(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年11月7日08時40分
鹿児島県円港
2 船舶の要目
船種船名 |
作業船熊七号 |
登録長 |
9.60メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
183キロワット |
3 事実の経過
熊七号は、綱取り作業等に従事する鋼製の作業船で、Aが船長として1人で乗り組み、船首0.6メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、平成12年11月7日07時20分鹿児島県竜郷港を発し、R株式会社が所有する、長さ45.00メートルで、50トン消波ブロック9個を載せた台船第1かの号(以下「台船」という。)の綱取り作業を行う目的で、引船に曳航された台船に随行して同県円港に向かった。
ところで、熊七号は、船体中央部に甲板上高さ約80センチメートルの機関室囲壁があるだけで、操舵室はなく、同囲壁の後部に操舵輪が設置されていて、操縦者は立って操舵輪を操作するようになっていたが、その周囲には防護柵は設置されていなかった。
また、R株式会社安全管理者は、同社の土木、港湾及び建設の各部門の安全管理業務を行っていて、港湾部門では、各船に作業長を指名して毎月1回安全衛生委員会を開催し、作業所単位で毎月1回作業員全員を召集して安全上の注意点等を指導し、作業現場で毎日朝礼をひらいて安全に対する指導を行い、綱取り作業を行う際に台船からの係留索を引き出すときには作業船の船首部及び船尾部の各ビットに同索を係止して引き出すなど、安全に作業が行われるよう作業手順を示していた。一方、同社が所有している数隻の作業船の操縦位置周囲には防護柵を設置するなどして安全措置を講じていたが、平成12年6月熊七号を借り受けて同社の作業船として使用するにあたり、同船の操縦位置周囲に防護柵を設置するなど、安全措置を講じることなく、綱取り作業等に従事させていた。
A船長は、08時30分円港防波堤(西)改修工事現場に至り、作業員1人を乗せ、同防波堤東端の北60メートルの地点に左舷後部及び右舷前部の錨を投入して停泊していた台船の右舷前部の係留索を防波堤に取り、同時49分台船の左舷側後部に熊七号の左舷側を接舷し、太さ32ミリメートル長さ300メートルのワイヤの先に先端部1.5メートルがアイとなった太さ55ミリメートル長さ45メートルの合成繊維製先綱をシャックルで連結して構成され、左舷後部の係船機ドラムに巻き取られた係留索を、台船の左舷正横95メートルのところに設置された係留浮標に取る作業を始めた。
そして、A船長は、作業員が先綱の先端を船首部ビットに取ったのを見て、機関を前進に掛けて4.0ノットの対地速力で右舵一杯として係留浮標に向かった。
これを見た台船上の作業長は、作業手順に従って船尾部ビットにも止めるよう指示を出し、その指示を認めた熊七号の作業員は、作業手順に従って船尾部ビットに係留索を止める作業に取り掛かったが、すでに発進していたので同ビットに止めることができないまま、熊七号の右舷側前部に移動した。
熊七号は、係留索を左舷船尾から舷外に出し、台船の係船機ドラムから引き出しながら右回頭中、08時40分今井埼灯台から真方位257度1.9海里の地点において、先綱をドラムから引き出し終え、係船浮標に向って116度に向首したとき、連結部のシャックルのピンとナットの部分が井型フェアリーダに引っ掛かったかして繰り出しが止まり、係留索が緊張して熊七号の左舷船尾から右舷船尾に伸出方向が急激に変わり、立って操縦していたA船長が同索に撥ねられて右舷側海中に飛ばされた。
当時、天候は晴で風力2の南東風が吹き、潮候は下げ潮の末期であった。
その結果、A船長(昭和32年1月20日生、一級小型船舶操縦士免状受有)は、内臓破裂で死亡した。
安全管理者は、事件発生後、直ちに安全委員会を召集し、作業手順を守ることの重要性を厳しく指導し、熊七号の操縦位置周囲に防護柵を設置した。
(原因)
本件乗組員死亡は、円港において、台船の係留索を作業船を使用して係留浮標に取る際、安全に対する配慮が不十分で、作業手順通り、同索を作業船の船首部及び船尾部の各ビットに係止しないまま発進し、同索の連結部が引っ掛かったかして繰り出しが止まり、同索が緊張して伸出方向が急激に変わり、立って操縦していた乗組員が撥ねられたことと、安全管理者が、作業船の操縦位置周囲に防護柵を設置するなど、安全措置を講じなかったこととによって発生したものである。
(指定海難関係人の所為)
安全管理者が、操縦位置周囲に防護柵を設置するなど、安全措置を講じなかったことは本件発生の原因となる。
安全管理者に対しては、本件後、操縦位置周囲に防護柵を設置するなど、安全管理に努めている点に徴し勧告しない。
よって主文のとおり裁決する。