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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 機関損傷事件一覧 >  事件





平成13年門審第44号
件名

漁船龍喜丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成13年12月11日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(相田尚武、原 清澄、西村敏和)

理事官
中井 勤

受審人
A 職名:龍喜丸機関長 海技免状:六級海技士(機関)(機関限定)(履歴限定)

損害
前進用クラッチのスチールプレート及び摩擦板の焼損等

原因
主機逆転減速機の潤滑油の性状確認不十分

主文

 本件機関損傷は、主機逆転減速機の潤滑油の性状確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年2月23日12時00分
 宮崎県川南漁港北東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船龍喜丸
総トン数 14トン
全長 18.14メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 433キロワット
回転数 毎分1,900

3 事実の経過
 龍喜丸は、平成6年7月に進水した、日本近海の太平洋側を漁場としてまぐろはえ縄漁業に従事するFRP製漁船で、主機として、三菱重工業株式会社が製造した連続最大出力433キロワットのS6A3−MTK型と呼称するディーゼル機関と、MGN80X−1型と称する逆転減速機(以下「減速機」という。)とを組み合わせて装備し、操舵室に主機の遠隔操縦装置を備えていた。
 減速機は、主機クランク軸と弾性継手を介して結合された駆動歯車付入力軸、被動歯車付歯車軸、入力軸及び歯車軸上にブッシュを介して支持された前・後進用両小歯車、同両小歯車とかみ合う出力軸大歯車及び同大歯車と結合された出力軸などから構成され、入力軸及び歯車軸には、スチールプレート、摩擦板及び油圧ピストンなどが組み込まれた油圧湿式多板形の前・後進用クラッチがそれぞれ取り付けられていた。
 また、前・後進用両小歯車及び出力軸大歯車には、はすば歯車が用いられ、同両小歯車の船首側と船尾側に、歯車の回転により生じる軸方向の推力を受けるため、円すいころ軸受(以下「推力軸受」という。)がそれぞれ組み込まれていた。
 減速機の作動油及び潤滑油系統は、ケーシング底部油だめ内の約13リットルの油が、油こし器を経て作動油ポンプで吸引して加圧され、油冷却器を経由して作動油調圧弁で調圧されて前後進切換弁により前進または後進の各クラッチに送られるほか、潤滑油調圧弁で調圧され、クラッチ及びブッシュなどに注油されたのち、油だめに戻るようになっていたが、同油系統には、圧力計及びクラッチ潤滑油圧力低下警報装置は備えられていなかった。そして、歯車のかみ合い部及び各軸受の潤滑は、出力軸大歯車の回転によるはねかけ注油方式で行われていた。
 ところで、減速機の潤滑油の取替え、油こし器の洗浄及び各軸受の点検について、機関メーカーは、運転時間1,000時間ごとに潤滑油の取替え及び油こし器の洗浄を行うよう取扱説明書に記載し、また、各軸受の開放整備間隔を4年ごととしていた。
 A受審人は、就航時から機関長として乗り組み、機関の運転管理に当たり、減速機の潤滑油量の点検を出港前、漁場及び帰港後にそれぞれ行い、潤滑油を6箇月ごとに取り替え、油冷却器の掃除を2年ごとに行いながら、1航海が約20日間の操業を年間あたり15回ほど繰り返し、年間約5,300時間の主機の運転に従事していた。
 龍喜丸の減速機は、潤滑油の取替えが行われていたものの、ケーシング底部の掃除はなされなかったことから、長期間運転されるうちケーシング底部にスラッジなどが堆(たい)積するようになり、これが潤滑油系統に混入して前進用小歯車の船首側推力軸受の摩耗を進行させ、同小歯車が船首側に偏位して出力軸大歯車とのかみ合いが不良となり、両歯車に異常摩耗を生じ、摩耗粉などが同油系統に混入する状況となった。
 A受審人は、平成11年1月ごろ減速機の潤滑油を取り替えたとき、油こし器の洗浄を行わず、その後、前示推力軸受の損傷により前進用小歯車の偏位量が増大し、同小歯車及び出力軸大歯車の摩耗が進行して両歯車の歯先が欠損し、金属片及び摩耗粉が潤滑油系統に混入する状況となったが、潤滑油量の点検時に検油棒に付着した油を一見して性状に問題はないものと思い、油こし器を開放するなどして潤滑油の性状を十分に確認することなく、操業を続けていたことから、油こし器が目詰まり気味となっていることに気付かなかった。
 こうして、龍喜丸は、定期整備の船底洗いを終え、A受審人ほか3人が乗り組み、回航の目的で、平成11年2月23日09時30分宮崎県細島港の造船所を発し、同県川南漁港に向かい、主機を回転数毎分1,600にかけて約10ノットの速力で航行中、減速機の油こし器が目詰まりして作動油及び潤滑油圧力が著しく低下し、前進用クラッチのスチールプレートと摩擦板にすべりを生じるとともに、各軸受に焼付きを生じ、12時00分川南港南防波堤灯台から真方位025度2.0海里の地点において、船速が低下し、機関室に異臭が立ちこめた。
 当時、天候は晴で風力2の東南東風が吹き、海上は穏やかであった。
 A受審人は、甲板上で入港準備作業中、船長から主機の異状を知らされて機関室へ赴き、異臭の充満していることを認め、不具合箇所が分からなかったことから、運転不能と判断して援助を要請した。
 龍喜丸は、僚船に曳航(えいこう)されて川南漁港に引き付けられ、同港において減速機を開放した結果、前進用クラッチのスチールプレート及び摩擦板の焼損のほか、前・後進用両小歯車、出力軸大歯車、前進用小歯車の推力軸受を含む各軸受及び作動油ポンプの損傷などが判明し、のち損傷部が取り替えられた。

(原因)
 本件機関損傷は、主機逆転減速機の運転保守に当たり、潤滑油の性状確認が不十分で、スラッジなどのかみ込みにより前進用小歯車の船首側推力軸受の摩耗が進行し、同小歯車及び出力軸大歯車に異常摩耗を生じ、摩耗粉などが潤滑油系統に混入したまま運転が続けられ、油こし器の目詰まりにより、作動油及び潤滑油圧力が著しく低下したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、主機逆転減速機の運転保守に当たる場合、日常的な取扱いでは逆転減速機内部を詳しく点検できないのであるから、内部の異状を発見できるよう、油こし器を開放するなどして潤滑油の性状を十分に確認すべき注意義務があった。しかるに、同人は、潤滑油量の点検時に検油棒に付着した油を一見して性状に問題はないものと思い、油こし器を開放するなどして潤滑油の性状を十分に確認しなかった職務上の過失により、潤滑油系統に摩耗粉などが混入して油こし器が目詰まり気味となっていることに気付かないまま運転を続け、作動油及び潤滑油圧力の著しい低下を招き、前進用クラッチのスチールプレート及び摩擦板を焼損させ、前・後進用両小歯車、出力軸大歯車、各軸受及び作動油ポンプなどを損傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 





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