(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年1月11日13時20分
青森県奥内漁港(飛鳥地区)東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
押船第八十八豊丸 |
総トン数 |
95トン |
全長 |
23.95メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,765キロワット |
3 事実の経過
第八十八豊丸(以下「豊丸」という。)は、主として陸奥湾内の港湾工事の作業に当たるクレーンを搭載した台船を各工事現場まで押航する業務に従事している鋼製押船で、A受審人ほか1人が乗り組み、青森県奥内漁港(飛鳥地区)で浚渫工事に従事中の同台船を押航する目的で、船首1.3メートル船尾3.4メートルの喫水をもって、平成13年1月11日08時40分青森港の西防波堤基部の係留地を発し、同漁港東方沖合に向かい、09時15分青森港木材港西防波堤灯台(以下「西防波堤灯台」という。)から330度(真方位、以下同じ。)2,500メートルの地点に至って右舷錨を投じ、待機のため錨泊を開始した。
ところで、青森湾湾奥西部の青森市左堰(ひだりぜき)から同市油川にかけての沖合には、周年ほたて貝養殖業用の第1種区画漁業の漁場が設定され、このことは海上保安庁水路部刊行の漁具定置箇所一覧図で一般に周知されており、同漁場は、青森市左堰と同市内真部との境に設置した標柱(以下「基点第53号」という。)から082度4,240メートルの地点(ア点)、同市前田字中野の中野川左岸に設置した標柱(以下「ク点」という。)から091度4,280メートルの地点(イ点)、同市西田沢と同市油川との境に設置した標柱(以下「サ点」という。)から055.5度3,850メートルの地点(ウ点)、同市油川の新田川左岸に設置した標柱(以下「基点第54号」という。)から046.5度2,700メートルの地点(以下「ケ点」という。)とウ点とを結ぶ直線上ケ点から180メートルの地点(エ点)、基点第54号から046.5度850メートルの地点(以下「コ点」という。)とカ点とを結ぶ直線上コ点から650メートルの地点(オ点)、サ点から055.5度850メートルの地点(カ点)、基点第53号から082度850メートルの地点(キ点)のア、イ、ウ、エ、オ、カ、キ及びア各点を順に結んだ線により囲まれた水域で、ア、キ各点を結ぶ線の南側に幅50メートル以上の水路及びウ、カ各点を結ぶ線を中央として幅100メートル以上の水路が設けられており、また、ア、イ、ウ、エ各点の線上の水路口の南側の点に縦、横各50センチメートル以上の赤色布地の標識が水面上1.5メートル以上の高さに設置されており、同じくア、イ、ウ、エ各点の線上の水路口の北側及びエ点には夜間発光する照明装置が設置されていた。
また、これより先A受審人は、同日06時40分豊丸に乗船したとき、船舶所有者から同船あてにファックスで送られた気象資料を見て同日午後には西寄りの風が強まることが予想できたので、5節所有の右舷錨鎖を4節まで延出して錨泊していた。
A受審人は、錨泊してから15分ないし20分の間隔で昇橋してレーダー監視をして守錨当直に当たっていたところ、13時ごろから天候が曇から雪に変わり、風も南寄りの風から西に変わって風力も4となり、更に風が強まり走錨するおそれがあったが、錨鎖を4節延出しているので大丈夫と思い、機関をいつでも使用できる状態にしなかったばかりか、13時05分小用のため降橋し、用事を済ませたが、レーダー監視を連続して行うなど守錨当直を適切に行うことなく、機関室に入り、機関長の整備作業を見るなどして時間を過ごした。
A受審人は、13時15分再び昇橋してレーダーを監視したところ、豊丸が東方に走錨していることに気付き、急いで機関長に機関の始動を指示したものの及ばず、13時20分西防波堤灯台から342度2,500メートルの地点において、豊丸は、270度を向首してその船尾がほたて貝養殖施設に乗り入れた。
当時、天候は雪で風力6の西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期で、青森県には風雪、波浪注意報が発表されていた。
その結果、豊丸に損傷はなかったが、ほたて貝養殖施設のロープ、網等を損傷した。
(原因)
本件養殖施設損傷は、強い西風が吹く青森県奥内漁港(飛鳥地区)東方沖合において錨泊中、機関をいつでも使用できる状態にしていなかったばかりか、レーダー監視を連続して行うなどの守錨当直が不適切で、走錨して養殖施設に進入したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、青森県奥内漁港(飛鳥地区)東方沖合において錨泊する場合、西風が強まることが予想されたのであるから、機関をいつでも使用できる状態にするとともに、早めに走錨を察知できるよう、レーダー監視を連続して行うなど守錨当直を適切に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、錨鎖を4節延出しているので大丈夫と思い、機関をいつでも使用できる状態としていなかったばかりか、一時船橋を離れて守錨当直を適切に行わなかった職務上の過失により、走錨していることに気付くのが遅れ、養殖施設への進入を招き、同施設のロープ、網等を損傷させるに至った。