ号の機関の調子が悪いと聞いていたことを思い出し、機関の具合を確かめるため自身で操縦してみようと思い、C指定海難関係人や他の有資格者に告げずに、その場から離れた。
 ラ号は、最大搭載人員5人、最高速力約46ノットのウォータージェット推進のモーターボートで、A指定海難関係人が、初めて単独で乗船し、船首尾とも0.3メートルの等喫水をもって、14時25分ごろ来島梶取鼻灯台から137度(真方位、以下同じ。)2.4海里のところにある龍神社から058度110メートルの係留地点を発進した。
 A指定海難関係人は、発進後少しの間低速力で航走したのち、機関に異常がみられなかったので、増速しながら沖合に向かって遊走したところ、14時26分34秒龍神社から020度230メートルの地点に達したとき、右舷前方90メートルに、2人乗りして自船と同方向に北北西進する遊走中のシ号を初めて視認し、同船がまもなくゆっくりと右旋回を始めたところでこれと併走することを思い立ち、その後徐々に右舵をとり、同船の左舷側に向けて追尾を開始した。
 14時26分46秒A指定海難関係人は、龍神社から016度390メートルの地点で右旋回を止め、091度の針路として半速力前進より少し減じた19.5ノットの速力(対地速力、以下同じ。)としたとき、右舷船首33度45メートルのシ号が依然ゆっくりと右旋回中であることを認めた。
 14時26分50秒A指定海難関係人は、シ号との船間距離が30メートルとなったとき、同船に自船の存在を知らせるつもりで、備え付けの電気ホーンのスイッチを押したところ、故障していて作動せず、シ号が自船に気付いているかどうか不明であり、遊走中のシ号がどのような行動を取るか予測できないまま接近を続ければ、同船が急に左転するようなことがあると衝突の危険があったが、安全な船間距離をとることなく、更に接近した。
 A指定海難関係人は、14時26分54秒龍神社から027度420メートルの地点で、右舷船首28度15メートルのところでシ号が右旋回を止めるとともに減速し、自船と同じ針路となったのを認め、16.2ノットに減じたが、船間距離がなおも縮まり、同時27分直前、シ号が右舷前方約10メートルとなったとき、同船が突然左転を開始し、自船の船首方至近に向けて旋回してくるのに気付いたものの、どうすることもできず、14時27分00秒龍神社から033度440メートルの地点において、ラ号は、原針路、原速力のまま、その船首が、シ号の左舷船首部に直角に衝突した。
 当時、天候は晴で風力1の東北東の風が吹き、潮候は上げ潮の初期にあたり、視界は良好であった。
 また、シ号は、最大搭載人員2人、最高速力約47ノットのウォータージェット推進の水上オートバイで、操縦ハンドルにより船尾のジェットノズルの噴射方向を左右に変えて旋回し、同ハンドル右側グリップのスロットルレバーの握りの強弱によって速力を制御するようになっており、同ハンドルの後方から船尾にかけて跨乗式座席が装備されていた。
 B受審人は、平成8年8月に海技免状を取得して以来、水上オートバイの操縦経験を多く有し、C指定海難関係人の知人としてこれまでもしばしばレジャーに参加しており、同日11時過ぎに九王海岸に到着してレジャーに加わった。
 同日昼過ぎB受審人は、友人のTが九王海岸から約1海里離れた鴨池海岸で遊泳中であることを携帯電話で知り、C指定海難関係人が操縦するラ号で迎えに行き、同女とその友人の女性を乗せて14時ごろ浮桟橋に戻った。 
 その後C指定海難関係人は、仲間と談笑中、いつの間にかTが友人と2人でシ号に乗っているのに気付き、両人とも海技免状を受有していなかったので、B受審人に、無資格者だけで使用するのは危ないから同乗するように告げた。
 B受審人は、浮桟橋に戻ったシ号にTとともに乗り込む際、同人が操縦を希望し、前年数回水上オートバイの操縦を指導したこともあり、必要があれば後部座席からでも操縦ハンドルを操作できることから、同人を前部座席に座らせて操縦に当たらせることとし、自らは後部座席に座り、遊走するため、船首尾とも0.2メートルの等喫水をもって、14時24分ごろ龍神社から057度117メートルの係留地点を発進した。
 発進後B受審人は、T(以下「T操縦者」という。)に自由に増減速と旋回をさせたが、増減速がぎこちなく、操縦に不慣れであることを知り、同人の操縦を見守りながらしばらく浮桟橋付近で遊走したのち、北北西に向け航走した。
 14時26分34秒T操縦者は、龍神社から021度325メートルの地点に達したところで、ゆっくりと右旋回を開始し、同時26分46秒15.0ノットの速力で旋回していたとき、左舷船尾方45メートルにラ号が接近し、同船に追尾される態勢で進行した。
 14時26分50秒B受審人は、龍神社から025度407メートルの地点で、ラ号が左舷船尾方30メートルに接近したとき、T操縦者の操縦を見守って前路に注意を払っていたものの、乗船する際、周囲に走っている他船を見かけなかったことから、航走する他船はいないものと思い、後方の見張りを十分に行っていなかったので、ラ号の接近に気付かなかった。
 14時26分54秒T操縦者は、龍神社から029度420メートルの地点で、右旋回を止めて少し減速し、12.0ノットの速力、091度の針路となって両船が同じ針路となったとき、ラ号が左舷船尾28度15メートルまで迫り、更に船間距離が縮まる状況で続航した。
 14時27分直前シ号は、突然、ラ号の船首方至近に向けて加速しながら左転を始め、いったん上昇した速力が急旋回にともなって減少し、船首が90度回頭して001度を向き、約11ノットの速力となったとき、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、ラ号は、船首船底部などに擦過傷を生じ、シ号は、左舷前部に亀裂、操縦ハンドルに曲損などを生じた。
 また、シ号の乗船者全員は、衝突の衝撃で海中に投げ出され、間もなく事故を知って駆け付けたC指定海難関係人らに救助されて救急車で病院に搬送されたが、B受審人が約1箇月半の入院等を要する肝挫傷と記憶障害を負い、T操縦者(昭和48年2月5日生)が頚椎骨折により死亡した。

(原因)
 本件衝突は、愛媛県小部湾の九王海岸沖合において、両船が遊走中、ラ号が、有資格者が乗り組まないで運航されたばかりか、シ号に対して安全な船間距離をとらなかったことと、シ号が、見張り不十分で、ラ号の船首方至近に向けて転針したこととによって発生したものである。

(受審人等の所為)
 B受審人は、愛媛県小部湾の九王海岸沖合において、無資格のT操縦者と2人でシ号に乗船し、自らは後部座席に座り、前部座席のT操縦者に操縦させながら遊走する場合、後方から接近するラ号を見落とすことのないよう、後方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに同人は、乗船する際、周囲に走っている他船を見かけなかったことから、接近する他船はいないものと思い、後方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、左舷後方至近に接近したラ号に気付かず、同船の船首方至近に向けて急左転してラ号との衝突を招き、同船の船首船底部などに擦過傷を、またシ号の左舷前部に亀裂、操縦ハンドルに曲損などを生じさせ、自らが肝挫傷と記憶障害を負ったほか、T操縦者が頚椎骨折により死亡するに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 A指定海難関係人が、愛媛県小部湾の九王海岸沖合において、無資格のまま単独でラ号を操船したばかりか、遊走中のシ号に対して安全な船間距離をとらなかったことは、本件発生の原因となる。
 A指定海難関係人に対しては、勧告しない。
 C指定海難関係人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。

(参考) 原審裁決主文平成13年3月28日広審言渡
 本件衝突は、シー・ホースVIIが、見張り不十分で、左舷後方から無難に追い抜く態勢で接近するラブグリーンVの前路に進出したことによって発生したものである。
 受審人Bの四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。


参考図
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