(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年2月24日23時50分
宮城県石巻港石巻漁港沖
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第二十一錦照丸 |
総トン数 |
138トン |
全長 |
36.10メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
478キロワット |
3 事実の経過
第二十一錦照丸(以下「錦照丸」という。)は、いか一本釣り漁業に従事する鋼製漁船で、A受審人、B指定海難関係人ほか5人が乗り組み、船首1.0メートル、船尾2.8メートルの喫水をもって、平成11年2月19日10時00分青森県八戸港を出港し、岩手県久慈港から宮城県志津川港にかけての三陸沖合において南下しながら操業を続け、いか30トンを漁獲したところで、荒天避難のため、越えて同月24日13時00分北緯38度35分、東経143度10分の地点を発し、宮城県石巻港石巻漁港に向かった。
A受審人は、金華山沖合から雪となり、視界が制限されたなか、B指定海難関係人と共に船橋当直に当たり、牡鹿半島と網地島及び田代島との間を西航し、石巻漁港の魚市場前岸壁に着けることとして同漁港に接近し、23時33分石巻漁港西防波堤灯台(以下、防波堤、灯台及び灯浮標の名称については「石巻漁港」を省略する。)から174度(真方位、以下同じ。)2.2海里の地点に達したとき、乗組員に入港準備を指示するとともに、針路を西防波堤南側の沖防波堤東端を船首少し左方に見る001度に定め、機関を半速力前進にかけ、降雪が一層ひどくなり、視界が著しく制限されたなか、4.5ノットの対地速力で、レーダーにより前方に沖防波堤、西防波堤などを認めながら進行した。
その後A受審人は、石巻漁港に入港する際、自ら操船した経験が少なかったこと、B指定海難関係人が同漁港に幾度も入港した経験を有し、同漁港の事情に詳しかったことなどから、同指定海難関係人に操舵及び操船を任せ、自分は船橋右舷でレーダーを監視するとともに肉眼による見張りに当たった。
ところで、石巻漁港予定岸壁に至るには、沖合から沖第1号灯浮標と沖第2号灯浮標との間、沖防波堤東端、及び西防波堤と東防波堤との間をそれぞれ経由することとなるが、沖第1号灯浮標から沖防波堤東端までの水路の西側にはのり、かきなどの養殖施設(以下「養殖施設」という。)が存在しており、A受審人及びB指定海難関係人はこのことをよく知っていた。
こうして続航中、A受審人及びB指定海難関係人は、右舷船尾から同様に石巻漁港に入航する漁船の接近を認め、23時43分同指定海難関係人は、西防波堤灯台から172度1.5海里の地点で、同漁船が右舷至近を追い越す態勢となったことから危険を感じ、針路を332度に転じた。
A受審人は、やがて前示漁船が無難に追い越し、離れていくのを認めたが、B指定海難関係人に操船を任せているので大丈夫と思い、レーダーにより沖防波堤東端や西防波堤東端の方向を確かめるなどの針路の確認を行わなかったので、水路外の養殖施設に向く針路のままであることに気付かず、同指定海難関係人に沖防波堤東端を少し左方に見る適切な針路に復するよう指示せず、一方同指定海難関係人は、同漁船が離れていくのを認めたが、速やかに元の針路に復さず、レーダーでは沖第1号及び沖第2号灯浮標は雪や海面反射のため捕捉できない状況のところ、そのうち沖第1号灯浮標を視認できると思いながら、養殖施設に向く針路でいるうち、右舷に通過した沖第1号灯浮標を見落とし、養殖施設が近くなっていることに気付かないまま進行した。
23時50分少し前A受審人及びB指定海難関係人は、船首配置の乗組員の「網だ。停止。」という声で船首至近に養殖施設の浮標を認め、機関を停止したが、間に合わず、23時50分西防波堤灯台から181度1.0海里の地点において、錦照丸は、同針路、同速力で養殖施設に進入し、停止した。
当時、天候は雪で風力3の北西風が吹き、視程は約100メートルで、潮候は上げ潮の中央期であった。
A受審人は、機関をかけることはできないと判断し、投錨して夜明けを待ち、翌25日朝来援した漁船2隻により錦照丸を引き出し、予定の岸壁に着けた。
その結果、錦照丸には損傷はなかったが、養殖施設南東部分ののり網、防護棚などを損傷した。
(原因)
本件養殖施設損傷は、夜間、雪のため視界が著しく制限されたなか、宮城県石巻港石巻漁港に入航中、後方から追い越す漁船との接近を避けるため針路を変更し、同漁船が離れていった際、レーダーにより沖防波堤東端や西防波堤東端の方向を確かめるなどの針路の確認が不十分で、水路外の養殖施設に向首する針路のまま進行したことによって発生したものである。
(受審人等の所為)
A受審人は、夜間、雪のため視界が著しく制限されたなか、宮城県石巻港石巻漁港に入航中、自船を追い越す漁船との接近を避けるため針路を変更し、同漁船が離れていくのを認めた場合、適切な針路に復することができるよう、レーダーにより沖防波堤東端や西防波堤東端の方向を確かめるなどして針路の確認を行うべき注意義務があった。しかしながら、同受審人は、石巻漁港に幾度も入港した経験を有し、同漁港の事情に詳しい漁労長に操船を任せているので大丈夫と思い、針路の確認を行わなかった職務上の過失により、水路外の養殖施設に向首する針路のまま進行して同施設への進入を招き、同施設ののり網、防護棚などを損傷させるに至った。
B指定海難関係人が、夜間、雪のため視界が著しく制限されたなか、宮城県石巻港石巻漁港に操舵及び操船を任されて入航中、自船を追い越す漁船との接近を避けるため針路を変更し、同漁船が離れていくのを認めた際、速やかに元の針路に復さず、養殖施設に向首する針路のまま進行したことは、本件発生の原因となる。