日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 安全・運航阻害事件一覧 >  事件





平成13年那審第34号
件名

プレジャーボート丸真2号運航阻害事件

事件区分
安全・運航阻害事件
言渡年月日
平成13年11月28日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(平井 透、金城隆支、清重隆彦)

理事官
上原 直

受審人
A 職名:丸真2号船長 海技免状:四級小型船舶操縦士

損害
燃料切れ、主機が自停し、航行不能

原因
気象・海象に対する配慮不十分

主文

 本件運航阻害は、気象、海象に対する配慮が不十分で、視界不良により船位の確認手段がなくなる状況のもと、発航したことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年5月6日12時40分
 沖縄県那覇港北方沖合

2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボート丸真2号
全長 4.02メートル
機関の種類 電気点火機関
出力 36キロワット

3 事実の経過
 丸真2号(以下「丸真」という。)は、定員4名で乾燥重量が250キログラムのスズキ株式会社が製造したスティンガージェットS135型と称するFRP製プレジャーボートで、主機として同社が製造した05001J型と称する電気点火機関を備え、船体中央の操縦席の下に容量24リットルの燃料油タンクが備えられていた。
 主機は、ガソリンを使用燃料とする総排気量650立方センチメートルの水冷2サイクル2気筒エンジンで、操縦席の船尾方に配置され、ウォータジェットポンプを駆動して丸真を航走させるようになっていた。
 操縦ハンドルの前面には、主機の始動及び停止スイッチなどとともに計器盤が装備され、主機の回転数及び潤滑油量が表示され、主機過回転、潤滑油量低下及び冷却水高温度の警報装置が備えられていたものの、燃料油量計及び燃料油量低下の警報装置並びに速度計は備えられていなかった。また、丸真には、レーダー、衛星航法装置、マグネットコンパスなどの航海計器が備えられていなかったことから、船位の確認は目視によるほかなかった。
 燃料油タンクは、2個の取出口が設けられ、燃料油ホースの接続方法の変換で使用できる燃料油量を24リットルか15リットルかに選択でき、15リットルを選択した場合には残余の9リットルが予備燃料となるようになっており、丸真の同タンクは24リットル使用できるように同ホースが接続されていた。
 ところで、主機は、機関出力試験結果から燃料油量24リットルの場合、回転数毎分5,800で1時間強の連続運転が可能であり、A受審人も以前慶良間列島まで航走した際、回転数毎分5,000のとき約35キロメートル、約1時間の航走で燃料切れになることを確認していた。
 こうして、丸真は、A受審人ほか友人ら7人で行う1泊2日の舟遊びの目的で、それぞれに20リットルの予備燃料油を入れた缶2個を搭載したプレジャーボートドルフィン号(以下「ド号」という。)とともに平成13年5月5日11時00分日沖縄県宜野湾市に所在する宜野湾港マリーナを発し、那覇港西方沖合のナガンヌ島に向い、12時00分ナガンヌ島北西方灯標付近の暗礁に到着して釣りや素潜りを楽しんだのち同島に上陸して1泊した。
 A受審人は、翌6日08時15分丸真の燃料油タンクが満杯になるまで予備の燃料油缶から補給を行ったのち、ナガンヌ島北方で釣りを行うド号とは別に同島南方で素潜りを行うこととし、ナガンヌ島南西方灯標付近で12時00分に朝食兼昼食をとる目的でド号と待ち合わせることとした。
 A受審人は、丸真に単独で乗り組み、友人1人を乗せ、ド号の友人に携帯電話を携行することを勧められたが素潜りが目的であったことから断り、時計を持たないまま、また、丸真の船内が手狭であったことから、平素単独で航海するときには搭載していた予備燃料油缶をド号に残したまま、08時30分ド号とともに係船地を発し、同時40分ド号と東西に別れて潜水ポイントに向った。
 A受審人は、09時00分から11時00分頃まで2箇所の潜水ポイントで主機を停止し、錨泊して素潜りを行ったのち、船位が神山島に近づいていたことから、11時00分神山島灯台北西方約1キロメートルの地点に移動して主機を停止し、錨泊してかすかに視認できる待ち合わせ場所を監視しながら待機した。
 一方、ド号は、釣り場に到着して釣りの準備を行っているとき、09時30分雨が降り始めたことから、釣りを中止して丸真と合流しようとしたものの、ナガンヌ島と神山島との間の波浪が高く、航行できなかったので神山島北方沖合で待機していたとき同乗者が寒さに震えるようになったことから宜野湾港マリーナに帰ることとし、10時30分待機地点を発して11時30分同マリーナに到着した。
 待機中のA受審人は、朝食をとらなかったので空腹となったことからド号より先に帰ることとし、折からの霧雨による視界不良で平素目標としていた浦添市牧港に所在する発電所の煙突などの目標物が待機地点から視認できなかったものの、同地点から視認できた神山島灯台とナガンヌ島南西方灯標との相対位置から宜野湾港マリーナに至る針路を選定し、陸地に向って航走すればその内に目標物が見えるだろうと思い、視界が回復するまで待機を続け、陸上の目標物を視認したうえで発航するなど、気象、海象に対する配慮を十分に行うことなく、12時00分同地点から主機を回転数毎分5,800の全速力前進にかけて発航した。
 丸真は、時速約30キロメートルで東方に向って発航したものの、やがて後方の神山島灯台が霧雨で視認できなくなって針路が風浪の影響で徐々に左転するようになり、陸上の目標物が視認できないまま燃料切れとなり、12時40分残波岬灯台から真方位223度5.2海里の地点において、主機が自停して航行不能となった。
 当時、天候は霧雨で風力1の南南東風が吹き、海上はうねりがあり、視程は約3キロメートルであった。
 その結果、丸真は、船位不明のまま漂流を続け、翌7日16時00分たまたま沖縄県伊江島南西方沖合を航行中の漁船に発見救助されて沖縄県牧港漁港に引き付けられ、A受審人は来援した巡視船に移乗して同漁港に帰着した。

(原因)
 本件運航阻害は、神山島灯台北西方沖合を発航する際、気象、海象に対する配慮が不十分で、視界不良により船位の確認手段がなくなる状況のもと、発航して陸上の目標物が視認されないまま燃料切れとなったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、神山島灯台北西方沖合を発航する場合、船位の確認が目視によるほかなかったのであるから、視界が回復するまで待機を続け、陸上の目標物を視認したうえで発航するなど、気象、海象に対する配慮を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同受審人は、陸地に向って航走すればその内に目標物が見えるだろうと思い、気象、海象に対する配慮を十分に行わなかった職務上の過失により、視界不良により船位の確認手段がなくなる状況のもと、発航して陸上の目標物を視認できないまま燃料切れを生じさせ、主機の自停による航行不能を招き、漂流して漁船に救助されるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION