(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年1月25日14時30分
鹿児島県笠利湾
2 船舶の要目
船種船名 |
プレジャーボート海人 |
登録長 |
6.79メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
110キロワット |
3 事実の経過
海人は、平成元年12月に進水したFRP製プレジャーボートで、主機としてスウェーデン王国ボルボ・ペンタ社が製造したTAMD41A−J型と称するディーゼル機関を備え、同機をセルモータで始動するようになっていた。
電気系統は、並列に接続された直流電圧12ボルトの蓄電池2個から主機始動用セルモータ、航海灯、停泊灯、室内灯、ワイパー、電気ホーン、ビルジポンプなどのほか、株式会社光電製作所が製造したCVG−8080型と称する電源電圧が直流11ないし40ボルトで消費電力が約37ワットの魚群探知機兼衛星航法装置(以下「魚群探知機」という。)にも給電され、蓄電池は主機駆動の充電器で充電されるようになっていた。
蓄電池は、株式会社ユアサコーポレーションが製造した130F51型と称し、5時間率容量が96アンペア時で平成12年9月海人が購入されたとき、2個とも新品に取り替えられていた。
B指定海難関係人は、海人を購入して同年10月海上レジャーの目的でマリンクラブを設立し、会員を募り12月から同クラブを発足した。
マリンクラブは、入会金、年会費及び海人を会員に貸し出したときに使用料を徴収して海人の保船管理費用に充当するようしており、B指定海難関係人が機関整備などを業者に依頼するなどして保船管理を行い、会員は海人を借りて使用するのみで同管理には全く関与しないようになっていた。
ところで、蓄電池は、長期間充電不足のままで使用すると、極板に充電しても元に戻り難い白色の硫酸鉛の結晶が生じ、次第にその結晶が大きくなって性能低下を起こしたりすることから、蓄電池の管理として充電状態を十分に確認しておく必要があった。
B指定海難関係人は、蓄電池の管理にあたり、海人の1箇月平均約24時間の貸し出し中に主機を停止して魚群探知機が使用されることもあり、蓄電量が減少するおそれがあったものの、海人を使用しない間蓄電池の主電源のスイッチを遮断し、外観の点検を行うのみで、業者に蓄電池の管理要領について助言を求めるなどして、電解液の比重を測定して充電状態を確認するなど、蓄電池の管理を十分に行わないまま海人の貸し出しを続けていた。
こうして、マリンクラブから貸し出れた海人は、A受審人が単独で乗り組み、友人2人を乗せて同13年1月25日09時45分鹿児島県芦徳港を発し、釣りの目的で笠利湾内の釣り場に向った。
A受審人は、発航したとき魚群探知機のスイッチを入れ、10時05分最初の釣り場に至り、ポイントを探して見付けたのち主機を停止して風潮に流されながら10ないし20分間の釣りを行ったのち、主機を始動して潮上りする釣りを繰り返し、ポイントを5回変えて流されながらの釣りを合計約15回行った。
海人は、魚群探知機のスイッチが遮断されず、主機停止中に蓄電池が充電されないまま長時間魚群探知機が使用され続けたうえ、度重なる主機の始動で魚群探知機以外の電気機器を使用していなかったものの、蓄電量が減少していた蓄電池が過放電して主機が始動不能になるおそれのある状況となっていた。
A受審人は、それまで主機の始動が容易にできていたことから、主機停止中に魚群探知機を使用しても大丈夫と思い、主機を停止して蓄電池の充電を行っていないときには電力消費をできる限り少なくするなど、蓄電池の放電に対する配慮を十分に行うことなく、魚群探知機の使用を続けていた。
海人は、14時00分5回目の釣り場に至り、ここでの釣果が良かったことから帰途に就くこととし、主機の始動を試みたとき蓄電池が過放電しており、14時30分今井埼灯台から真方位091度1.9海里の地点において、主機が始動不能になり、航行不能となった。
当時、天候は曇で風力1の北西風が吹いていた。
この結果、海人は、携帯電話で救援を求めたのち投錨し、来援した巡視船に救助されて前肥田港に引き付けられ、のち蓄電池の新替え及び発電機の整備が行われた。
(原因)
本件運航阻害は、鹿児島県笠利湾内で釣りを行う際、蓄電池の放電に対する配慮が不十分で、蓄電池が過放電してセルモータ始動方式の主機が始動不能になったことによって発生したものである。
マリンクラブ経営者が、貸し出す所有船舶の保船管理を行う際、蓄電池の管理を十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
(受審人等の所為)
A受審人は、鹿児島県笠利湾内で釣りを行う場合、主機を停止して蓄電池を充電しないまま魚群探知機を長時間使用すると、蓄電池が過放電してセルモータ始動方式の主機が始動不能となるおそれがあったから、主機を停止して蓄電池の充電を行っていないときには電力消費をできる限り少なくするなど、蓄電池の放電に対する配慮を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、それまで主機の始動が容易にできていたことから、主機停止中に魚群探知機を使用しても大丈夫と思い、蓄電池の放電に対する配慮を十分に行わなかった職務上の過失により、魚群探知機を長時間使用し続け、蓄電池の過放電を生じさせ、主機が始動不能となる運航阻害を招き、救援を求めた巡視船に救助されるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が、貸し出す所有船舶の保船管理を行う場合、電解液の比重を測定して充電状態を確認するなど、蓄電池の管理を十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、勧告しない。
よって主文のとおり裁決する。