(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年7月22日15時20分
愛媛県宇和島港
2 船舶の要目
船種船名 |
プレジャーボートヤマシタ |
全長 |
6.00メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
出力 |
44キロワット |
3 事実の経過
ヤマシタは、船体中央部に操舵室を有するFRP製プレジャーボートで、A受審人が1人で乗り組み、同乗者3人を乗せ、船首0.2メートル船尾0.5メートルの喫水をもって、平成12年7月22日15時08分愛媛県宇和島市本九島の係留地を発し、同県宇和島港に向かった。
ところで、A受審人は、発航に先立ち、同日12時ごろから親戚の法事に参列して平素の量を超えるビール1本と酒3合を飲酒し、15時ごろ法事が終わったところで、一緒に飲んでいた親戚の3人とともに宇和島市街でカラオケを楽しもうということになり、自らヤマシタを運航して宇和島港へ向かうこととした。しかし、同受審人は、すでに酒に酔っていて注意力が散漫となっていたにもかかわらず、平素ヤマシタを本九島と宇和島港間の交通手段として使用し、週に1回ぐらいの割合で同港へ出かけており、防波堤の位置などよく知っていたので、同港までの運航なら問題ないものと思い、発航を取り止めるなどの飲酒運航の防止措置をとらなかった。
こうして、発航したA受審人は、途中、隣接する九島漁港に寄港して給油をしたのち、15時15分同漁港を発進し、操舵室右舷側で舵輪の後方に立って操船に当たり、左横の同乗者の1人と雑談をしながら九島東岸に沿って進行し、15時18分わずか過ぎ宇和島港戎山防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)から250度(真方位、以下同じ。)850メートルの地点に達したとき、針路を020度に定め、機関を港内全速力前進にかけ、20.0ノットの対地速力で手動操舵により続航した。
15時18分半少し過ぎA受審人は、防波堤灯台から274度650メートルの地点で、陸岸までの距離を目測してゆっくりと宇和島港口へ向けて右転を始め、同時19分半わずか前防波堤灯台から311度340メートルの地点に達したとき、舵中央として針路を131度に転じたところ、平素より陸岸寄りの針路となっており、戎山防波堤先端付近へ向首し、その後同防波堤に接近する状況となったが、このことに気づかないまま進行した。
15時20分わずか前A受審人は、船首側にいた他の同乗者からの「危ない」との叫び声に驚いて前方を見たところ、船首至近に防波堤を認めたが、どうすることもできず、15時20分ヤマシタは、原針路、原速力のまま、その船首が防波堤灯台直下の戎山防波堤先端部の北西壁面にほぼ直角に衝突した。
当時、天候は晴で、風はなく、潮候は下げ潮の末期であった。
衝突の結果、ヤマシタは船首部を圧壊し、のち廃船とされた。また、A受審人は外傷性肝破裂を負い、同乗者全員はそれぞれ2週間の加療を要する打撲、挫創、骨折、裂創などを負った。
(原因)
本件防波堤衝突は、飲酒運航の防止措置が不十分で、宇和島市本九島から宇和島港に向かったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、法事に参列して飲酒したのち、自らヤマシタを運航して宇和島港へ向かうこととした場合、すでに酔っていて注意力が散漫となっていたのであるから、発航を取り止めるなどの飲酒運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、週に1回ぐらいの割合で宇和島港へ出かけており、防波堤の位置などよく知っていたので、同港までの運航なら問題ないものと思い、飲酒運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、酔った状態で発航し、平素より陸岸寄りの針路となり、防波堤へ向首接近していることに気づかないまま進行して防波堤との衝突を招き、ヤマシタの船首部を圧壊させ、自らは外傷性肝破裂を負い、同乗者全員に打撲、骨折、挫創などを負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
よって主文のとおり裁決する。
(参考)
本件防波堤衝突は、見張り不十分で、防波堤に向首したまま進行したことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。