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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 機関損傷事件一覧 >  事件





平成13年神審第4号
件名

漁船第五地洋丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成13年12月18日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(内山欽郎、黒田 均、小金沢重充)

理事官
杉崎忠志

受審人
A 職名:第五地洋丸機関長 海技免状:二級海技士(機関)(機関限定)
B 職名:第五地洋丸一等機関士 海技免状:二級海技士(機関)(機関限定)

損害
ピストン及び過給機を損傷

原因
図面等による確認不十分、予備ピストンの点検不十分

主文

 本件機関損傷は、主機の予備ピストンを組み立てるにあたり、図面等による確認が不十分で、内部金物が装着されないままピストンが組み立てられたうえ、主機のピストンを予備ピストンと取り替える際、予備ピストンの点検が不十分で、内部金物が装着されていない同ピストンが主機に組み込まれたことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年3月12日15時15分(船内時刻)
 フォークランド諸島北方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第五地洋丸
総トン数 3,086トン
全長 93.50メートル
機関の種類 過給機付2サイクル7シリンダ・ディーゼル機関
出力 3,603キロワット
回転数 毎分210

3 事実の経過
 第五地洋丸(以下「地洋丸」という。)は、昭和60年10月に進水した可変ピッチプロペラを推進器とする鋼製漁船で、毎年1月末から10月初めごろまで、南氷洋での遠洋底びき網漁業及びフォークランド諸島周辺海域でのいか一本釣り漁業に従事していた。
 地洋丸の主機は、神戸発動機株式会社が製造した7UEC37L型と称するユニフロー掃気方式のディーゼル機関で、右舷側に掃気トランク及びその上方に排気静圧管を配置し、排気静圧管の船尾側上方に排気ガスタービン過給機(以下「過給機」という。)を、掃気トランク船首側上部に電動式補助ブロワ2台をそれぞれ設け、各シリンダには船尾側を1番として7番までの順番号が付されていた。
 主機のピストンは、直径370ミリメートル(以下「ミリ」という。)の特殊鋼製のピストンクラウン(以下「クラウン」という。)と鋳鉄製のピストンスカート(以下「スカート」という。)及びクラウン内部に装着される鋳鉄製の内部金物で構成され、内部金物が3本の六角穴付ボルトでクラウン内面に、クラウンが内部金物を介して6本の植込みボルト及び特殊ナットで鍛鋼製のピストン棒フランジに、スカートが6本の針金穴付ボルトでピストン棒フランジ下面にそれぞれ取付けられる構造で、クラウンには4本のピストンリングが装着されるようになっていた。
 ところで、ピストンの組立図には、クラウンに内部金物をはめ込んだときはクラウン内面上部と内部金物の隙間(以下「隙間A」という。)を確認すること、及びピストンを組み立てるとクラウン下面とスカート上面との間に約2ミリの隙間が生じることなどが記載されており、同図は地洋丸にも備え付けられていた。
 一方、ピストンの冷却は、油冷却方式で、ピストン棒中心部に挿入されたピストン棒内管からクラウン内部に流入したピストン冷却油が、クラウン内部を冷却したのち、同内管とピストン棒との隙間を通ってクランクケースに戻るようになっており、クラウン内面とピストン棒フランジ上面とで形成される冷却室の油密は、ピストン棒フランジ側面の溝に装着された2本のD形ゴムリング及び各植込みボルト用特殊ナット部のゴムリング各1本で保たれるようになっていた。
 地洋丸は、乗組員が毎年1月上旬に係留地であるチリ共和国コキンボ港で乗船し、同国タルカワノ港の造船所に回航して船体整備を行ったのち、同月末から10月初めごろまで南氷洋及びフォークランド諸島周辺海域で操業を繰り返しており、通常航海中は、主機を回転数毎分202、プロペラ翼角を17.8度として運転し、主機については、10月中旬からの休漁期に、毎年全シリンダのピストン抜きを行い、2年ごとにピストンを開放するなどの整備を行っていた。
 ところで、A受審人は、昭和40年3月にマルハ株式会社に入社し、平成元年に一等機関士に昇格したもので、前示のピストン組立図などによって、クラウンへの内部金物装着後には隙間Aを確認する必要があること、及びピストンを組み立てるとクラウン下面とスカート上面との間に隙間が生じることなどを知っていたが、入社以来の同社所属船の主機が全てUEC型機関で同機関を取り扱った経験が長かったうえ、ピストンの組立にも慣れていたことから、自身のピストン組立時には、構造や必要計測箇所を図面等で事前に確かめるなどの確認を行っていなかったばかりか、内部金物装着後の隙間Aの計測なども行っていなかった。
 A受審人は、同6年から毎年地洋丸に一等機関士として乗り組み、担当機関士として主機の運転や保守管理に携わっていた同11年8月の航海中、操機長と2人で主機予備ピストンの組立作業を行い、ピストン組立後に針金で各締付ボルトの回り止めを行ったのち、同ピストンを予備として格納したが、予備ピストンの組立に当たって、今までに何回もピストンを組み立てて問題がなかったから大丈夫と思い、構造や必要計測箇所を事前に図面等で確かめるなどの確認を十分に行わなかったので、内部金物を入れ忘れたことに気付かなかった。
 B受審人は、前示のピストン組立時に二等機関士として地洋丸に乗船していたので、同作業に立ち会ってはいなかったものの、A受審人が主機の予備ピストンを組み立てたことを知っていた。また、同人は、主機取扱説明書や図面等によって、ピストンを組み立てるとクラウンとスカートの間に約2ミリの隙間が生じることを知っており、また、予備ピストンを使用する場合には同隙間を確認する必要があることも、以前に他の乗組員から聞いて知っていた。
 翌12年、地洋丸は、機関長に昇格したA受審人及び一等機関士に昇格したB受審人ほか38人が乗り組み、南氷洋でのオキアミ漁を終え、フォークランド諸島周辺海域でいか一本釣り漁を行ったのち、漁獲したいかを揚荷するため、3月11日23時10分(船内時刻、以下同じ。)フォークランド諸島バークレイサウンド港に錨泊中の仲積船に接舷した。
 A受審人は、主機の点検を行ったB受審人から4番ピストンの第1ピストンリングが切損している旨の報告を受けたので、作業時間などを考慮して同ピストンを予備ピストンと取り替えることとし、その旨をB受審人に指示したうえ、翌12日03時15分から機関部員を指揮して作業を開始したが、自分で組み立てた予備ピストンに不具合があるとは考えもしなかったので、同ピストンを使用するにあたってどこも点検しなかった。
 一方、B受審人は、主機の担当機関士として作業を行ったが、予備ピストンを使用するにあたり、同ピストンはA受審人が組み立てたものなので問題はあるまいと思い、クラウンとスカートとの隙間を確認するなど、同ピストンの点検を十分に行わなかったので、同隙間がほとんどない状態であることに気付かず、復旧作業を急ぐあまり、各締付ボルトの回り止め用針金も確認せずに同ピストンを4番シリンダに組み込み、10時30分作業を終了して燃料油及び冷却水の漏洩がないことを確認し、主機をターニングしながら潤滑油ポンプを運転してランタンスペース点検穴から油漏れがないことなどを確認したのち、主機に異常がない旨をA受審人に報告した。
 こうして、地洋丸は、船首4.5メートル船尾6.7メートルの喫水をもって、同日10時45分バークレイサウンド港を発し、主機を低負荷で運転しながらフォークランド諸島北方の漁場に向かい、その後、主機の回転数及びプロペラ翼角を徐々に上げたのち、回転数を毎分202、プロペラ翼角を17.8度に設定して航行中、燃焼中の圧力や慣性力などの影響を受けて主機4番ピストンのスカート取付けボルトが伸び始め、クラウンが下方に移動したことによって燃焼が不良となり、14時56分主機4番シリンダ排気温度高温偏差警報が作動した。
 自室で休息していたA受審人は、当直中のB受審人から前示の警報が作動した旨の報告を受けるとともに、その後の計測で同シリンダの最高圧力が低下しているのを認めたため、点検が必要と判断し、15時ごろ船長に主機停止を要請した。
 その後、地洋丸は、主機を停止するためにプロペラ翼角を徐々に下げ始めたところ、スカート取付けボルトが切損してスカートが脱落し、ピストン棒上部フランジがクラウン内部に更に食い込んだことにより、クラウンの植込みボルト用特殊ナットの締付け力が緩んで同ボルト周囲からピストン冷却油が漏れ始め、排気静圧管に浸入した同油の一部が過給機の排気ガス出口ケーシング内で着火、爆発し、同日15時15分南緯50度52.7分西経58度24.9分の地点において、過給機が大音響を発して同ケーシングの破口部から火炎が噴出するとともに、主機が過給機潤滑油圧力低下で非常停止した。
 当時、天候は曇で風力3の北北東風が吹いていた。
 A受審人は、機関部員を指揮して過給機の消火活動を行ったのち、主機の点検を行い、4番ピストンのスカートが脱落しているのを認めたので、主機の運転は不可能と判断し、その旨を船長に報告した。
 地洋丸は、タグボートに曳航されてバークレイサウンド港に引き付けられ、同港で損傷したピストンを取り替えるなどの処置を施したのち、主機を無過給で運転してチリ共和国プンタアレナス港まで自力航行し、主機製造業者による調査の結果、過給機の排気ガス出口ケーシング、ロータ軸及びタービン翼などが、並びにピストンのクラウン、スカート及びピストン棒などがそれぞれ損傷しているのが判明したほか、クラウンを切断して内部金物が装着されていないことが確認され、のち損傷部品を新替えするなどの修理を行った。

(原因)
 本件機関損傷は、主機の予備ピストンを組み立てるにあたり、図面等による確認が不十分で、内部金物が装着されないままピストンが組み立てられたうえ、主機のピストンを予備ピストンと取り替える際、予備ピストンの点検が不十分で、内部金物が装着されていない同ピストンが主機に組み込まれ、主機の運転中にスカート取付けボルトが切損したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、主機の予備ピストンを組み立てる場合、部品の組み込み忘れなどの不具合が生じることのないよう、構造や必要計測箇所を事前に図面等で確かめるなどの確認を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、今までに何回もピストンを組み立てて問題がなかったから大丈夫と思い、図面等による確認を十分に行わなかった職務上の過失により、内部金物を装着しないままピストンを組み立て、同ピストンを組み込んだ主機を運転中、スカート取付けボルトが切損するとともに、過給機に浸入したピストン冷却油が排気ガス出口ケーシングで爆発する事態を招き、ピストン及び過給機を損傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、主機の担当機関士として、主機のピストンを予備ピストンと取り替える場合、クラウンとスカートの間隙が2ミリであること及び予備ピストンを使用するときは同隙間を確認する必要があることを知っていたのであるから、予備ピストンを使用する前に同隙間を確認するなど、予備ピストンの点検を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、機関長が組み立てたピストンだから問題はあるまいと思い、予備ピストンの点検を十分に行わなかった職務上の過失により、内部金物が装着されていない同ピストンを主機に組み込み、前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 





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