日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 安全・運航阻害事件一覧 >  事件





平成13年神審第1号(第1) 平成13年神審第2号(第2)
件名

(第1)貨物船第三眉山丸運航阻害事件
(第2)貨物船第三眉山丸機関損傷事件

(第1、第2)
事件区分
安全・運航阻害事件
言渡年月日
平成13年10月23日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(内山欽郎、阿部能正、西田克史)

理事官
杉崎忠志

受審人
A 職名:第三眉山丸機関長 海技免状:四級海技士(機関)(機関限定)

損害
(第1)A重油に水分が混入し、燃焼不良
(第2)継手のゴムエレメントが破断

原因
(第1)主機の燃料不良
(第2)主機駆動発電機用の弾性継手点検不十分

主文

(第1)
 本件運航阻害は、主機駆動発電機を単独で運転して航行中、水分を含んだ燃料油が主機に供給されたことにより、燃焼不良によって主機の回転数が著しく低下し、船内電源を喪失するとともに、主機が非常停止したことによって発生したものである。
(第2)
 本件機関損傷は、主機駆動発電機用の弾性継手の点検が不十分で、同継手のゴムエレメントに生じた亀裂が進行していたことと、主機駆動発電機の運転中に非常停止した主機を再始動する際、クラッチのかん・脱状態の確認が不十分で、クラッチのスイッチが入ったまま主機が始動されたこととによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
(第1)
 平成11年12月25日16時10分
 神奈川県三崎港東方沖合
(第2)
 平成11年12月25日16時40分
 神奈川県三崎港東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 貨物船第三眉山丸
総トン数 305トン
全長 61.550メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 735キロワット
回転数 毎分350

3 事実の経過
 第三眉山丸(以下「眉山丸」という。)は、平成5年5月に進水した船尾船橋型の鋼製貨物船で、燃料油貯蔵タンクとして、機関室前部隔壁船首側両舷に1番左舷及び同右舷燃料油タンク(以下、両タンクを「1番タンク」という。)を、機関室二重底両舷に2番左舷及び同右舷燃料油タンク(以下、両タンクを「2番タンク」という。)をそれぞれ設け、機関室には、下段中央部に減速逆転機付きのディーゼル機関を主機として装備し、その船首側に増速機を介して主機で駆動される交流発電機(以下「軸発電機」という。)を、左舷側に補機駆動の交流発電機(以下「補機駆動発電機」という。)をそれぞれ備え、主機及び補機の燃料油にはA重油を使用していた。
 主機の燃料油系統は、燃料油貯蔵タンクから主機・補機兼用の燃料油サービスタンク(以下「サービスタンク」という。)に送られたA重油が、燃料油こし器を経たのち、燃料油昇圧ポンプで昇圧されて各シリンダの燃料噴射ポンプ及び燃料噴射弁に供給されるようになっていた。また、サービスタンクは、容量が約800リットルで、電動の燃料油移送ポンプを自動発停させるフロートスイッチ2個が取り付けられ、油量を250から650リットルの間で自動制御するようになっていた。
 軸発電機用の増速機は、油圧式の発電機搭載型オメガクラッチ(以下「クラッチ」という。)を組み込んだ、新潟コンバーター株式会社製のAGAY80D−54型と称するもので、主機から弾性継手を介して伝達される入力を歯車によって増速し、クラッチを介して軸発電機を駆動するようになっていた。また、同増速機は、軸発電機の回転数を常時一定に保つ定周波装置として使用されており、主機の回転数変動及び軸発電機の負荷変動に対しては、常にクラッチがスリップ状態で運転されるが、主機の回転数が常用回転数以下に低下した場合には、スリップ代がなくなって、クラッチが直結状態になるようになっていた。一方、クラッチの操作は増速機用制御盤上のスイッチによる手動式で、同制御盤には、非常用バッテリーから直流24ボルトが電源として供給されていた。
 弾性継手は、日本ブルカン株式会社製のRATO−S 1521−BR2100型と称する高弾性ゴム継手で、同継手には、ゴムエレメント3個でドーナツ型を形成したものが180度位相をずらして2列組み合わされていた。
 A受審人は、平成8年3月から機関長として乗り組み、1人で各機器の運転及び保守管理に携わっており、通常航海中は、補機と軸発電機の並列運転ができないこともあって、常に軸発電機を単独で運転して船内電源を確保し、また、入港後には各燃料油タンク等の残油量を計測し、バラスト調整を行いながら運航に従事していた。
(第1)
 眉山丸は、運航者が燃料油を支給する契約で運航されていたことから、運航者支給の1番タンクのA重油のみを使用して運航していたが、2番タンクには、就航以来、船舶所有者が購入したA重油約8キロリットル(以下「キロ」という。)が使用されないまま貯蔵されており、タンク壁で結露した水分などが長期間の間に蓄積されたものか、水分が同タンク底部に溜まった状態となっていた。
 A受審人は、2番タンクのA重油をいつまでも放置しておくわけにはいかないと気にしていたところ、バラスト調整の関係もあって同油を使用する機会を得、船舶所有者の了解のもと、宮崎県細島港に入港した同11年12月19日、2番タンクのA重油の使用を開始した。
 A受審人は、2番タンクのA重油の劣化が心配だったこともあって、同油の連続使用は避け、使用タンクを適宜切り替えながら使用し、2番タンクの残油量が約4キロになった翌々21日、サービスタンク及び燃料油こし器のドレン抜きを行ったところ、ドレン量が1番タンクのA重油使用時と変わらず、その後はドレン抜きを行っていなかったものの、主機及び補機に異状が認められなかったことから、2番タンク底部に水分が溜まっていることを知る由もなかった。
 眉山丸は、A受審人ほか2人が乗り組み、空倉のまま、船首1.2メートル船尾3.3メートルの喫水をもって、同月25日13時50分京浜港横浜区を発し、残油量が1.3キロほどになった2番タンクのA重油を使用しながら、愛知県衣浦港に向かった。
 出港後、眉山丸は、船内電源を補機駆動発電機から軸発電機に切り替えたのち、主機を回転数毎分320の全速力前進にかけ、荒天模様の海上を航行中、船体が大きく動揺したとき、2番タンク底部に溜まっていた水分が、燃料油移送ポンプに吸引されてA重油と共にサービスタンクに送られ、水分を含んだA重油が主機に供給されたことにより、燃焼不良によって主機の回転数が著しく低下し、同日16時10分剱埼灯台から真方位193度600メートルの地点において、軸発電機の電圧低下で船内電源が喪失するとともに、間もなく、主機も保護装置が作動して非常停止し、運航不能となった。
 当時、天候は曇で風力5の南西風が吹き、海上には波高約4メートルの波浪があった。
 食堂で夕食の用意をしていたA受審人は、船内電源が喪失したことに気付いて機関室に急行し、直ちに補機駆動発電機を始動して船内電源を復旧させたのち、各警報装置をリセットして原因を調査したものの、特に異常が見当たらなかったことから、原因が燃料油にあると判断し、サービスタンク及び燃料油こし器でドレン抜きを行って、いつもよりドレン量が多いことを認めるとともに、更に、燃料噴射ポンプの空気抜きから排出したA重油に水分の混入を認めたので、A重油に水分が混入して主機の回転数が低下したことを知った。
(第2)
 軸発電機用弾性継手のゴムエレメントは、主にトルク変動対策として使用されているが、その損傷はほとんどがトルク変動に起因するもので、特にクラッチのスイッチが入ったまま主機の発停を行うと、同エレメントに大きな衝撃的トルク変動が作用するため、同エレメントに亀裂が生じているような場合には、短時間で破損するおそれがあった。一方、同継手の取扱説明書には、天然ゴムを素材とするゴムエレメントが、時間の経過や環境・負荷の状態によって次第に劣化し、硬化して傷や亀裂が発生するおそれがあることから、定期的に同エレメントの亀裂や永久変形等の有無及びその進行状況を点検し、同エレメントのいずれか1個でも取替え基準に達したら、同時に全エレメントを新替えするよう記載されていた。
 ところで、A受審人は、弾性継手にゴムエレメントが使用されていること及びクラッチが入ったまま主機を始動すると同エレメントに過大な力が作用することを知っていたことから、普段、主機の回転数が毎分300以上になってからクラッチのスイッチを入れるようにしていたものの、乗船以来、弾性継手の点検を十分に行っていなかったので、いつしかゴムエレメントに亀裂が生じ、同亀裂が進行する状況となっていたが、このことに気付いていなかった。
 A受審人は、主機燃料油系統のドレンを排出したのち、ドレン量がいつもより多い程度であったことから引き続き2番タンクのA重油を使用することとし、各部に異常がないことを確認して主機の始動準備に取り掛かったが、その際、クラッチが手動でしか脱にならないことを知っていたものの、早く主機を始動することに気を奪われ、クラッチのかん・脱状態を十分に確認しなかったので、クラッチのスイッチが入ったままであることに気付かぬまま主機を再始動した。
 こうして、眉山丸は、クラッチのスイッチが入ったまま主機が始動され、回転数が上昇したとき、弾性継手のゴムエレメントに過大な衝撃的トルク変動が作用し、同日16時40分前示の地点において、主機側のゴムエレメント3個が破断した。
 A受審人は、増速機用制御盤でクラッチのスイッチを入れようとしたが、既にスイッチが入っており、次いで、周波数及び電圧が上昇していないことを認めたので、不審に思って増速機及び弾性継手を点検したところ、軸発電機が回転しておらず、弾性継手周辺に多量の粉状のゴムが飛び散り、同継手が高温になって異臭がしているのを認めるとともに、間もなく同継手の主機側3個のゴムエレメントが破断しているのを発見した。
 この結果、眉山丸は、軸発電機の運転が不能となったため、その後は補機駆動発電機を運転して運航を継続し、のち弾性継手のゴムエレメントを全て新替えした。

(原因)
(第1)
 本件運航阻害は、荒天模様の海上を軸発電機を単独で運転して航行中、船体が大きく動揺したとき、燃料油貯蔵タンク底部に溜まっていた水分が燃料油移送ポンプに吸引されてサービスタンクに送られ、水分を含んだ燃料油が主機に供給されたことにより、燃焼不良によって主機の回転数が著しく低下し、軸発電機の電圧低下で船内電源が喪失するとともに、保護装置が作動して主機が非常停止したことによって発生したものである。
(第2)
 本件機関損傷は、軸発電機用の弾性継手の点検が不十分で、同継手のゴムエレメントに生じた亀裂が進行していたことと、軸発電機を運転中に非常停止した主機を再始動する際、クラッチのかん・脱状態の確認が不十分で、クラッチのスイッチが入ったまま主機が始動されたこととによって発生したものである。

(受審人の所為)
(第1)
 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
(第2)
 A受審人は、軸発電機の運転中に非常停止した主機を再始動する場合、クラッチのスイッチが入ったまま主機を始動して、弾性継手のゴムエレメントに過大な衝撃的トルク変動を与えることのないよう、クラッチのかん・脱状態の確認を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、早く主機を始動することに気を奪われ、クラッチのかん・脱状態の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、クラッチのスイッチが入ったまま主機を始動して、弾性継手のゴムエレメントに過大な衝撃的トルク変動を与え、同エレメントを破断させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION