(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年2月1日12時45分
長崎県臼浦港西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
引船第八好栄丸 |
起重機船第弐八金光丸 |
総トン数 |
97トン |
|
全長 |
28.25メートル |
40.00メートル |
幅 |
|
17.00メートル |
深さ |
|
3.00メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
|
出力 |
735キロワット |
|
船種船名 |
第三十二共漁丸 |
|
総トン数 |
13トン |
|
全長 |
18.25メートル |
|
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
|
出力 |
117キロワット |
|
3 事実の経過
第八好栄丸(以下「好栄丸」という。)は、船首船橋型鋼製引船で、A受審人ほか3人が乗り組み、空船で船首尾とも1.2メートルの等喫水となった、作業員3人乗り組みの起重機船第弐八金光丸(以下「金光丸」という。)を船尾に引き、船首1.8メートル船尾3.2メートルの喫水をもって、平成12年2月1日09時50分長崎県生月港を発し、平戸瀬戸経由で同県臼浦港に向かった。
ところで、A受審人は、長さ100メートルの合成繊維製曳航索を、好栄丸の船尾端から前方10メートルのところに設置された曳航フックと、金光丸の方形甲板の船首端中央に設置されたビットとの間にとり、好栄丸の船尾から金光丸の後端までの距離が130メートルの引船列(以下「好栄丸引船列」という。)で、その状態における好栄丸の船橋から金光丸の船首端までの距離を110メートルとしていた。
こうして、A受審人は、発航時から単独で操船に当たり、平戸瀬戸を南下したのち、12時30分下枯木島灯台から055度(真方位、以下同じ。)2.3海里の地点で、針路を150度に定め、機関を全速力前進にかけ、5.0ノットの対地速力で手動操舵によって進行した。
A受審人は、定針したとき、右舷船首4度3.9海里のところに反航する第三十二共漁丸(以下「共漁丸」という。)を初めて視認し、12時38分同船が右舷船首4度1.8海里となり、その後同船とほとんど真向かいに行き会い衝突のおそれがある態勢で接近することを認めたが、これまでも漁船の方から避けてくれていたので、いずれ共漁丸が避けるものと思い、同船の左舷側を通過することができるように針路を右に転じることなく、同じ針路のまま続航した。
A受審人は、12時44分半共漁丸が避航の気配を見せないまま右舷船首方140メートルに接近したのを認め、不安を感じて汽笛を連吹したが、依然として同船に避航の気配が見られないまま接近し、同時45分少し前同船が右舷船首至近に迫ったとき、左舵20度をとって左転し、続いて右舵20度をとって船尾を左に振り、自船と共漁丸との衝突は免れたものの、12時45分ほぼ原針路に戻った自船の船尾方110メートルの地点に当たる、下枯木島灯台から084度2.5海里の地点において、曳航していた金光丸の船首中央部が、原針路、原速力のまま、共漁丸の船首部に前方から6度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の北西風が吹き、潮候はほぼ低潮時で、視界は良好であった。
また、共漁丸は、ほぼ船体中央部に操舵室を備えたFRP製漁船で、B及びC両受審人が乗り組み、まき網船団の灯船として操業する目的で、船首0.5メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、同日12時00分佐世保市大潟町大崎の係留地を発し、僚船5隻とともに壱岐水道西部の二神島南方沖合の漁場に向かった。
ところで、B受審人は、漁場に着くと操業中は休息をとれないことから、係留地と漁場間の往路及び復路に休息をとれるよう、網船乗組員で海技免状を受有しているC受審人を、航行中の船橋当直要員として共漁丸に乗り組ませ、漁場では網船に移乗させて操業に従事させており、この状態を約1年間続けていた。
一方、C受審人は、当時、出漁の3日前から風邪を引き、会社に申し出て2日間の休暇を取り、受診して処方された風邪薬を服用し、前日は19時ごろ就寝して体調を整え、出漁当日、07時40分ごろ起床し、ほぼ回復したことから、いつものように共漁丸に乗り組んだが、朝食後及び昼食後の服薬を続けていた。
こうして、発航時から操船に当たっていたB受審人は、12時05分九十九島湾大崎防波堤を替わって外に出たところでC受審人に操船を委ねたが、前路の牛ケ首付近は他船の通航が多いところなので、在橋したまま続航した。
12時27分B受審人は、牛ケ首沖合に達したとき、前路に他船が見当たらなかったことから休息することとし、その際C受審人が風邪で前日休んだことを知っていたので、改めて同人に対して当直維持の可否を尋ねたところ、大丈夫との返事を得たこと、及び平素から眠気を催したときには知らせるように指示し、その指示が守られていたことから、そのまま操舵室後部のベッドで仮眠した。
C受審人は、風邪薬の服用によって眠気を催すことがあることに思い及ばず、B受審人から当直維持の可否を尋ねられたときにも大丈夫と答えたのみで、服薬していることを告げないまま単独で当直に就き、12時27分半牛ケ首灯台から235度380メートルの地点で、針路を336度に定め、機関を全速力前進にかけて11.0ノットの対地速力とし、窓や扉を閉めきった操舵室内で、舵輪後方の右舷寄りの椅子に腰をかけ、自動操舵によって進行した。
C受審人は、右舷前方のコウゴ瀬沖合で釣りをしながら停止している小舟の動静が気になっていたところ、12時37分その小舟を右舷側に200メートルばかり離して航過し、その後、付近に航行の妨げとなる他船が見当たらなくなり、陽光が操舵室内に差し込んで気持ちの良い室温となっていたうえ、海面状態も静かで船体の動揺もなかったことから気が緩み、更に服薬の影響もあって眠気を催すようになったが、前夜は十分睡眠をとっており、漁場まであと2時間ほどの航程なのでこのまま当直を続けることができると思い、指示されていたようにB受審人に報告するなどの居眠り運航防止措置をとらずに続航し、間もなく居眠りに陥った。
12時38分C受審人は、左舷船首2度1.8海里のところに好栄丸引船列を視認でき、その後ほとんど真向かいに行き会い衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、居眠りに陥っていてこれに気付かず、同引船列の左舷側を通過することができるように針路を右に転じることなく、同じ針路のまま進行した。
12時44分半C受審人は、金光丸を曳航した好栄丸がほぼ正船首方140メートルに接近したとき、好栄丸が汽笛を連吹し、その後左転を始めたが、これにも気付かず、原針路、原速力のまま続航し、前示のとおり衝突した。
B受審人は、衝撃を感じて衝突に気付き、事後の措置に当たった。
衝突の結果、好栄丸引船列は、金光丸の船首中央部に擦過傷を生じたのみであったが、共漁丸は、船首部を圧壊したうえ、C受審人が頭部打撲及び顔面裂創を負い、のち船体は修理された。
(原因)
本件衝突は、長崎県臼浦港西方沖合において、両船がほとんど真向かいに行き会い衝突のおそれがあるとき、好栄丸引船列が、共漁丸の左舷側を通過することができるように針路を右に転じなかったことと、共漁丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、好栄丸引船列の左舷側を通過することができるように針路を右に転じなかったこととによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、臼浦港西方沖合を南下中、ほとんど真向かいに行き会い衝突のおそれがある態勢で接近する共漁丸を認めた場合、同船の左舷側を通過することができるように針路を右に転じるべき注意義務があった。しかるに、同人は、これまでも漁船の方から避けてくれていたので、いずれ共漁丸が避けるものと思い、針路を右に転じなかった職務上の過失により、曳航していた金光丸と共漁丸との衝突を招き、金光丸の船首部に擦過傷を生じさせ、共漁丸の船首部を圧壊させたほか、C受審人に頭部打撲及び顔面裂創を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
C受審人は、単独で船橋当直に就き、椅子に腰をかけた姿勢で自動操舵として臼浦港西方沖合を北上中、眠気を催した場合、指示されていたように船長に報告するなどの居眠り運航防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、前夜は十分睡眠をとっており、漁場まであと2時間ほどの航程なのでこのまま当直を続けることができると思い、居眠り運航防止措置をとらなかった職務上の過失により、間もなく居眠りに陥り、ほとんど真向かいに行き会い衝突のおそれがある態勢で接近する好栄丸引船列の左舷側を通過することができるように針路を右に転じないまま進行して衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、自らも負傷するに至った。
以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。
(参考)原審裁決主文平成13年2月23日長審言渡
本件衝突は、両船が、ほとんど真向かいに行き会い衝突のおそれがある態勢で接近中、第三十二共漁丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、針路を右に転じなかったばかりか、衝突を避けるための措置をとらなかったことに因って発生したが、第八好栄丸引船列が、針路を右に転じなかったばかりか、衝突を避けるための措置が遅れたことも一因をなすものである。
受審人Cを戒告する。
受審人Aを戒告する。